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偽りの平和と探索部隊の真意。そして再び現れた『東エリアの悪夢』

サイラスはこの世界が辿ってきた歴史について説明を始めた。ネオゲート社とメヴィスポータルの設立から始まり、人工知能『オーロラ』の暴走に至るまで。彼の語る内容はアルテミスが持っているデータと完全に一致しており、彼女はこの見知らぬ客人たちが嘘をついていないことを理解した。

さらに彼は、オーロラの暴走事件が人類社会にどれほど深い爪痕を残したかについても語った。機械に対する信頼は完全に崩壊し、やがて徹底した排斥運動へと発展した。その結果、この世界の科学技術は急速に衰退し、今や石器時代に近いレベルまで後退してしまったというのだ。


機械排斥の話を聞き、クラインは自分のサイボーグの腕をじっと見下ろした。

「……ってことは、君たちが言ってた『異端者』っていうのは……」

「そうです。『異端者』とは、オーロラが自身の軍隊として作り上げた機械兵器のことです。しかも、ここ数十年の間に、奴らは自らを自己進化させ、人類に取って代わろうとしているという報告もあります。……おそらくそれこそが、オーロラが最初から望んでいたことなのでしょう」


それを聞いたクラインは、背筋に悪寒が走るのを感じた。

「だから、君たちは『異端者』をあんなに警戒してたのか」

「それだけじゃない。奴らが現れる場所には、必ずと言っていいほどメヴィスポータルが開くんだ。だから俺たちは、奴らが自分たちの街に近づかないよう、常に警戒し続けなきゃならない」キリアンが補足した。


「街!?ってことは、他にも人間がたくさん生き残ってるのか!」

クラインは興奮した声で叫んだ。この世界にはまだ人間のコミュニティが存在しているのだ。人類は滅亡などしていなかった!

しかし、サイラスはキリアンを鋭く横目で睨みつけた。「この男の前でその話はするな」と無言で嗜めているようだった。


「もう一つ質問よろしいでしょうか? あなた方は『探索部隊』だと仰っていましたが、たったの3人しかいないのですか?」

アルテミスが探りを入れるように尋ねた。その言葉に、3人の客人は明らかに表情を曇らせた。


「出発した時は……14人いたんだ。でも、この都市の近くまで来たところで、ゴブリンの軍勢の襲撃を受けて……」

ミアの震える声と、溢れそうになる涙が、その先の言葉を飲み込ませた。


「多くの仲間を失いました。逃げ延びた者もいますが……彼らが今どうしているのか、生きているのかどうかすら分かりません」

ミアが言いよどんだ部分を、サイラスが静かに引き継いで答えた。


「なるほど……。それほどの犠牲を払ってまでこの都市へ来たということは、どうしても探し出さなければならない『目的の物』があった、ということですね? あなた方がこの街で求めているものとは、一体何なのですか?」

アルテミスが単刀直入に核心を突くと、サイラスは少しの間、沈黙した。


「隠し立てせずにすべてお話ししましょう。……近い将来、我々の街は異次元からやって来る魔物の大軍と、全面戦争を強いられる可能性があります。しかし、我々の現在の戦力と資源では、勝利する見込みは絶望的です。そんな中、公文書館の古い記録の中に『この都市には、現状を打破し得る強力な兵器が眠っている可能性がある』という記述を発見しました。それが具体的にどのようなものかは分かりません。しかし、賭けてみる価値は十分にあると判断し、我々はこの任務のためだけに特別チームを結成し、派遣されたのです」


サイラスは真剣な眼差しで、アルテミスのカメラレンズを真っ直ぐに見据えて語った。一方、アルテミスの機体のランプはリズミカルに点滅していた。まるで、彼の声の周波数を解析し、嘘をついていないか『嘘発見器ポリグラフモード』で検証しているかのように。


「それはお悔やみ申し上げます。……残念ながら、この街に強力な兵器が隠されているという情報は、事実ではありません。私の持つすべてのデータベースを検索しましたが、そのような記録は一切存在しませんでした」

アルテミスが抑揚のない無機質な声で答えると、キリアンとミアの顔に、深い絶望と緊張が走った。

しかし、サイラスだけは全く表情を変えず、ただ静かにアルテミスのレンズを見つめ続けていた。張り詰めた沈黙が数秒間、その場を支配する。


「……そうですか。私自身、最初からあんな古い文書の記述に過度な期待を抱くべきではありませんでした。ここまで無駄足を踏むことになるとは、本当に馬鹿げています。……そういうわけですので、我々の傷が癒えるまで、ここに滞在させてもらえないでしょうか? 怪我が治り次第、すぐに帰還の途につきますので」

サイラスはクラインの方へ向き直り、温和な笑顔を向けて尋ねた。


「もちろん、いいぜ! 全然オッケー! なんならずっといてくれてもいいくらいだ。俺、大勢でワイワイやるの好きだからさ!」クラインは手放しで喜んだ。

しかし、アルテミスだけはそんな相棒を無言で見つめていた。


「クライン殿、あなたのその慈悲深さに心から感謝いたします」サイラスは深く頭を下げた。


「よーし、お前たち、ずっと眠りっぱなしだったからな! まずは腹に何か入れようぜ。栄養をとった方が傷の治りも早いからな!」

クラインはそう言うと、テーブルから弾かれたように立ち上がり、保管庫へと向かった。

「キリアン、手伝おうか?」キリアンが立ち上がろうとするのを、クラインは制止した。

「いいっていいって。お前はお客さんなんだから、二人のそばについててやってくれ」

「私がお手伝いしますよ、クラインさん」アルテミスが申し出ると、彼女はクラインの後を追って保管庫へと消えていった。


二人がいなくなると、3人の客人たちの間に重苦しい空気が流れた。

「サイラス! あなた、正気なの!? 私たち、こんな遠くまで死に物狂いでやってきたのよ!? 何も調べずに、ドローンの言葉一つであっさり諦めて引き返すつもり!? この任務のために命を落とした仲間たちのことを考えなさいよ!」

ミアが怒りに震える声で詰め寄った。

しかし、サイラスは何も答えなかった。ただ無表情のまま、虚空をじっと見つめているだけだ。その感情の読めない横顔を、キリアンがすぐそばで黙って見つめていた。


保管庫の中では、クラインが手術明けの新しい友人たちに食べさせる食事を必死に探していた。

「消化にいいものって言ったら、やっぱりおかゆ系かな? なぁアルテミス、フルーツとかないのか?」クラインは振り返って相棒に尋ねた。

しかし、アルテミスはピクリとも動かなかった。彼女は部屋の空中に浮かんだまま、クラインの声など全く聞こえていないかのように、深い思考の海に沈み込んでいるようだった。


「アルテミス?」クラインがもう一度呼ぶ。

「あっ、はい? ……申し訳ありません。フルーツなら、フリーズドライ加工されたものがあります。栄養価が高く消化にも良いので、術後の患者には最適ですね。棚の52番、上から9段目を見てください」

我に返ったアルテミスは、早口でそう答えた。クラインは言われた通りに棚を探し始めた。


___________________


食卓の空気は、奇妙なほど息苦しいものだった。ミアはひどく不機嫌で、クラインから話しかけることすら憚られるほどだった。キリアンもまた、無言で食事を口に運んでいる。時折クラインの話に相槌を打ってくれるのはサイラスだけで、アルテミスはただその傍らにフワフワと浮いているだけだ。

この張り詰めた緊張感の中で、どうやら本当に食事を楽しんでいるのはクラインただ一人のようだった。彼にとって、誰かと食卓を囲むのはこれが初めての経験だったのだ。


「デザートにリンゴと洋梨があるけど、どっちがいい?」クラインが尋ねた。

「では、私はリンゴを頂こうかな。リンゴなんて食べるのは、本当に久しぶりだ」サイラスが答えた。

「えっ? 君たちの街には、リンゴってあんまりないのか?」クラインは不思議そうに聞いた。


「そういうわけではありません。ただ、異次元に通じるポータルが開いてからというもの、あちらの世界から持ち込まれた奇妙な果物がたくさん流通するようになりましてね。元々この世界にあった果物は、市場の競争に負けつつあるんです」

「へえー! その異世界の果物って、リンゴより美味いのか?」クラインは興味津々で身を乗り出した。


サイラスは軽く笑った。

「美味しいというよりは、今まで味わったことのない刺激的な味、と言うべきでしょうか。機会があれば、ぜひ『五芒星ペンタグラムのオレンジ』を食べてみてください。あれは私の大好物なんですよ」

「五芒星のオレンジ……か」クラインはその名前を復唱し、想像を膨らませてワクワクした。「すっげえ美味そうだな。どんな味がするんだ?」

「それを言葉で説明するなら……」サイラスが答えようとした、その瞬間だった。


ダダダダダダダダダダダッ!!!!


けたたましい重機関銃の銃声が、和やかな食卓の空気を一瞬にして粉砕した。防衛システムのタレットが火を噴いたのだ。

クラインとキリアンは弾かれたように立ち上がり、窓の外の状況を確認すべく窓際へと駆け寄った。


「嘘だろ……」


クラインの口から、絶望の言葉が漏れた。

窓の外の広場では、3基の自動防衛タレットが、信じられないほど巨大な『ゾンビウルフ』の肉体に向かって、嵐のような銃弾の雨を狂ったように浴びせかけていたのだ。

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