36. 花の季・始(3月)〜①
ルカ視点に戻ります。
雪の季の休暇も明けて、三年生になった。
大きく変わったことはない。レオンとの関係性に名前はついていないし、アリシアも以前と同じように接してくれていた。
けれど日々が確かに過ぎていくなかで、皆それぞれに色々なことを考えていると思う。自分にとっては卒業後の進路がそうだった。
今のところは、国の管理下にない中立機関に所属して、魔物討伐や人命救助に貢献するのが第一候補ではある。そしてレオンも同じ道を望んでいた。騎士になるのは良いのかと何度か聞いたものの、その答えは一度も揺らいでいない。
“分かってる。国に仕えて誰かや何かを守るのも立派な道だ。”
“けど⋯⋯決められたものを守るために、本当に守りたい人から手を離したくないんだ。”
彼の意思は素直に嬉しかったし、自分もレオンの傍にいたい。そして選ぼうとしている先もまた有意義であるはずだ。
それなのに、どこか納得しきれていない――まだアストラ魔法学園に居たいんだ、と。孤独だった自分を受け入れ、守り、多くを教えてくれたこの場所に。
もしも入学していなかったらどうなっていたんだろう。道を誤っていたかもしれない、命すら投げ出していたかもしれない。
このまま生徒でいられないのは分かっていても、何とか役に立ちたかった。この学園こそ、未来のために守るべきものなんじゃないかと思うから。
でもそれを実現する方法も、そもそも望んで良いことなのかも分からない。レオンにも話せずにいた。
そんなある夜、寮の部屋でふいに彼の方から問われる。
「ルカ。なにか……悩んでいるだろう。」
「……うん。」
琥珀色の真剣な瞳で見つめられると誤魔化せない。いや、むしろ聞かれるのを待っていたのかもしれないな。甘えてばかりだ。
素直にベッドの端に腰掛けると、レオンも当たり前のように隣に並んだ。
「進路のこと、なんだけど……。」
ここ最近考えていたことを素直に話す。卒業後も学園に残りたいという自分のわがままを、彼は少しも笑わなかった。
「よく分かった。そう思うのなら、一度学園長にでも相談してみたらどうだ?」
「でも……。」
「大丈夫だ、他にも進路相談を持ちかけている生徒はいる。ロゼッタ学園長なら無下にはしないだろ。」
淡々と話すレオンは大人びて見える。少しだけ眩しく感じた。
「レオンは……どうする?」
思わずそんなことを聞いてしまう。
もしもこちらが学園に残るとしたら?揃ってここにいることなんて出来るんだろうか。なんとか彼も一緒になんて、子供じみたことを願ってしまっている。
一拍置いて、ふっと口元を緩めた。
「俺の意思は変わらない。……言っただろ、傍で守りたいって。」
「………。」
「具体的なことは分からないけどな。それはまた考えたらいい。」
惜しみない信頼と献身とを感じる。
本当に自分には勿体ないくらいで、でも幸せで。同時にほんの少し不安でもあった。
この選択は、そのままレオンの人生を左右してしまうかもしれない。本当はその強さと優しさで、どんな道だって選べるかもしれないのに。
そんな胸の痛みだけは打ち明けられなくて、今度は悟られまいと微笑んだ。
「わかった、ありがとう。近々……相談してみる。」
**
数日後、事前にフィル先生に相談したうえで、放課後に学園長室を訪れた。
「こんにちは、ルカ。来てくれて嬉しいわ。」
「……こんにちは。よろしくお願いします。」
初めて会った時から変わらない、穏やかながらどこか芯の通った雰囲気。学園を守り生徒を導く人なのだと感じさせられる。
「進路相談、だったわね。ぜひ聞かせてくれる?」
「……はい。」
輝きを失わない若葉色の瞳に見守られながら、そっと息を吸う。緊張で声が震えそうだ。
「望んでいることが、あります。ここに……アストラ魔法学園に、残りたいんです。」
ずっと生徒でいたい訳じゃない。でもまだ学んでいたい。今は未熟者だけど、この場所を守る側になりたい。その方法が分からない。願いを捨てきれない。
時折つっかえながらも紡ぐ言葉に、ロゼッタ学園長は辛抱強く耳を傾けてくれた。最後まで話し終えるとゆっくりと口を開く。
「ありがとう、ルカ。よく話してくれたわ。」
「……すみません。わがままだと、思います。」
「あら、そんなこともないわよ?」
思わぬ返しに、下を向いていた顔を上げる。目が合うとにっこりと笑って言った。
「ルカ。貴方がそれを望んでくれるなら……私から提案があります。」




