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バッテリー切れ

「ピッ!……ピッ!……ピッ!」

システム画面からのリズミカルな警告音が、クラインの重い瞼を無理やりこじ開けた。しかし目をあけた瞬間、顔を直撃した強烈な日差しに、彼は思わず目を細めた。全身を包む温もりで、自分が屋外の地面に大の字になって倒れていることに気づく。視界のピントが徐々に合い始めると、すぐそばにアルテミスが浮かんでいるのが見えた。彼女は臨時の「点滴スタンド」と化しており、その小さなボディから伸びた点滴のチューブがクラインの腕に繋がっていた。


「……アルテミス……何の音だ、これ?」クラインは寝ぼけ眼で、掠れた声を出した。

「気がつきましたか!」アルテミスは心底ホッとした様子だった。どうやらクラインが気を失っている間、彼女はずっとそばで看病してくれていたらしい。

「スキャンした結果、あなたのエネルギーレベルが低下していることを知らせる警告音でした。おそらくそれが、クラインさんが倒れた原因かと」

「今さら警告されても遅えよ……」


クラインは『警告! エネルギーレベル低下』と表示されているシステム画面を見下ろした。

朝から立て続けにスキルを試しまくったせいで、クラインのエネルギーはすっからかんになっていたのだ。しかし、彼が顔面から地面に突っ伏して完全に気絶した『後』になって、ようやくシステムが危機的な警告音を鳴らし始めるなんて……ハッキリ言って何の役にも立たない。クラインはシステム画面の『確認』ボタンに手を伸ばして警告音を止め、画面を消してからアルテミスの方を向いた。


「なぁアルテミス、エネルギーが残り20%くらいになったら、事前に警告するように設定できないか?」

「了解しました」


アルテミスは再びクラインのシステム画面を呼び出し、目にも止まらぬ速さで何らかのプログラムを走らせた。


「完了です。エネルギー残量が30%になった時点で最初の警告を出し、20%で再度警告するように設定しました。20%を下回った後は、現在のエネルギー残量を常に数値で表示し続けるようにしてあります」


クラインは、見やすく整理され、細かくリンク付けされた新しいシステムウィンドウを見て、感心して舌を巻いた。このピンポン玉、ただフワフワ飛んでるだけじゃない。さすが自称『天才ドローン』だけのことはある。


「なぁアルテミス、お前、何か食いたいもんあるか? 奢るぜ」クラインは何かお礼をしなければと思い提案したが、そもそも彼女のようなドローンが何を欲しがるのか全く見当もつかなかった。


「は? ……私のようなドローンが何かを食べられるわけないじゃないですか。……クラインさん、倒れた時にどこか頭を強く打ったりしませんでしたか?」アルテミスは純粋な疑問として、大真面目に尋ねた。

「あー! もういい、何でもねえよ!」クラインはなんて返せばいいかわからず、ただ頭を掻きむしった。


クラインの具合が良くなったのを確認すると、彼女は点滴のチューブを外し、自分の体内へと収納した。


「今のところ、クラインさんがどのようなエネルギー源を使用しているのか、私にはまだ解析できていません。ですが今できる最善の策として、まずは『人間』と同じように、食事で基礎的なエネルギーを補給することをお勧めします」

クラインはそれを聞いて深く頷き、お腹をさすった。確かに、なんだか変に腹が空いているような気がしていたのだ。


___________________


研究所の食堂。クラインの目の前には、十種類以上の料理がズラリと並べられていた。三人で食べてもまだ余るほどの量だ。


「あの……アルテミスさん? これ、マジで全部俺が食うんですか?」

「当然ですよ! 気絶するまでエネルギーが空っぽになったことをお忘れですか? だから、早くエネルギーを満タンにしたいなら、とにかくたくさん食べなきゃダメです。これであなたのエネルギーレベルがどれくらい回復するか、経過を観察しましょう」


クラインは『ゴクリ』と大きな音を立てて生唾を飲み込み、センサーの瞬き一つせずに無言の圧をかけてくるアルテミスをチラリと見た。この強烈なプレッシャー……まるで、無理やりご飯を食べさせようとする『オカン』そのものじゃないか! 逃げ道がないと悟ったサイボーグ青年は、仕方なく腹をくくり、黙々と目の前の料理を一口、また一口と口に運び続けた。


そして1時間以上続いた「詰め込み祭り」の末。ついにクラインは、右手にスプーンを握りしめたまま、食堂のテーブルの真ん中にバタリと倒れ込んだ。現在の彼の顔は直視できないほど悲惨だった。白目を剥き、頬にはご飯粒がべったりと張り付いている。


「よく頑張りましたね、完食です! さてさて、エネルギーはどれくらい回復したでしょうか」アルテミスはクラインのシステム画面を確認するためにふわりと近づいた。

「わぁっ! 現在のエネルギーレベルは87%まで跳ね上がっていますよ! 人間方式のエネルギー補給、大成功ですね! おめでとうございます、クラインさ……あれっ、クラインさん?」


……応答はない。なぜなら、あるじの意識はフードコーマ(食後の強烈な眠気)によって肉体から乖離し、すでに夢の中へと旅立っていたからだ。


「クラインさぁぁぁぁぁぁん!!!」


___________________


「スゥーッ……ハァー……スゥーッ……ハァー……」


アルテミス特製の『お手製ヤードム(嗅ぎ薬)』を吸い込む音が、一定のリズムで響き渡る。その音はまるで、クラシック映画『スター・ウォーズ』の悪役、ダース・ベイダーの呼吸音にそっくりだった。これで今日、クラインが『死の淵』を彷徨ったのは二度目である。青年はヤードムを染み込ませた布を鼻に押し当て、魂を肉体に引き戻すために深く息を吸い込んだ。そして、ゆっくりと気だるそうに顔を向け、極小ドローンを見つめた。


「なぁアルテミス……次回から……エネルギー補給は……もう少しゆっくり……頼むわ……。スゥーッ……ハァー……」クラインは時折、食べたものをリバースしないように手で口を押さえながら言った。

「す、すみません、クラインさん」アルテミスはすっかり萎縮し、申し訳なさそうにうつむいた。


しょんぼりと反省している小さなドローンを見て、クラインは内心でクスッと笑ってしまった。どれほど超優秀な天才AIだろうと、結局のところ、人間みたいにポンコツなミスをやらかす一面もあるんだな、と。


「よし、明日の作戦会議を始めようぜ」クラインは椅子から立ち上がり、消化を促すためにテーブルの周りをグルグルと歩き回り始めた。

「明日の作戦、ですか?」

「その通り! 俺のスキルで何ができるかはだいたいわかった。だが、もし俺たちの目標が『他の研究施設を探す旅』に出ることなら、今の俺たちに決定的に欠けているものがある。それは『実戦経験』……手っ取り早く言えば『場数』だ」


アルテミスは納得したように頷いた。


「だから、明日はもう一度街へ出て、あの緑色のチビ共を狩るぞ」ズボンのウエストがはち切れそうにパンパンに膨らんでいるにもかかわらず、クラインは決意に満ちた声で言った。

「またですか、クラインさん」

「ああ、そうだ。俺が読んでた異世界転生モノの小説みたいに、数字で経験値がポンッと跳ね上がることはないかもしれない。でも、俺は信じてるんだ。普通の『人間』と同じように経験値を積むことは、絶対にできるってな」

「クラインさんが仰りたいのは……」

「システムに頼らず、超クラシックな『ホモ・サピエンス』古来のスタイルで、格闘技術のレベルを上げるんだよ! 経験値の数字なんかいらねぇ。筋肉と脳髄に、実戦の記憶を直接叩き込んでやる!」

「……わかりました! では、私が筋肉トレーニングのメニューを作成し、栄養管理も徹底的にサポートしますね!」アルテミスは即座にクラインの決意に応えた。

「そうこなくっちゃ! さすが俺の天才秘書だ!」クラインは元気よく親指を立て(サムズアップ)、彼女にイイネを送った。

「それなら、今日の『夕食』のメニューからさっそく始めましょうか!」


『夕食』という単語を聞いた瞬間。突き上げられていた親指はクルリとサムズダウンを向き、クラインの顔面は幽霊を見たかのように真っ青に色を失ったのだった。

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