【王位戦エントリー編】まぶっ! 〜俺は完全制覇を目指していますので〜
第4王子ノイラと別れ、アンズの家に戻った後の俺は、すぐにバロさんの修行に取り組んだ。
バロさんが得意とする魔法に関する法的根拠を叩き込まれたこともあり、すでに俺の頭はパンクしかけていた。
(うーん。大変だけど、王立科学院の承認が欲しいから、早く書類をまとめないとだなー)
王位戦に向けてやるべきことが山積みだ。
だが、その前に解決しておきたいことがあった。
イブとの再会から二日後の朝。
コーヒーを飲み終えたバロさんが、穏やかな口調で俺に言った。
「アダムくん、疲れたのだろう? 私と出かけようか」
「えっ」
意外だった。
基本的に、バロさんは一人で行動する派だと思っていたから。
「いいな! 私も行きたいー!」
バロさんの隣で、朝食のメロンパンを美味しそうに食べていたアンズが、身を乗り出して手を挙げた。
「アンズ、ごめんね。今日行く場所は研究取扱者など学者向けの施設なんだ。一般の方は立ち入りを禁じられている。また今度、どこかへ遊びに行こう」
「そうなんだ。りょーかい!」
バロさんが申し訳なさそうに手を合わせると、殊の外、アンズはすんなりと納得してくれた。
こうして、俺はバロさんの車に乗り込んだ。
(チャンス。まだ朝だし、これなら正午の約束に間に合う!)
俺の方から「寄りたい場所がある」と話を切り出すつもりでいたが、都合の良いことに、バロさんがナビで設定した目的地は、双子がいる病院だった。
「あれ。今から病院へ行くんですか?」
「あぁ、ニカから話は聞いているよ」
「じゃあ、さっきの学者向けの施設というのは……」
「嘘も方便と言うだろう? アンズには申し訳ないが、今日の目的は単なるお見舞いではないからね」
知らぬ間に、バロさんはニカさんと事前に連携を取っていたらしい。
話が早いと胸を撫で下ろしたのも束の間。
バロさんはナビの案内を平然と無視して、どんどん山奥の方へ車を走らせていく。
「あの、病院から離れている気が……」
「その通り。私以外にも、ある人物に防御魔法の護衛を頼もうと思ってね。だから、早く家を出たんだよ。おっと、ソア市に入ったから、そろそろ着くね」
「ソア市って、確か――」と言おうとする前に、バロさんが車を止めたのは、見覚えのある薬用植物園だった。
その入り口で待っていた人物を見て、俺は息を呑んだ。
尖った耳に、透き通るような銀髪。
いつもと違い、首の後ろで髪をひとつにまとめ、ブラウンのパーカーにジーンズ。
王族らしくない、ラフな格好をしていた。
「バロ様、今日はよろしくお願いいたします」
「ルパタくん、こちらこそ」
予想外だった。
まさか、王位戦の初戦相手である第7王子――ルパタを迎えに来たなんて。
意識したわけではないが、俺自身、険しい顔をしていたのかもしれない。
「アダムくん、元気?」
ルパタが、少し気まずそうな、どこか哀愁を帯びた表情で俺に話しかけてきた。
「久しぶり。俺は……なんとかやってる。ルパタは?」
「僕も、なんとか……」
二人して黙り込んでしまったところ、バロさんが空気を読んで、「出発しようか」と促してくれた。
道中、ルパタが気を遣ってか、色々と話を振ってくれた。
終いには、彼はふと本音を漏らした。
「僕は、争い事が本当に苦手なんだ。王位戦も棄権したいぐらいだよ。王になりたいなんて、これっぽっちも思っていないから……」
三族山の時も、ルパタは平和的な問題解決を望んでいた。
なんとも、彼らしい考えだ。
(どこかの『未来の王になる男』とは大違いだなぁ)
「……ルパタくん。その物言いはアダムくんに失礼だよ」
いきなり、バロさんが低い声で、ルパタを指摘し始めた。
「アダムくんは夢を叶えるために、王位一桁を目指しているのだよ。第7位の君が『戦う意思がない』などと口にするのは、アダムくんの覚悟を踏み躙ることと同じだ」
「そうでした。バロ様のおっしゃる通りです……すみません」
どうしようか。
一気に車内の雰囲気が悪くなった。
この状況では落ち着かない。
(まぁ、俺も本音を伝えればいいか)
「二人とも喧嘩しないでください。俺は完全制覇を目指していますので、相手が誰だろうと戦います」
「そうかい。すまなかったね、ルパタくん。私が大人げなかったよ」
「僕もすみませんでした……」
無事に二人が仲直りし終えたところで、ようやく病院の入り口が見えてきた。
「って、バロさん! ここで右折してください! 通り過ぎちゃいます!」
俺が早口で捲し立てると、バロさんはハンドルを大急ぎで右に切った。
「うぉおおおおお!」
「うぁあああああ!」
俺とルパタは情けない悲鳴を上げながら、なんとか病院近くの駐車場にたどり着いた。
「はぁ……」
病院に着いただけなのに、身も心もクタクタだ。
すぐ中へ入ろうとしたが、バロさんに制される。
「三人一斉に行ったら怪しまれる。私とルパタくんで先に病棟へ向かうから、アダムくんはあのカフェで待っていてくれ」
「わかりました。そうします」
尤もな判断だ。
病院隣接のカフェに入り、ホットコーヒーを注文した俺は、ソワソワしながらも、テーブルで待つことにした。
そこから、数分後。
突如、俺の隣に誰かが腰を下ろした。
「あら。私と同じコーヒーね」
ルパタと同じく、彼女もまた王族とは思えない格好をしていた。
黒いジャケットに、乗馬用のキュロットパンツとブーツ。
そして、今日は眼帯ではなく、真っ黒なスポーツサングラスをかけている。
「まぶっ!」
病院のカフェでは見かけない、イブのガチすぎる乗馬コーディネートを前にして、俺は危うくコーヒーを吹き出しそうになった。
<余談:タイトルの「まぶっ!」に込めた意味について>
今回のタイトル、そしてアダムの叫び「まぶっ!」
実は、「眩し過ぎる!」という直感的感想以外にも、もう一つの意味が。
本作の主人公「アダム」と「イブ」の名前の由来は、実在する抗体医薬品である「アダリムマブ」と「インフリキシマブ」をモデルにしています。
抗体医薬品は、名前の末尾に「〜mab(マブ=モノクローナル抗体の略)」をつけるという、世界共通の命名ルールがありました(数年前に改正されて、このルールは無くなりました……)
アダムのファミリーネームである「クローナル」も、ここからきています。
「アダリム・マブ」「インフリキシ・マブ」
二人が揃った回なので、タイトルを「まぶっ!」にしました。
次回からは、いよいよ双子を救う極秘作戦が始まります。
引き続き応援よろしくお願いいたします!




