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口うるさいサポートドローンと、餓死寸前のサイボーグ

「爆弾がシステムに接続されちゃったよぉ! もう絶対死ぬぅぅぅ!!」

 クラインは床に這いつくばり、ひたすら同じ言葉を繰り返していた。一方、謎の球体は空中に浮かんだまま、小さな光を点滅させ続けている。


『接続されたデバイスへの人格適応を完了しました』

『ピッ』


 無機質な合成音声が止むと同時、滑らかだった金属の球体がわずかに変形した。中央の金属板がスライドして開き、カメラレンズのような反射鏡と、その横で光る小さなステータスランプが姿を現す。起動直後の眩暈を振り払うかのようにブルブルと首(?)を振った後、床に伏せているクラインを見つけると、その球体はスーッと彼に近づいてきた。


「こんにちは」球体は丁寧な声で挨拶をした。しかし、パニックで耳がキーンとなっているクラインには何も聞こえない。球体は不思議そうに彼を覗き込んだ。


「こんにちは!」正気に戻すため、今度は少しボリュームを上げて挨拶した。


「うわぁぁぁ! 爆弾が喋った! 喋ったぁぁぁ!」

「私は爆弾ではありませんよ」

「あっち行け、この爆弾野郎! しっしっ!」


 クラインの大げさな反応に、宙に浮く球体はイライラし始めた(?)。


「だから爆弾じゃないって言ってるでしょーが!」


 怒りのあまり急に口調が変わる球体。それでもクラインが顔を伏せて騒ぎ続けるため、彼女(?)は彼の胴体にピタリと接近し、小さな棘のような棒を突き出すと、青年に向かって容赦なく電流を浴びせた。


『ビリィッ!』


「痛っ!!」クラインはエビのように跳ね上がった。

「ちょっと! 人の話を聞きなさいよ! 爆弾じゃないって言ってるでしょ!」


 クラインは壁に背中がぶつかるまで後ずさり、息を切らしながら、宙に浮く球体を極限の警戒心で見つめた。これだけ怯えきっているのだから、そう簡単に彼女の言葉を信じるはずもない。


「はぁ、まったく……。どうして私、こんな人とペアになっちゃったのかしら」


 プカプカと浮かびながら愚痴をこぼす球体を見て、クラインは密かに思った。『このやさぐれた性格、感情のない機械っていうよりヒステリックな人間みたいだな……』


「お、お前……一体何者なんだ?」クラインは視線をロックオンしたまま、絞り出すように尋ねた。

「お前? 何者? ちょっとは遠慮ってものを知ったらどうですか。少なくともレディに対する敬意を払って、もっと丁寧な言葉遣いをお願いしたいものです」


 クラインは困惑してパチパチと瞬きをした。俺は今、空飛ぶピンポン玉にマナー講座を受けているのか? しかも今、自分のことを「レディ」って言ったか? 空耳か? どこをどう見てもただの空飛ぶ球体じゃないか。クラインのような青年をドキドキさせるような曲線美など、微塵もない。ただの……丸い玉だ。


「……今、すごく失礼なこと考えてるでしょ」

 心を読まれたかのようなツッコミに、クラインはビクッと肩を揺らした。


「まあいいわ。安心してもらうために自己紹介しておくわね。私はネオゲート社の超ハイテク・超絶美少女サポートドローンよ! まだプロトタイプだけど、このには凄い機能がてんこ盛りなんだから!」


 球体は楽しげに自己紹介しながら、左右にピカピカと飛び回った。そして話し終えると、まるで観客からの拍手喝采を待つかのように空中でピタリと静止した。


「……あっそ」クラインの返事は塩対応だった。

「はぁ、もういいわ……。で、あなたは? 名前は?」予想外の反応に、球体はがっくりと肩(?)を落として尋ねた。

「クライン……クライン・クイントンだ」

「オッケー、クライン。で、あなたはどのモデルのロボット?」

「お、俺は人間だ。あー……いや、サイボーグ……かな」


「えっ、何ですって!」クラインの答えに驚いたのか、球体は即座に彼の周囲をグルグルと飛び回りながら観察し始めた。おかげでクラインは無性に居心地が悪くなった。


「わぁ、本当に開発成功してたんだ! でも、なんでこんなにガリガリなの? 唇もカッサカサじゃない。ちゃんと自分のお手入れしてる? 潤滑油でも塗る? 分けてあげようか?」


 球体がクラインに興味津々な様子を見て、彼は『どうやらコイツは爆弾じゃなさそうだな』と思い始めた。


「それにこれ何!? 頭の傷だけじゃなくて、腕にもこんな大きな傷があるじゃない! サイボーグのくせに機械部分を剥き出しにするなんて、マナー違反よ!」球体は、クラインの金属や回路が露出している腕と頭の傷の周りを飛び回った。

「お、男の勲章ってやつだよ」


 実際のところ、頭の傷ははしゃぎすぎて転んで頭を打っただけなのだが、少なくとも腕の傷は本物だ。半分嘘をついても、半分本当なら嘘にはならない……はずだ。


「はぁ、まったく……男の人ってこれだから」


 球体は本体から小さな白いチューブのような腕を伸ばし、クラインの腕と頭の傷に向かって何かをスプレーした。すると、その部分の皮膚が急速に再生し、元通りに覆い隠された。


 クラインは新品同様になった自分の腕を見つめ、えぐれていた部分が柔らかい皮膚で元通りになった額を手で撫でた。内心では『俺の超絶クールなサイボーグの傷跡が……』と少し残念に思ったが、これでこの空飛ぶピンポン玉が味方であることは確信できた。


「はい、完了。さて、それじゃああなたの『ミッション』を教えて。さっそく取り掛かりましょう」球体が尋ねた。


 ミッション? ミッションって何? 俺にミッションなんてあるのか? クラインはこの質問に戸惑い、口ごもった。自分にミッションがあるなんて本当に知らなかったのだ。何か見落としてるのか? もしかして、誰かがどこかに『まとめノート』を貼っておいてくれたりしたのか? それとも、マジでジョンとサラ・コナーを探さなきゃいけないのか?


「あー、えっと……わかんね」クラインはためらいがちに答えた。

「はあ!? わからない? 自分のミッションもわからないまま目覚めたって言うの!?」

「あぁ、えへへ」クラインは気まずそうに笑った。

「もうっ、これだから男って!」


 クラインは確信した。この球体の中身は、100%間違いなく『女性』だ。


「じゃあ、ついてきて」

「どこへ?」

「司令室よ」


 球体はクラインを部屋の外へと案内し始めた。クラインは急いで立ち上がり、後を追おうとしたが、部屋のすぐ前で力尽きて倒れ込んだ。


「どうしたの? 脚部パーツが破損してるの?」球体が戻ってきて尋ねた。

「力が出ない……腹減った……もう死にそうです、レディ」クラインは口をパクパクさせ、同時に腹の虫が盛大に鳴り響いた。

「ちょっと、バカじゃないの!? なんで何か食べに行かないのよ! サイボーグでも人間のパーツには栄養が必要なんだからね!」

「食べる……ものが……ない……」クラインは瀕死の状態で、途切れ途切れに答えた。

「だったら、先についてきなさい!」

「どこ……へ?」

「食堂よ!」


 ___________________


 2階の食堂にたどり着くまでに、クラインは脚の力が抜けて何度も倒れ込んだ。この廃墟となった研究施設の食堂は、何千人もの職員を収容できるほどの広さだった。しかし現在の姿は、分厚い埃と砂に覆われ、壁の古いコンクリートが剥がれ落ちた、静寂に包まれた廃墟だ。


 実はクラインも一度ここを探索したことがあり、何も残っていないことを知っていた。数百年という月日が、すべての食料をチリに変えてしまっていたのだ。それでも、空腹の青年は微かな希望を胸に、球体の後をついてきた。


「ここは……前に来た……空っぽだ」体力の限界を迎えたクラインは、もはやまともな文章を話すことすらできなかった。

「空っぽなわけないじゃない」球体のあっさりとした返答に、クラインはついに膝から崩れ落ちた。俺を無駄歩きさせたのかよ。

「あなたが食料の保管場所を知らないんだから、空っぽに見えて当然でしょ」


 球体は壁の隅へと浮遊し、小さな機械の腕を伸ばして壁の隙間に差し込んだ。突如、『ガチャン』という機械音が鳴り、続いて『プシュー!』と圧力が抜ける音が響いた。ただの硬いコンクリートだと思っていた壁がスライドし、扉となって開いたのだ。


 扉の奥から冷たい風が吹き抜け、力尽きた青年の顔を撫でる。それを見たクラインは、這いつくばるようにして中を覗き込んだ。しかし、中は暗闇に包まれており、何も見えなかった。


「あら、この部屋の照明は壊れてるみたいね」

 球体自身が発光し、小さな白い光源となって部屋全体を照らし出した。


 クラインの目の前に広がっていたのは、高さ5メートルほどまで積み上げられた無数の食品保管スペース。そして一番奥には、水がたっぷりと入った巨大な貯水タンクが鎮座していた。これらの保管スペースは、彼のカプセルにあったものと全く同じように、完璧な状態で保存されていた。唯一の違いは、ただの非常食だけでなく、多種多様な食べ物の名前が書かれたラベルが各スペースに貼られていたことだ。そのあまりの量に、クラインは驚愕のあまり開いた口が塞がらなかった。


「さあ、ビュッフェの準備は万端よ」


『ギュルルルルルルルルルルッ!!』

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