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第5話 『上流階級のパーティでガチ御曹司と出会う』

マッチングアプリに、合コン、婚活パーティ、

男女の出会いの手法というのは多岐にわたるが結局打率が高いのは「友人の紹介」だったりする。


叶梨(かりん)、今度 西芝(せいしば)のお孫さんの誕生日パーティにお呼ばれしてるんですが

良かったら一緒に行きませんか?」


昼休み、今日はポリクリ実習班6人でお昼を食べていた時に親友の結衣(ゆい)からの突然の提案。

私は握っていたフォークを落とした。


「口、空いてますよ」


「西芝ってあの……? 結衣の交友関係どうなってるの……?」


西芝は日本有数の家電メーカーで、日本では知らない人がいないくらい超大手だ。

日本経営新聞が毎年発表する売上高ランキングでは毎年30位以内に入っている。


「今の会長が、おじい様の大学時代の友人なんですよね。

そこのお孫さんがちょうど私たちの3つ上の25歳なんですが、お嫁さん探ししたいらしくて

もしいいご友人がいたら連れてきてねって」


そういう結衣も実は多角経営をしている財閥の本家のお嬢様だ。

お嬢様お坊ちゃまの多いこの医学部でも飛びぬけているが

本人はその肩書があまり好きではないらしく、自分自身の力で生きていくべく医師の道を志したらしい。

たまに出てくる価値観の相違に驚くことがある。

今日食べているお弁当も、高級ホテルに入っている料亭の仕出し弁当だ。


「良かったら来てくれませんか?」

「行く行く行く!!!!!!!」


私はこれでもかというほど手を高く上げた。


朝倉(あさくら)さんは?」

結衣は私の返事はわかっていたように、うなずき

同席している朝倉さんにも問いかける。


「私はパス。一応、今彼氏いるのよ」

「「え!!????」」

初めての情報に、結衣と声を合わせて驚く。

自分のことをあまり多くは語らない彼女のことはまだ分からないことが多い。




その誕生日会は、その御曹司が所有する家の一つだという、パーティルームで開かれた。

「あるところにはある」

その言葉が真っ先に思い浮かんだ。

結衣の家の車で指定の住所に向かうと、高級住宅街の中に突然屋敷を覆う大きな生け垣が現れ、

大きな門をくぐると、文化財にも指定されているという邸宅が見えてくる。

入り口にはホテルのような車寄せがあり、

ベンツのSクラス、ポルシェ、ロールスロイスという高級車が続々と止まっていく。


そういう結衣の家の車もベントレーだ。

タクシーで来ていたらとてつもなく浮いていたことだろう。

ごくり、とつばを飲み込んだ。


私は実習が終わってから、結衣の松濤の自宅に寄らせてもらい

服とアクセサリーを借りて戦場へとやってきた。

ピンクダイヤのピアスとネックレス、一体いくらするのかとソワソワしてしまう。


普段はショートで地味目にしている結衣だが、

華やかなお化粧をして、ドレスに身を包むと、上流階級のお嬢様という雰囲気になる。


二階堂(にかいどう)様、お待ちしておりました」


案内の係の人に、コートと荷物を預けてパーティルームに向かう。。


「結衣ちゃん、今日は来てくれてありがとう」

西園寺(さいおんじ)のおじさま、ご無沙汰しております」


立派な髭を蓄えた老紳士が出迎えてくれた。

歳は80歳を超えていそうだったが、背筋がピンと伸びていてかっこいい。


結衣は優雅にドレスの裾をひろげてお辞儀をして見せる。

まるで淑女のカーテシーのようだ。


「お友達もありがとうね」

紳士がにこやかに、私にも笑いかけてくれる。


「ご招待いただきありがとうございます、一ノ瀬 叶梨(いちのせ かりん)と申します」


私はあわただしく頭を下げる。

結衣の気品ある挨拶とはかけ離れてしまった。


「可愛らしいお嬢さんに来てもらって嬉しいよ。

あっちに司がいるから、良かったら話してやってくれ」


紳士が指さす方向には、8等身はあろうかという細身のスタイルに、

グレーのスーツ、紫のネクタイを合わせていて、とても品がいい上流階級の雰囲気を漂わせている。

すごく顔が整っているというわけではないが、品の良い顔立ちだ。


(つかさ)くん、お久しぶり。

今日はお招きいただきありがとう」


「結衣ちゃん? 高校生以来だね」


小さいころから社交界でよく顔を合わせていたという二人は親し気に挨拶した。

お互いの苦労が何かと共有できる、良い友達なのだという。


「こちらがお友達?」


「そう、大学の医学部の友人なの。一ノ瀬 叶梨さん」


「はじめまして、一ノ瀬と申します」


私は淑女に少しでも見えるように、ゆっくりとした話し方で優雅に見えるように心掛けた。


「わざわざ来てくれてありがとう。今日はホテルのシェフを呼んで料理出してもらってるからいっぱい食べていってね」


西園寺さんは私たち二人にドリンクの希望を聞いて、ウェイターに持ってこさせて、

3人で乾杯をする。

所作一つ一つが洗練されていてとてもきれいだ。


彼は習学院(しゅうがくいん)大学を卒業して、今は関連会社で修行中らしい。

上流階級の人ってどんな話をするんだろう、と思っていたが

内容は案外普通で、会社の愚痴や、最近ハマっているカードゲームの趣味について話してくれた。



そして、話題は本題へ。


「司さん、最近恋人はいるの?」


ほどよく場が温まったところで、結衣が気になるところを掘り出してくれた。

――ありがとう、さすが親友!


「あー……この間お見合いしたんだけど、数回デートしたところでうまくいかなくて……」


「えー!なんでうまくいかなかったんですか?」


私はすかさず目をぱちぱちしながら尋ねてみる。



「将来、家業にどういうポジションで関わるのか、とか自分は専業主婦になりたい、とか家のことばかり聞かれてしまってね……。

贅沢かもしれないけど、もう少し自分を見てくれる人と付き合ってみたいんだ」


「気持ちはわかるけど、難しいね」

似た立場である結衣が相づちを打つ。


「まあ世間知らずのボンボンが贅沢言うな、って思われるかもしれないけど生涯の伴侶だからね。

二人とも、今日はおじい様に何か言われたんだろう。

迷惑かけてごめんね」



私のアピールは遠回しに断られてしまった。

「家柄」で彼に興味を持ったことがバレている。だが彼は最後まで優しかった。

ずっと家柄という肩書と付き合ってきたからこそ、一層そこへの視線は敏感なのだろう。


私の「玉の輿」なんていう夢は彼からしたら浅はかなものだ。


その後は司さんとも話すことなく、私は結衣とビュッフェを楽しんだり、

司さんのご学友と交流するなどして過ごした。

ご学友とも一応連絡先を交換するなどしたけれど、

皆一様に一緒にいる結衣のほうに興味を持っているようで私の出番はなかった。



帰りに結衣の家に寄って身に着けていたドレスとアクセサリーを外すと

魔法が解けたようにどっと疲れてしまって

私は家で泥のように眠った。




「というか、私の武器は「医学部生」ってことだけなのに

それをメリットと思わない御曹司を口説き落とそうとしたのが、そもそも分不相応だったってわけです」


実習後、自販機でコーヒーでも飲んでしばし休憩でもしようと学食に来た。

例によって(たちばな)くんに話を聞いてもらう。

今回はあまりにもでかい魚に釣られて、身の程をわきまえていなかった。



彼はどんまいどんまい、と私を励ました。


「俺も、付き合うってなったら将来のことは多少考えるし、

一ノ瀬さんが条件を気にするのもわかるっちゃわかるんだけどさ、

好きになった後で、考えてみるのでもいいんじゃない?」


「条件なしで、ねえ……。

……橘くんは将来のことってどんなこと考えるの?」


「相手の女の子の名前と、自分の苗字くっつけてみる」


「小学生か!」


橘くんは、声を出して笑う。

ようやく少し心を開いてくれたように感じた。



「橘君、おごるよ。話聞いてくれたお礼」


そう言って、私が自販機に小銭を入れようとすると、

橘君がそれを遮るように自販機に自分の電子マネーを読み込ませる。


「俺がおごるよ、温かい飲み物のんで元気だしなよ」


その不意の優しさにどきりとする。

私はお言葉に甘えて、カフェオレのボタンを押した。

橘くんはブラックコーヒーにしたようだ。




「というか、二階堂さんの家もすごいんだね」


「そうだよ。この大学で医者家系じゃない家って珍しいから、私と仲良くなったんだけど本来はレベルが違うのよ」


叶梨の婚活はまだまだ続く。



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