表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
175/180

【王位戦エントリー編】君なら、ブレイクスルーを起こせる 〜【3】と【12】と【13】〜【※】

※本エピソードには、一部、自傷やグロテスクに感じる可能性のある描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。

 ふーっとコーヒーを冷ましながら、イブが俺に話しかけた。


「お兄様は、誰とこちらへ?」

「俺の師匠のバロさんと、友達のルパタだよ」

「……お二人とも男性?」


 少し眉間に皺を寄せるイブ。

 

「もちろん」

「わかりましたわ。そういえば、ルパタ王子はニカさんの研究を手伝う間柄だと聞いておりますわ」


 彼女は、少し冷ましたコーヒーを、一気に飲み干した。


「苦いの、平気なのか?」

「えぇ。私の人生に比べたら、大したことないわ……。さて、行きましょうか?」


 サングラス越しでも、どこか憂いを帯びた表情を見せる彼女と共に、俺は病院へ足を踏み入れた。


「イブ、まずは俺に任せて」


 入院病棟の受付で、交渉を始めようとしていた俺たちの前に、先日の男性医療スタッフが現れた。


「あれ、君はザダ校の……」

「すみません。今日はお見舞いではなく、研究でやってきました」

「うん。白衣を着てるもんね。でも、本当に?」


 相手は半信半疑の様子だった。

 

「一応、これが証拠です」


 俺は例の研究取扱者の資格証を、白衣のポケットから取り出して提示する。


「げっ……本当だ……! でも、一体、今日はなぜ?」


 相手もそれが国家資格だと、ひとまず理解はしてくれたものの、まだ納得はしていない。


 俺は一歩踏み込み、交渉に出た。


「先日、病室に伺った際、アロマの匂いがしました。誰が施したのかわかりませんが……あの揮発性成分は、現在の双子の容態において、代謝の負担になる懸念があります。これより、患者のQOL向上のための環境改善を兼ねた、機密研究を行います。成分濃度管理が極めてシビアですので、終了まで関係者以外の入室はご遠慮ください」


 専門用語を並べて畳み掛けると、受付の男も「研究なら仕方ないですね、どうぞ」とあっさり引き下がってくれた。


 こうして、俺たちは双子のいる病室へ向かって、廊下を歩いていた。


「うふふ。お兄様ったら、交渉ごとに慣れていますのね?」

「俺も、これまでの人生で苦い経験があったからな。研究成果の横取りとか」

「へぇ、私と同じね」

「あぁ。苦い人生を味わってきたからこそ、大切な命を救うことの重みが分かると思うんだ。俺も、君も。さてと……」


 アンズと来た時よりも、ドアノブを握る手は軽く感じられた。

 

 だが、ドアを閉めた直後――突如として、全身にずしりと圧力が加わる。


「ぐっ……!」

「素晴らしい。結界を張ってくれたわ!」


 俺が膝をつきそうになっている一方で、イブは感心して目を輝かせる。

 

「そうか。俺には結界が見えないんだが……」

「お任せくださいな。見えなくても、声が聞こえれば、大丈夫ですわ」


 イブに促され、耳を澄ます。


『二人ともよろしく頼むよ』

『僕たちが守るからね』


 バロさんとルパタの声だ。

 

 頭の中へ直接響いてくる。

 

 二人が外を完全に封鎖してくれたのだと理解した。

 

 ありがたい。


「アダムお兄様。結界が張られたことですし、そろそろわたくしも……」

「頼む。俺は何をすれば?」

「いてくれるだけでも心強いの。本格的な回復魔法を使うのは、今回が初めてだから」

「えっ」

 

 予想外の告白に、一瞬だけ思考がフリーズした。

 

 しかし、ここで「なぜ無茶をした?」などと野暮なことは絶対に言わない。


 前世から地道に仮説と検証を繰り返してきた研究者として、今の俺にできるのは、彼女の背中を押すことだけだ。


「できるよ。君なら、ブレイクスルーを起こせる」

「あぁっ……!」


 今度はイブの方が息を呑んだ。

 彼女は俺から視線を外すように、双子が眠っているベッドの方へ進んでいく。


「ん、どうした?」

「な、なんでもないの。それより、お兄様はグロいの大丈夫かしら?」

「平気だが、どうして?」


 きょとんとする俺に、イブは苦笑いした。

 

「理由を伝えるわ。王族同士で回復魔法を使う場合、お互いが持つアザを触れ合わせないといけないの」

「あー、そういや聞いたことがあるな。でも、双子は人間だからアザがないんじゃ……」

「双子はもう、人間じゃないわ。ほら見て。あるのよ、王族のアザが」


 イブが双子の手のひらを上に向ける。

 

 シロの左手には【12】、クロの右手にも同様に【13】とナンバリングされたアザが、赤く浮き上がっていた。


「触れ合わせるって、双子同士で……?」

「双子だけじゃないわ。私のアザも、そこへ重ね合わせないといけなくてよ」


 俺の知る限り、イブの【3】の数字が刻まれているのは――彼女の右眼だ。


 案の定、イブは双子の手を離すと、スポーツサングラスを外した。


「ちょっと驚かせますわね」

 

 イブは自身の右瞼を指で押し開く。


 そして、慣れた手つきで右目に触れると、ゆっくりと引き抜いた。


「痛くないのか?!」

「えぇ。もう取れましたので」


 ポトン……と、彼女の白い手のひらに落ちたのは、()()だった。


「私も最近まで、自分の右目が義眼だったとは知らなかったの。だから、お兄様が驚かれるのも、よくわかりますわ……」


 一呼吸置いたイブは、「回復魔法をしますわ」とだけ告げて、詠唱を口にすることもなく、双子のアザへ直接【3】の眼球を押し当てた。


 刹那、一室が白い光で覆われる。


 その光の中で、俺はある人物の後ろ姿が、見えた気がした。


 真紅色の髪に、白衣を纏った男。


 かつて、この世界でバロさんたちと共に、研究に没頭した――今は亡きロイド氏。


 輝く光の向こう側で、彼の幻影がイブの背後から俺たちを応援していて……錯覚だと分かっていても、俺は確かに頷いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
イブの覚悟がすごく伝わりました。 本格的な回復魔法は初めてだと不安を見せるところに、アダムが「君なら、ブレイクスルーを起こせる」と背中を押す流れがよかったです。 双子の手に「12」と「13」のアザが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ