32. 雪の季・終(2月)12日②
朝の静けさのなか、アリシアと二人きり。
彼女の告白はとても誠実だった。きっとすごく勇気を出してくれたんだろう。その想いは素直に嬉しくて、だから自分も逃げずに向き合おうと言葉を探す。
もう曖昧には出来ない。だとしたら、自分は――。
口を開きかけたその時、アリシアの手がそっと伸びてきて、指先がわずかに唇に触れた。
「待って、言わないで。」
その仕草と恋が滲む表情に、勝手に心臓が跳ねる。潤んだような瞳も桜色に色づく頬も愛らしく、けれど見つけかけた答えのせいで胸が痛んだ。
そっと指を離したアリシアは続ける。
「⋯⋯恋をするとね、その人の考えていることが、分かる時があるみたい。目で追っちゃうからかな。」
「⋯⋯⋯。」
「わがままでごめんなさい。でも、まだ答えを出さないでほしいの。もう少しだけ⋯⋯私の想いを知ったうえで、考えてほしくて。」
「⋯⋯わかった。」
断ることなど出来なかった。
わがままなのは自分の方だ。彼女の言葉に甘えて、答えを先延ばしにしようとしている。けれど返ってきたのは柔らかな笑みだった。
「ありがとう、聞いてくれて。」
「⋯⋯うん。」
今はそれ以上、何も言えない。それでもちゃんと向き合いたいと思った。
自分がどこで何をしたいのかだけじゃなくて、誰とどうなりたいのかを。
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その日の授業終わり、休暇で故郷に帰るテオとセルジュと会話した後で、一人魔法の練習場へと向かった。
自主練を一通り終えたうえで、隅に置かれた椅子へ腰掛ける。想像通りに魔法を使った後は頭が冴えているし誰もいないので、考えごとにも向いている環境だった。
――記憶が戻るまで、あえて考えないようにしていた。アリシアへ、レオンへと抱く自分の感情。
アリシアといると心が和む。可愛くて頑張り屋さんで、守ってあげたいと思う。
それから彼女の感性は前世の自分とどこか近く、共感する気持ちも大きかったかもしれない。でも、男として意識させられる瞬間も確かにあった。
レオンといると、心が揺れる。
守られている安心感と信頼があるのに、その目が自分を捉える時、その声に名を呼ばれる時、ふいに落ち着かなくなる。その感覚は決して嫌ではなくて、くすぐったくも心地よかった。
彼のことが好きなのだと、認めても良いのかもしれない。だけど……果たしてその気持ちは、本当に自分のものなんだろうか?そこに確信が持てなかった。
女性である前世の自分の意識では、レオンへの恋心が芽生え始めていた。その名残の可能性だってある。
それにこれが今の自分の想いであったとして、その傍にいることを、これからも望んで良いのか分からない。たとえレオンがそれを許してくれても、頼りっぱなしの自分は彼の未来の枷になってしまいそうで怖かった。
「……もう少し、考えよう。」
言い聞かせるように一人声に出した。考えることは大切でも、今すぐに結論を出さなければいけないわけではない。
懸命に向き合ってくれたアリシアのことももう一度思い浮かべながら、寮の部屋へと戻った。




