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外れ職《錬金術師》だったので、世界の果てまで錬成する  作者: nosic


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第7話 昇格と報酬、そして《百具操術》

ギルドへ戻った頃には、全員ひどい有様だった。


泥まみれの服に傷だらけの防具。盾剣士の盾には棍棒を受けた跡がいくつも残り、Dランクの試験官も額に布を巻いている。


受付嬢は俺たちを見るなり、目を見開いた。


「……本当に、Eランク昇格試験ですよね?」


「そのはずだったんだがな」


試験官が疲れた声で答える。


俺もそう思う。


ゴブリンを倒して帰ってくるはずが、最後は《重装種》との死闘になっていた。


試験官は受付嬢へ簡単に事情を伝えると、俺たち六人を振り返った。


「先に試験結果を伝える」


空気が少し変わった。


重装種が現れてからはそれどころじゃなかったが、元々は昇格試験だったのだ。


「本来の試験内容からは大きく外れた。だが、それまでの戦闘で必要なものは十分見た。討伐数、連携、周囲を見る力、継戦能力。全員、基準を満たしている」


若い剣士が僅かに身体を固くする。


「想定外の敵が出た後も戦線を維持した。もう一度ゴブリンを五体ずつ倒してこいと言うつもりもない」


そこで、試験官の表情が少しだけ緩んだ。


「六人とも合格だ」


「っしゃあ!」


若い剣士が真っ先に拳を突き上げた。


槍使いは大きく息を吐き、弓使いと魔術師は顔を見合わせて笑う。盾剣士もようやく肩の力を抜いた。


俺も胸の奥が少し熱くなった。


FからE。


たった一段。


それでも、冒険者になって、自分で戦って上がった一段だ。


受付嬢へ冒険者証を渡す。


しばらくして戻ってきた金属板には、新しいランクが刻まれていた。


――――――――――

【冒険者証】


アーサー・レイヴェルト

職業:《錬金術師》

ランク:E

――――――――――


「アーサーさん。Eランク昇格、おめでとうございます」


「ありがとうございます」


冒険者証をしまうと、若い剣士が横から覗き込んできた。


「これで俺と同じEランクだな」


「さっきまで一緒にFランクだっただろ」


「今日からの話をしてんだよ」


槍使いが吹き出した。


朝とは随分変わったものだ。


◇ ◇ ◇


「それと、話しておきたいことがあります」


俺が受付嬢へ声を掛けると、試験官もすぐに反応した。


受付で済ませる話ではないらしく、俺と試験官は奥の小部屋へ通された。受付嬢と、周辺の依頼や魔物情報を管理する職員も同席する。


俺は最初の依頼で起きたことから説明した。


Fランク向けの採取区域にEランク上位《鎧牙猪》が現れたこと。


そして討伐後、魔核の表面に一瞬だけ黒い靄を見たこと。


「前回の納品記録は残っています」


職員が資料を確認する。


「鎧牙猪が採取区域で討伐された件ですね。当時は縄張りを外れた個体の可能性もあるとして処理されています」


「俺も、一度だけなら気にしなかったと思います」


今度は試験官が口を開いた。


「だが今回は重装種だ。変異個体自体は存在するが、あの場所と試験難度で遭遇するような相手じゃない」


職員のペンが止まった。


「黒い靄は、今回も確認しましたか?」


「いえ。少なくとも俺は見てません」


「分かりました。現時点では関連付けず、別々の事実として記録します」


それでいい。


まだ同じ原因だと決める材料はない。


職員は周辺の魔物出現記録や最近の討伐報告を洗い直し、必要なら巡回や追加調査も検討すると約束した。


「何か分かったら教えてもらえますか?」


「もちろんです。今回は目撃者も多いですから」


異変については、これでギルドへ渡した。


新しい情報が出るまでは、俺は自分のやることをやればいい。


◇ ◇ ◇


次は報酬の精算だった。


受付カウンターには六人分の帳簿と硬貨袋が並んでいる。試験官はギルド側の監督役なので、分配には入らない。


受付嬢が帳簿を確認した。


「通常のゴブリン群討伐報酬が一人1,500ゴールド。《重装種》の討伐ボーナスが2,000ゴールドです」


合わせて3,500ゴールド。


「さらに、売却を希望された魔石や牙、皮、武器などの換金分が一人あたり約3,100ゴールド。合計6,600ゴールドになります」


俺の前へ硬貨袋が置かれた。


前回の1,700ゴールドとは、手にした重さから違う。


かなり稼いだ。


まあ、毎回重装種と戦うくらいなら安くていいけど。


「売却しなかった戦利品は、皆さんで分配してください」


別の台には、残しておいた素材が並べられていた。


俺がそちらへ目を向けると、若い剣士が笑う。


「お前、素材見てる時だけ分かりやすいな」


「何がだよ」


「全部欲しそうな顔してる」


否定はしない。


公平に分けるつもりだったが、盾剣士が重装種の黒い皮を持ち上げ、そのまま俺の方へ置いた。


「俺は使わない。売るだけなら、錬金術師が持ってた方がいいだろ」


「いいのか?」


「その代わり、現金は普通に六等分な」


「もちろん」


槍使いと弓使いも、自分で使う予定のない素材をこちらへ回してくれた。魔術師は魔石を一つだけ取り、残りは譲るという。


最後に若い剣士が、重装種の大きな牙を俺の取り分へ転がした。


「……これも持ってけよ」


「いいのか?」


「錬金術師は何かと素材が要るんだろ?」


「ありがとな」


「また面白いの作ったら見せろ。それでいい」


「それなら任せろ」


結局、現金は全員同額。


その上で、俺は素材を少し多めに受け取ることになった。


◇ ◇ ◇


宿へ戻る前に、今日の成果を確認する。


==========

【今回の獲得】


冒険者ランク:F → E

本体Lv:6

所持SP:9

受取金:6,600ゴールド


ゴブリン系魔石:6個

ゴブリン牙:8本

ゴブリン皮:4枚


《重装種》の黒い皮:1枚

《重装種》の大きな牙:1本

《重装種》の魔核:1個


その他の低級素材・武器:売却済み

==========


戦闘用の錬金アイテムは綺麗に使い切った。


次に依頼へ出るなら補充がいるし、増えた素材も調べておきたい。


「商会、寄ってくか」


俺はそのまま商業区へ向かった。


◇ ◇ ◇


何軒か回った末、大通りにある大きな商会へ入った。


素材、武器、防具、薬、錬金道具。冒険者向けの商品なら一通り揃っているらしく、店内を見ているだけでも結構面白い。


「いらっしゃいませ。何をお探しで?」


声を掛けてきたのは、愛想のいい商人だった。


「錬金素材を見たいです。戦闘用の消耗品を補充したくて」


「でしたらこちらへ」


案内された棚で素材を見ていると、一つ気になることがあった。


「こっちの方が品質は高いですよね?」


「ええ。ただ、その用途でしたらこちらで十分ですよ」


商人が示したのは、一段安い素材だった。


「高い方を勧めないんだな」


すると。


商人の口元が、にやりと上がった。


「必要もない物を売って、次から来てもらえなくなったら損でしょう?」


「……いい性格してるな」


「よく言われます」


悪びれもしない。


なるほど。


いい奴かどうかはともかく、商売相手としては信用できそうだ。


必要な素材をいくつか選びながら、店の奥へ目を向ける。


通常の商品棚とは別に、ガラスで囲われた一角があった。


「そっちは?」


「珍品類ですね。特殊装備、希少素材、スキルブックなどを扱っています」


「スキルブック?」


俺はそちらへ向かった。


一般スキルツリーを新しく得る方法の一つ。


今まで二枠とも空けたままにしていた理由でもある。


棚には何冊か並んでいた。


知らないもの。


前世で見覚えのあるもの。


何となく順番に見ていって――。


一冊の表紙を見た瞬間。


視線が戻った。


「…………え?」


見間違いかと思って、もう一度見る。


――――――――――

【SKILL BOOK:《百具操術》】

――――――――――


「――ほおおぁぁぁぁぁっ!?」


店内に声が響いた。


やばい。へんな声が出た。


思わず両手をガラス棚について、顔をぎりぎりまで近づける。


一般スキルは、最悪どこかで妥協することも考えていた。剣術でも、身体強化でも、今の俺に役立つものはいくらでもある。


でも。


《百具操術》があるなら、そんな必要はない。


錬金術で作った大量の道具を切り替えながら戦う、前世で何度も考えた完成形。


そこへ、一歩近づける。


「…………」


やばい。


俺、今どんな顔してる?


頬が勝手に緩む。


たぶん、ありえないくらいニヤけている。


その時、隣から穏やかな声がした。


「……大変お気に召されたようで」


商人を見る。


にこやかな笑顔。


いや。こいつ、絶対俺の顔を見て楽しんでるだろ


めちゃくちゃ欲しい。


「これ、いくらですか?」


商人の口元が、またにやりと上がった。


……まずい。


今の反応。


絶対、値段交渉で不利になるやつだ。


「150,000ゴールドです」


「…………」


急に現実へ戻された。


値札を見る。


【SKILL BOOK:《百具操術》】

価格:150,000ゴールド


さっき6,600ゴールドを受け取った時はかなり稼いだ気になっていたが、この一冊には遠く及ばない。


父から持たされた金と今までの残金を合わせても届かない。


「高いな……」


「レアモノですから。《百具操術》を在庫で置いている店も、そう多くありませんよ」


「取り置きは?」


「前金をいただければ。ただし、長期間は保証できません」


俺はもう一度《百具操術》を見る。


買うかどうかを悩む必要はない。


欲しい。


問題は150,000ゴールドをどう作るかだけだ。


普通に依頼を繰り返すより、もっと早い方法がある。


「この店、錬金術師の持ち込み品も買い取ってます?」


商人が僅かに眉を上げた。


「ええ。物と品質次第ですが」


「分かりました」


前世では、材料費のわりに妙に高く売れる錬金品がいくつかあった。


戦闘用品じゃない。


もっと身近で、使えばなくなるもの。


この世界でも同じ相場とは限らないが、試す価値は十分ある。


150,000ゴールド。


俺はガラスの向こうの《百具操術》を見て、口元を上げた。


「……稼ぐか」


売る物の候補なら。


もう頭に浮かんでいた。

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