焼肉クエスト再び! 黒焦げの隕石(肉)と奇跡の生肉
クラインは救急箱から取り出した薬を塗り、ゴブリンの槍で負傷した脚の傷口に包帯を巻いた。傷がそれほど深くなかったのは不幸中の幸いだった。せいぜい、その脚に体重をかけるたびにチクッとした痛みを感じる程度だ。
あと数分もすれば暗闇が這い寄ってくるというのに、この研究施設全体の照明システムは完全に沈黙していた。建物中の電球など、とうの昔に寿命を迎えているのだろうとクラインは推測した。そのため、彼はカプセルから漏れる薄暗い光だけを頼りに、暗闇を凌ぐしかなかった。休眠システム自体は使い物にならなくなっていたが、他のメカニズムは未だに安定している。このカプセルが一体何で作られているのか、そしてなぜ自分が干からびたミイラにならずに生き延びられたのか、彼には見当もつかなかった。
答えは全くわからない。今できる唯一のことは、残りのレーションを腹に詰め込み、下の階の機関銃タレットの防衛システムがまだ正常に機能していることを心の底から祈りながら、カプセルのベッドに潜り込むことだけだった。
___________________
「マジかよ……一晩中、焼肉の夢見ちゃったじゃねえか……」
クラインは口から垂れたよだれを拭いながら目を覚ました。脚の傷に触れてみると痛みが消えていたため、試しに包帯を外してみる。
「おお……どうやら俺にはヒーリングファクター(超回復能力)が備わってるみたいだな」
彼が映画で見たような超スピードで傷が塞がるわけではなかったが、明らかに一般人よりは早いペースで治癒していた。まだ少し血が滲んではいるものの、これほど見事に傷が癒えているのは、おそらく自分の中に組み込まれたサイボーグのテクノロジーのおかげだろうと彼は考えた。
しかし、その身体修復システムをもってしても治せない箇所が一つだけあった。ゴブリンの攻撃を受けた右腕の皮膚だ。内部の金属骨格には一切のへこみもないのに、外側の人工皮膚は完全に剥がれ落ち、銀色に光る金属の層と、腕の中で作動している電子回路の基盤がはっきりと見えていた。
その姿は、彼が昔見たSF映画に出てくるロボットそのものだった。しかしクラインは心配するどころか、目をキラキラと輝かせながらその腕を動かし、傷跡をじっくりと観察した。まるで「こういう傷跡こそがサイボーグのロマンだろ!」とでも言わんばかりに。
「さてと、何が残ってるか確認してみるか」
クラインは食料を広げて数え始めた。残っているのは、
・棒状のレーション 7本
・大きな水のボトル 7本
・救急箱の薬 1箱
この薬が一体何のためのものかはわからなかったが、昨夜1錠飲んでみたところ、恐ろしくぐっすりと眠れた。
「どうやら、余裕こいていられるのもあと4日ってところか。おいおい、あのケチな連中、ずいぶんとしょぼい支給品しか残してくれなかったな」
冗談めかして言ってはいるものの、内心ではかなり焦っていた。ここには、ふらっと立ち寄って気軽にお弁当を買えるコンビニなんて存在しないのだ。仮にそんな店があったとしても、陳列されていた商品はとうの昔に土へと還っているだろう。周囲を見渡しても、廃墟と化したビル群と、実をつけない枯れ木ばかり。野生動物も、鳥の一羽すら見当たらない。いるのは、あとどれくらいウヨウヨしているかもわからないゴブリンだけだ。
「ゴブリン……だと?」
クラインは何かを閃き、大急ぎで建物の1階へと駆け下りた。
出入り口のドアの前で、クラインはあぐらをかくようにして、その場に倒れたままの4匹のゴブリンの残骸をじっと見つめた。彼は足で薬莢を払い除け、昨日自分に向かって投げられたゴブリンの槍を拾い上げて手に握った。そして、マシンガンが飛び出してきた天井の開口部を見上げ、その真下で槍を振り回してみた。
「動かねえな」
彼はもう一度、今度は飛び跳ねてリズムを取りながら槍を振り回してみた。しかし、タレットは彼の行動に対して何の反応も示さない。
クラインはパチパチと瞬きをし、何かを決心したかのように唇を固く結んだ。
「やってやるぜ! どうせ人はいつか死ぬんだ!」
彼は昨日と同じように両足で建物の外へ飛び出した。ただし今回は、恐怖のあまり目をギュッと瞑って。
5秒ほど経過した後、彼は片目だけを薄く開け、恐る恐るタレットの穴を振り返った。タレットは相変わらず何の反応も示していない。
「ウンガ、ウンガ、グワァァッ! 俺様はゴブリンだぞー!!」
クラインは槍を高く掲げ、有名な精神病院から脱走してきたばかりの狂人のように奇声を上げながら走り回った。しばらくの間、完全にイカれた行動を取り続け、息が上がり始めたが、憎きタレットは沈黙を保ったままだった。彼のことなど全く眼中にないらしい。
タレットが自分をハチの巣にする気がないと確信したクラインは、振り返り、地面に大の字になって倒れているゴブリンの死体を槍の先でツンツンと突いて、アイテムの探索を始めた。
「こいつら、生きてる間に一度でも風呂に入ったことあんのかよ!? クッソ臭えな!」
生きている時の体臭だけでも最悪だったというのに、機関銃で穴だらけのミンチにされた死体の惨状を目の当たりにして、クラインは吐き気を催し、本気でえづいた。
結局、彼の命を繋ぐような価値のあるアイテムは一つも見つからなかった。彼らの武器でさえ、弾丸の雨を浴びてスクラップと化していたのだ。無事に残ったのは、彼が今手にしているこの槍くらいのものだった。
「マジかよ、こいつら旅に出る前の『準備』って概念を知らねえのか? ポーションの一つも、おやつの一つも持ってねえ。最近のゴブリンは本当に使えねえな」
使えるものが何もないとわかると、クラインは仕方なくゴブリンの死体を通路から退かす作業に取り掛かった。このまま放置すれば、血の匂いに釣られて、さらに凶悪で危険なモンスターがここに集まってくるかもしれない。
「こんだけ穴だらけになっても、なんでこんなにクソ重てえんだよ……。畜生! ふんぬぅぅぅっ!!」
彼は持てる限りの体力を振り絞り、魂の抜けた体を無様な姿で引きずった。死に物狂いで力を込めるあまり、顔は青筋を立てて真っ赤になっている。
「あのポンコツ機関銃め! もう少し細かく刻んでくれりゃよかったのに!……ふんぎゃぁぁぁっ!」
しかし、彼がブツブツと文句を言いながら力任せに死体を引きずっていたその時。突然一陣の風が吹き抜け、空の薬莢をアスファルトの上で転がした。「カラカラッ、チャリンッ」という静寂を破るその音に、ビビリのクラインはビクッと体を震わせ、オネエのような悲鳴を上げた。
「す、すんません機関銃兄貴! 兄貴が一番強いッス!……」
ともあれ、クラインはタレットのAIシステムが完璧に機能していることを理解した。味方とそうでないものを正確に識別できるのだ。つまり、この機関銃タレットは今や彼の『最高の親友』となったわけである。
「よし、死体の片付けは完了。次は………焼肉だ!!」
彼が言う焼肉とは、昨日ゴブリンたちが放置していったあの肉のことだ。クラインはすぐさま身支度を整え、再び出発の準備をした。しかし今回は、出発前に槍の強度テストを怠らなかった。手慣れた様子で槍をひねり、曲げ、振り回してみる。
——その直後、槍の柄が見事に彼の鼻柱にクリーンヒットし、鼻血が勢いよく噴き出した。
「ふぁふぉふぃへはふぁほはひ(さっそく出鼻をくじかれた)」
クラインは鼻声で呟きながら、慌てて布切れを探して鼻血を詰めた。
言わずもがな、この槍の品質は最高だ。偉大なるクライン自身の愚かさによって、彼の鼻柱をへし折り、鼻血を吹き出させるほどの威力があるのだから。
「出発準備完了、バージョン2.0!」
クラインは気合を入れて叫び、意気揚々と出発した。今回の彼のターゲットは、彼自身まだ一口も食べていない、あの脂が乗ったジューシーで極上の「焼肉」なのだから。
___________________
目的地に到着したクラインは、前回よりもはるかに警戒を強めていた。手にはゴブリンの槍を固く握りしめ、周囲を鋭い視線でくまなくスキャンする。ゴブリンや他のモンスターの気配が全くないことを確信すると、彼は急いでゴブリンたちが残していった、すでに消えかかっている焚き火へと駆け寄った。
「お肉ちゃん、お肉ちゃん、お~肉ちゃ~ん♪」
クラインは興奮気味に鼻歌を歌いながら焚き火の中をあさった。しかし、最終的に彼を待ち受けていたのは絶望だった。
「嘘だろ、嘘だ嘘だ嘘だ! 全部真っ黒焦げじゃねえか、この牡蠣の卵とじ野郎!! ゴブリンの親は教えなかったのかよ!? 『家を出る時は必ず火の元を確認しなさい』ってな!! ああもう、クソッ!!」
クラインは心の底からの痛みを伴って悪態をついた。焚き火の中に残されていたのは、美味しいミディアムレアの肉などではなく、かつてジューシーだった肉の成れの果て――今や焦げ臭い黒いオーラを放つ、謎の黒い隕石へと姿を変えたものだった。
『プニッ』
「ん?」
彼の手が、焚き火の近くに置かれていたゴブリンの汚い赤い布包みに偶然触れた。それは彼の手によく馴染む、とても柔らかい感触だった。クラインは慌ててその布を解いてみた。
「あ……あ……おおおおおおっ!!!!」
その汚いゴブリンの包みの中に入っていたのは、赤く輝く、極上の生のブロック肉だったのだ! どうやらゴブリンさんたちは、持っていた肉をまだ全部焼き切ってはいなかったらしい。




