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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ

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【王位戦エントリー編】ロキのよだれが止まらないんだよ、何をした!

 イブと契約を交わした俺は、双子のいる病室へ足を速めていた。


 廊下を歩いていると、見覚えのある後ろ姿が目に入った。


 紫髪でギターを背負い、誰かを見失ったのか不機嫌そうに、受付近くのソファに深く腰掛けている男性――バロさんがいた。


(もしかして、心配して迎えに来てくれたのか?)


 アンズのことを溺愛しているバロさんなら、あり得る話だ。


 俺はホッとして、後ろから声をかけた。


「バロさん、どうも」

「んー? 誰がバロおじさんだって?」


 振り返ったのは、バロさんよりもひと回り若い青年だった。

 整った顔立ちだが、値踏みするような目つき。

 俺のことをてっぺんからつま先までジロジロ見ていた。


「す、すみませんでした……! 人違いでした、すみません」


 平謝りしてすぐに青年から離れようとしたのだが、「Stop!」と挑戦的かつ刺々しい声で、ガシッと腕を掴まれた。


「人間くん。どうして、君がバロおじさんの名前を知っているのかな〜?」

「人間くん……?」

「君のことだよっ! 他に誰がいるっていうんだい?」


 いきなり「人間くん」と種族名で呼ばれるとは。

 でも、バロさんのことを「おじさん」と呼び、外見も瓜二つということは……十中八九、親戚なのだろう。


「バロさんの、ご親戚?」

「ピンポーン。正解! てか、さっきから絶妙に君と会話が噛み合わないんだけど?! 君、もしかして異世界人?」


 ギクリとした。


 初対面で会った人間に、「異世界人?」なんて、普通、聞かないだろう……。

 

 この青年、なんとなくだが、研究者のオオバコさんに似て、切れ味が鋭い思考の持ち主だ。


「まぁいいや。王族のおれを、一般家庭のバロおじさんと一緒にしないでくれる? 年齢も、身分も全然違うんだけど?」


 どうやら、身分の低い親戚に間違えられたことが相当お気に召さない様子だ。

 

「わかりました。以後、気をつけますので……」

 

 腕を掴んでいる青年の手を振り切ろうとしたけれど、何かが腕に纏わりついているようで、どれだけ力を込めてもびくともしない。


 一方の紫髪の青年は、余裕綽々たる面持ちでいた。


「へぇ、君にはロキが見えない?」

「ロキ?」

「黒猫の従魔だよー。ロキが君の腕を気に入っちゃったみたい」


 やはりバロさんの親戚だ。

 白猫のメンメンに対し、こちらは黒猫なのか。


 面白い対比だとは思ったが、一刻も早くアンズのところへ戻りたかった俺は、一か八かの賭けに出る。


(猫を笑わせたら、この拘束が緩むのか?)


 修行部屋で、バロさんに化けたメンメンが「にゃぁ」と鳴いていたのを思い出した。

 

 放さぬなら、鳴いてみよう、ホトトギス――いや、猫のロキ。


()()()〜るほど〜()()〜」

「っ! あっはっはっは!」


 この作戦は的中した。

 よほどツボにハマったのか、彼は腹を抱えて笑い始めた。

 その隙を突いて拘束から免れた俺は、全速力で病室へ戻り、扉を勢いよく開けた。


「アンズ、待たせた!」

「遅すぎるよ! アダム!」


 病室では、アンズがフグのように頬を膨らませて待っていた。


「ごめん、いろんなことが起きすぎてな……」

「私もだよ! まぁいいや。詳細は後で聞くから。とりあえず、お腹空いたっ!」

「わかった」


 アンズの切り替えの早さには、いつも救われる。

 俺は売店で買ったドーナツとクッキーをアンズと分け合うことにした。

 

 だが、袋を開けた時に、ふと違和感のある香りが鼻をかすめた。


(ん? アロマの香りがするな……。オレンジとローズマリーか?)


 不自然に漂う清潔な香りに首を傾げたものの、アンズが「早く!」と待てない様子だったので、まずは食事を優先した。


「うーん! このドーナツ、シナモンシュガーが効いて、おいしすぎ! あっという間に食べちゃった!」

「良かった。って、あれ。俺のクッキーが半分しかない……?」

「ごめん、アダム! お腹空いてたから、ついアダムのクッキーも食べちゃった……」

「大丈夫。食欲があるのは、いいことだから」


 お互い食べ終え、そろそろ帰ろうとしていた矢先、病室の扉がガタンッと開いた。


「ちょっと! 人間くん!」


 またしても、あの紫髪の青年だ。

 双子の前で大声を出す無神経さに、俺は嫌味を込めて言い返した。


「はぁ……しつこい男は嫌われますよ……」

「うるさい! ロキのよだれが止まらないんだよ、何をした!」


 青年はさっきまでの余裕を失い、必死の形相で訴えていた。

 俺には見えないが、腕の中の黒猫が異変をきたしているのだろう。


 そのまま、病室へ踏み込もうとする彼を、俺は力一杯押し戻した。


「この中に入るな!」

「はぁっ?! 意味不明なんだけど!」


 案の定、青年が納得しなかったので、説明することにした。


「従魔に猫の理屈がどこまで当てはまるのかはわからないけど……。一般的に、猫は肝臓で精油成分を代謝する能力が弱い。この病室に充満しているオレンジやローズマリーの成分を吸い込めば、流涎(りゅうぜん)はもちろん、最悪の場合は肝機能障害を起こす可能性がある!」

「ちょっと待って。じゃあ、どうすれば?」

「まずは濡れタオルで体を優しく拭くことだ。それから、すぐに従魔の専門医に診てもらうこと」

「はぁ……、わかったよ。けど、なんで病室にそんな匂いがしてるわけ?」


 その疑問は俺も同じだ。

 

「アンズ。俺がいない間、誰かがここに来たのか?」

「うん。シアン王子って人が来てたよ」

「シアンさんが……?」

 

 引っかかる。

 以前会った時の彼は、電子タバコの独特な匂いがしていたはずだ。


 なのに、今日は意図的にアロマの香りを纏っていたのか。


(一体、何が目的で……匂いを変えたんだ?)

<用語補足>

(1)猫と精油エッセンシャルオイルの危険性

アダムが語った通り、人間にとっては癒やしのアロマでも、猫にとっては命に関わる毒になることがあります。

猫は肝臓の解毒機能のうち、「グルクロン酸抱合」という代謝経路が非常に弱いです。

そのため、特定の植物成分を分解できず、体内に毒素として蓄積されてしまうのです。


(2)オレンジとローズマリーの成分

・オレンジ(柑橘系):果皮に含まれる「リモネン」は、猫にとって、皮膚刺激や肝毒性の原因になります。

・ローズマリー:猫にとって、「ケトン類」等が神経毒性や肝機能障害を引き起こす可能性があります。


※特に、病室のような密閉空間では成分が濃縮されやすく、体の小さな動物ほど影響を受けやすいのです。

 

(3)流涎りゅうぜん

「よだれを流すこと」を指す医学・獣医学用語です。


(4)アダム視点について

物語の中では「魔法」や「従魔」といったファンタジーな存在であっても、その「体」が生物学的なルールに従う限り、科学の知識は最強の武器になります!


<余談>

今回登場した、黒猫の従魔「ロキ」の名前は【ロキソプロフェン】が由来になっています。


次回以降もお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
バロさんだと思って声をかけたら別人、しかもクセ強めの王族という入りが楽しかったです。 「にゃ〜るほど〜にゃ〜」で切り抜けるアダムも、かなりらしくて笑いました(* >ω<)b また、猫とアロマの危険性に…
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