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第14話 『医学部生、混浴に沈む』

「え?」

女性陣をまず見る。


「え?」

次に男性陣を見る。


「ええええええ!?」

旅館のロビーに、私――一ノ瀬叶梨(いちのせかりん)の叫びが響いた。


「混浴って何!?」

私の問いにフロントの女将さんがにこやかに説明する。


「塩原温泉郷の名物でして。源泉かけ流しの大浴場は、夜は混浴なんですよ」


源泉かけ流しの温泉を楽しみに研修頑張ったのに、夜は混浴。

今時混浴だなんて。

医学部第五班は沈黙した。


「この辺じゃ普通だって!」

相沢(あいざわ)くんが笑う。


「普通ちゃうわ!」

谷口(たにぐち)くんが即ツッコミ。


「医学部の男女六人で混浴は事件や!」

「実習の一環ってことで」

「何の実習や!」

「地域文化の理解も大事だろ」

真顔で言うな。


私が(たちばな)くんを見ると、彼は真顔で硬直していた。

冷静な顔。

でも耳が少し赤い。


「……どうする?」


反応が見たくて、私はあえて橘くんに尋ねてみる。


橘くんは顔を少し背けて

「俺は……どっちでも」

と答えた。

どっちでも!?


「ちょっと二人ともいいですか」

結衣(ゆい)が女子だけに声をかけて作戦会議。


「さすがに混浴はないと思うんですけど」

お嬢様の結衣は箱入りというか、男女の距離感については少し潔癖だ。


「でも、叶梨にとってはチャンスじゃない?」

愛理沙(ありさ)はいたずらっぽい表情で私のほうをちらりと見る。


「何が?」

「橘との恋の進展」

ニヤニヤ。


「距離、物理的に縮まるわよ?」

「縮めなくていい!」


________________________________________


結局。

水着着用もOKとのことだったので、売店で購入し、水着で入ることになった。

温泉に入るために実習頑張ったのだ、入らないという選択肢はない。

他の男性客と出くわすよりかは、実習班の男子とは言った方が安全だろう。

それに愛理沙のアドバイス「距離が縮まる」に惹かれたのもある。



そして荷物を置いて、混浴の露天風呂に集合する。

大きくて黄色い月が空に浮かび、遠くからは川のせせらぎの音が聞こえる。

そして――

「広っ!」


露天風呂は予想以上に広かった。

風呂というよりも岩の隙間にお湯が溜まっている、という表現がふさわしいくらいゴツゴツとした岩風呂だ。


だがさすがに6人も入ればやや手狭で、隣の人と肩が触れるくらいの距離だ。

いつも顔を合わせているメンバーだが、

露出がいつもより高いせいか、なんだか少し緊張した面持ちで車座になる。


「いやちょっと待って」

私は端っこに避難する。


「一番ノリノリだった人間が何を」

そう言って結衣は私をド真ん中に送り込む。


押し出された先の目の前には橘くんが立っている。


私が売店で選んだのは、

花柄のワンピース型の水着だ。

ビキニもあったが、流石に着る勇気が出なかった。


それでもいつもの服装よりもよっぽど露出が多い。

橘くんがどんな反応をするか、私が恐る恐る顔を上げると、橘くんは大きな岩にもたれかかって寝ていた。


「いや寝てるのかい!!!」

驚いて、照れもどこかに行ってしまった。


「こんなドキドキイベントの最中も寝るて、ブレへんな、和真(かずま)は」


谷口くんもやれやれと言った様子だ。

橘くんの水着姿、初めて見た。

さすがバドミントン部、引き締まった体に白い肌が眩しい。


寝ているのを良いことに、

まじまじと眺めていると、彼の脚の脛をいっぱいに横断するような、大きな傷跡があることに気づいた。


橘くんは実習はもとより、私服でも長ズボンなので気付かなかった。


なんだろう、と眺めていると、バシャバシャと大きな水音が聞こえる。


「最高だろー!」

相沢くんがはしゃいでいる。


「お前が一番楽しんでるやろ!」

坂口くんが湯をかける。


「おい目に入った!」

第五班の他男子2名は完全に小学生化している。


「もー! いい雰囲気が台無し!」

私が二人にお湯をかけようとした、その時。


「きゃっ!」

足が滑ってバランスを崩す。


「危な――」

橘くんに腕を掴まれる。


「大丈夫か?」


さっきまで寝てたくせに。かっこいいことしやがって。

顔が近づく。

濡れた肌と肌がいつもより熱く感じた。


「……だい、じょうぶ」

息がうまく吸えない。


「はいはいお二人さん。そこでラブコメしないで」

愛理沙と結衣は女子二人でしっぽりと月を眺めていたようだ。


「してない!」

「してる」

結衣が冷静に判定する。


私は慌てて離れる。

でもさっきの一瞬触れられた肌の感覚がまだ残っている。

温泉の熱より、胸が熱い。



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