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17/30

地獄の筋肉トレーニングと市街マップ。西エリアで再び『家政夫スキル』の真髄を見せてやる!

アルテミスの厳格な指導の下で行われた朝練の光景は、どう見ても普通ではなかった。カプセルルームの前の廊下で、クラインは延々と腕立て伏せを強いられており、その傍らには極小ドローンがフワフワと浮かびながら、彼が少しでもサボったり休んだりしないよう、鷹のようなレンズで一挙手一投足を監視していた。


「97……98……99……ひ、ひゃ……くぅぅぅっ!」

指定された回数をこなした瞬間、クラインは床に崩れ落ちた。


「初日にしては上出来ですね、クラインさん。でも明日はもっとペースを上げて、110回でお願いしますね」

アルテミスは甘く優しい声で「鬼教官」を演じてみせた。彼女の容赦ないドSっぷりは完璧である。


クラインは床に顔を押し付けたまま、荒い息を吐き出すたびに床のホコリを巻き上げていた。

「……朝からフルスロットルですね、アルテミス教官」

青年は歯を食いしばり、感覚がとうの昔に消え失せた両腕をどうにか踏ん張って立ち上がろうとした。今朝、彼は朝6時に叩き起こされ、アルテミスが流す音楽に合わせて1時間もラジオ体操(?)をさせられた後、とどめに魂が抜けかけるほどの腕立て伏せ100回という地獄のフェスに参加させられていたのだ。


「当然ですよ。任務を任されたからには、それを完璧にやり遂げるなんて朝飯前ですから」


クラインはまだ息が整わないまま彼女を見つめ、『このドローンにトレーニングの管理を任せたのは、正解だったのか、それとも大失敗だったのか……』と心の中で自問自答した。


「正直に言うと、クラインさんが初日からここまでやり遂げたことにはかなり感心しているんですよ。このメニューを組んだ時は、絶対に半分も行かずに泣きを入れると思ってましたから」


クラインはそれを聞いて、アルテミスをジロリと睨みつけた。要するに、最初から達成不可能な目標を設定して俺を潰す気満々だったってことかよ!

しかし、よくよく考えてみると、彼自身も不思議でならなかった。元の世界にいた頃の彼なら、腕立て伏せ100回どころか、20回だけでも生き残れたかどうか怪しいレベルだったからだ。


「きっと、このサイボーグボディのおかげでここまでできるんだろうな」


アルテミスも彼の言葉に同意するように頷いた。彼女も同じことを考えていたのだ。


「カプセルの中で何百年も寝たきりだったのに、目覚めた瞬間にすべての筋肉がバキバキで即実戦投入可能な状態だった。しかも、回復速度も異常だ。今だって、座って5分も休んでないのに、もう腕の力が戻ってきてるしな。これなら、お前の作ったトレーニングメニューなんて楽勝すぎるぜ」

クラインは自分の肉体を絶賛しながら、力強く握りしめた両拳を感心したように見下ろした。


しかしその言葉を口にした直後、彼は目の前にいる極小ドローンがピクッと痙攣したのを見逃さなかった。どうやら、彼の不用意な発言の中に、絶対に彼女の耳に入れてはいけない『地雷ワード』が含まれていたようだ。


「ほう……。つまりクラインさんは、遠回しに『私の作ったトレーニングメニューがしょぼすぎる』と、そう仰りたいわけ……ですね?」


その通りである。この冷酷無比なドローン教官は、サイボーグの口から飛び出したその言葉を『私が丹精込めて設計したトレーニングメニューに対する侮辱』と受け取ったのだ。


「ち、ちが、そういう意味じゃ……ああっ、疲れた! ああ、もう全く力が出ない! ああっ、腕が痛い! なんでこんなに腕が痺れてるんだ! まったく、なんて過酷なトレーニングなんだぁぁぁ!!」

クラインは身の危険を感じて必死に大根芝居を打ったが、悲しいかな、彼のシステムデータベースには『演技力』のスキルが搭載されていなかった。結果として、そのあまりにもわざとらしい嘘泣きは、完全に逆効果となった。


「クラインさん。筋力トレーニングは一旦ここで休憩して、次は簡単な『計算問題』のトレーニングをしてみませんか?」

彼女の声はいつもよりワントーン明るかった。もしかして、本当は怒ってないのだろうか?


「おおっ、いいぜ! 腕も休まるしな!」クラインは安堵し、わざとらしく腕を揉む仕草をした。

「では問題です。よーく聞いてくださいね。このビルは屋上を含めて全15階建て。各階は20段の階段で繋がっています。さて、クラインさんがこのビルを最下階から最上階まで10往復した場合、合計で何段の階段を踏むことになるでしょうか? チク……タク……チク……タク……」


「……どうか、私めに慈悲をお与えください、アルテミス様」

クラインの声は震えていた。彼には、この後自分にどんな運命が待ち受けているのか、完全に理解できてしまったからだ。


「時間は刻一刻と進んでいますよ。チク……タク……チク……タク……」

アルテミスは、極限のプレッシャーを与えるかのように、ゆっくりと、じわじわとクラインの顔面へと近づいてきた。クラインは這いずるようにして慌てて後ろへ退がった。


「な、なな、何千段もです! アルテミス様!!」


『ブッブー!』


冷酷無比なる教官アルテミスから、クイズ番組で不正解を出した時のような無慈悲なブザー音が鳴り響いた。


「あらら、残念。計算もできないんですか? それなら、クラインさんご自身の『足』で答えを見つけてきてもらうしかありませんね。さあ、スタートです!」

「いやだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


クラインの悲痛な絶叫は、槍で突き刺されたゴブリンの断末魔よりも遥かに大きく、ビル中に響き渡った……。


___________________


アルテミスが食堂で朝食の準備を終えた頃、クラインは床のホコリにまみれて倒れていた。彼は両腕の力だけでズリズリと這いずり、満身創痍の状態でなんとかダイニングテーブルのそばまでたどり着いた。


「おや、クラインさん。いかがでしたか? 答えは出ました?」

「ご……ごせん……五千六百段、です……アルテミス様……」

クラインの声は、墓場から蘇ったばかりのカラカラに乾いたミイラのようだった。


『ピンポーン!』


彼女の本体から、再びクイズ番組の正解音が鳴り響いた。


「よくできました! ほら、頭を使うって大事なことでしょう? さあ、早く立って、美味しい朝ごはんを食べましょう」


クラインは死に物狂いで椅子によじ登った。両腕の力で強引に体を引き上げ、ブラブラと力なく垂れ下がった両脚をなんとか椅子の下に収める。今の彼の姿は、完全に下半身不随の患者そのものだ。


青年は老人のように震える手で朝食を口に運んだ。その間、アルテミスは自身で調合した鎮痛消炎スプレーをクラインの脚にシューッと吹きかけていた。


「クラインさんが走っている間に、簡易的な遠距離街区スキャンを実行しておきましたよ」

クラインは力なく頷いた。するとアルテミスは、目の前のテーブルにレーザーで街の立体マップを投影した。それを見たクラインは、目を輝かせて身を乗り出した。


「現在地であるこのビルは、南西エリアに位置しています。先日ゴブリンを討伐したのは、西側の外周エリア。そして、クラインさんが最初に遭遇したゴブリンの小集団は、街のほぼ中心部付近にいました。安全性を考慮すると、西側の外周エリアから再び探索を始めるのが最も適切だと推奨します」


クラインは彼女の言う通りだと考えた。ゴブリンが群れで行動する習性があるなら、西側の外周で8匹の首を取ったことで、あのエリアの脅威度はかなり下がっているはずだ。実戦経験を積むための最初のステップとしては、非常に賢明な判断と言える。


「じゃあ、南と東はどうなってるんだ?」クラインはマップを指差した。

「南エリアには、わずかながらゴブリンの痕跡が確認できました。西側よりも密集度は高いようです。しかし東エリアからは、奴らのシグナルが一切検出されませんでした。廃墟の地下に潜伏しているのか、あるいは『何らかの要因』でそのエリアを避けている可能性があります。私のスキャン範囲にも限界があるため、現在提供できる情報はここまでです」


「何らかの要因、か……」クラインの表情は明らかにこわばっていた。ゴブリンのような野獣が特定のエリアを本能的に避ける理由なんて、いくつかしか思い浮かばないからだ。


「よし、わかった。南と東は当面の間、避けて通ろう。今日はもう一度、西側の外周エリアに出撃だ!」

クラインは皿の上の食事をあっという間に平らげ、気合いに満ちた表情で立ち上がった。


いよいよ再びゴブリンとの実戦だ。だが今回は、ただの戦闘ではない。奴らに俺の『フルパワー・サイボーグ・ハウスキーパー(家政夫)』スキルの真髄を、たっぷりと味わわせてやる!

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