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【完結】ルカが幸せになる時〜銀髪の魔法使いは学園で恋と自分を知る〜  作者: 波音叶
三年生

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38. 陽の季・中(7月)〜①


それからまた日々は過ぎていき、あっという間に陽の季に入った。


「あのさ。次の長期休暇で、お前らも俺の故郷に来ないか?」


自分とレオン、セルジュもいる場でテオからそう提案されたのは、休暇のひと月ほど前のこと。想定していなかった誘いに食事の手を止める。


「行ってみたい……けど、いいの?」


そう返すとどこか照れくさそうに笑った。


「学生のうちに思い出作るのも良いかなって。ルカとレオンは学園に残るけど、俺は冒険者になるし、セルジュは家に戻るだろ。」


テオの言う通り、卒業後に進む道はそれぞれだ。少しだけしんみりとした気持ちにもなってしまう。


「それにさ。俺の故郷は自然に囲まれてるから、陽の季でも結構涼しいんだ。人も多くないし、ルカでも過ごしやすいと思うぜ。」


行くにはちょっと面倒だけど、とおどけてみせる。彼の誘いが嬉しいのは三人同じだった。


「良いね。俺も行ってみたかったんだ。」


答えるセルジュにレオンも頷く。そういうわけで三年生の陽の季・終は、テオの故郷に遊びに行くことになった。


**

目的の場所は山道を抜けた先、山々に囲まれた盆地にあった。


開けた視界の先にはのどかな集落。吹き抜ける風は涼しく、澄んだ空気も心地よい。


「ここが俺の生まれたとこ。」


テオがおどけて笑うのは照れ隠しにも見えた。なんだか微笑ましく、同時に少しだけ胸が痛む。


「あーっ、テオ(にい)だ!」


自身の感傷に浸る間もなくひときわ明るい声がした。向こうから数人の子どもたちが駆けてきて、そのままテオの足元へとじゃれつく。


「おう、お前ら元気にしてたか?」

「元気だよ!こっちはお友達?」


無邪気に見上げてくる男の子に対し、最初に反応したのはセルジュだ。さっとしゃがんで目線を合わせてみせる。


「そうだよ。俺、セルジュっていうんだ。よろしくね。」


さすがは長男だけあって慣れているな。その様子を見守っていると、ふいに視線を感じた。


「……ん?」


先ほどの男の子よりもう少し幼く見える女の子が、じっとこちらを見ている。セルジュを見習ってゆっくりと腰を下ろした。


「どうしたの?」

「……王子様?」

「僕が?違うよ、テオの友達で、ルカっていうんだ。」


自分の方を指差しながら、大きな瞳をぱちくりさせる様子が可愛らしい。「ルカにーに!」と屈託のない笑みを向けられてさらにぐっと来た。


「ルカにーには、魔法できる?」

「うん、できるよ。」

「見せて!」


そうねだられて断る理由はない。暑いと氷の魔力もいつもより消耗するけれど、この土地でならそうでもなさそうだ。


右の(てのひら)を広げて意識を集中させる。手元にだけ冷気が生まれて、宙に浮かんだ氷の粒が透き通った蝶を形作った。そのまま女の子の前で優雅に舞う。


「わあ……。」


そっと伸ばされる小さな手。そこに蝶を止まらせると、きらきらと目を輝かせた。


「冷たい!」


はしゃぎながらもそれ以上触れようとせず、氷で出来た蝶を壊さないようにしているのが分かる。……優しい子だな。


「おいルカ、レオンが置いてけぼりだぞ!」


テオの声にはっとして顔を上げる。振り返ると少し離れたところで立ち尽くしていた。困惑が混じった何とも言えない表情をしている。


「レオンは雰囲気が硬いから。ちっちゃい子は寄りにくいんじゃないかな。」

「……悪かったな。」


穏やかながら辛辣なセルジュに、少し拗ねたような声で答えるレオン。一連の流れが可笑しくて楽しくて、気がつけば小さく声を上げて笑っていた。


**

村の人達はみんな温かく歓迎してくれた。テオの友人というのもそうだし、そもそも集落に残る若者が少なく訪問者も稀らしい。


気さくに話しかけてくれるだけでなく、夕食を待たずに色々と食べさせてくれようとした。


「若いもんには沢山食わせてやらないとな!」

「気に入ったものがあったら言ってね。おかわりも用意出来るわ。」


山菜のスープに木の実の蜂蜜漬け、チーズをかけた焼き立てのパン。それぞれシンプルでありながら驚くほどに美味しい。その後は周囲の探索を楽しんだ。


特に胸をくすぐられたのは、生まれて初めて見る滝とその奥に存在にする洞窟だった。


流れ落ちる水の飛沫や音、内部のひんやりとした空気と静けさ。何が起きるわけでなくても神秘的で心が躍る。


「子どもの時からじっとしてるのが苦手でさ。ここにもしょっちゅう来てたぜ。」

「それ、すごい想像つくな。」


おどけるテオにセルジュが笑って返す。


ここで生まれ育ったテオが自由を愛し冒険を望む理由が、なんとなく分かった気がした。

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