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【完結】ルカが幸せになる時〜銀髪の魔法使いは学園で恋と自分を知る〜  作者: 波音叶
二年生

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30/40

30. 彩の季・中(10月)15日②


襲われたのはその一度きりでも、それからはますます眠れず休まらなくなっていた。


ようやく学園直結の発着所近くまで辿り着いた時には心身ともに疲れ果て、宿の店主との会話もろくに覚えていない。ベッドで横になりながら浅い呼吸を繰り返した。


世界は、人は、必ずしも優しくない。


両親は間違いなく愛してくれていた。でも、これからは?学園に行けば再び居場所が出来るかもしれない。本当に?


恐れられるのも好奇の目で見られるのも、もう嫌だ。でも半血であることもこの容姿も、変えられない事実じゃないか。


いつも味方だった母さんはもういない。自分を生かしている父さんの魔力は、心に寄り添ってはくれない。一体何に希望を持てというのだろう。


――ああそうか、気づいてしまった。もう限界なんだ。


悲しい、悔しい、辛い。この感情から逃れられるのなら、このまま存在ごと消えてしまってもいい。そう思ったのが最後だった。


なのに。


"戻ってきて、ルカ。"

"怖くないよ。もう一人じゃないから。"


深い水底のような意識のなかで、誰かが繰り返し呼びかけてくる。その声は必死で、けれど同時にすごく優しかった。誰なんだろう。


次の瞬間に流れ込んでくるのは、アストラ学園で過ごした日々。


アルバート先生の治療、ロゼッタ学園長との対話、レオンとの生活……アリシアやアルと過ごした図書館の情景に、テオやセルジュもいる教室。


そこで唐突に理解する。自分はずっとこの景色を見ていたし、感じていたのだと。他人なんかじゃない。奪っても奪われてもいない。


"そうだね。ルカはずっと、自分の中にいた。やっと気づいた。"


優しく届く声の正体も、今ならわかる。これは〈前世の自分〉だ。気が付いた瞬間、二つの記憶がそっと重なり一つになる。


そう、前世では地球で働くOLだった。


結婚はしておらず恋人がいなくても、仕事はイラストレーターとの兼業で充実していて。でもスケジュールが重なって疲れが溜まるなか、考え事をしていた帰り道で事故に遭い、人生を終えてしまう。


そうしてこの世界で新たに生を受け、ルカとして育ってきた。


本来であれば前世はあくまでも前世で、何も影響を及ぼさないはずだ。けれど今世での生への拒絶に対して、もっと生きたかったという、かつての思いが作用したとすれば……?


望み通り眠りにつく代わりに、前世の記憶と意識が目を覚ました。そういうことだろう。抱えていた辛さと一緒にもとの記憶も封じられたものだから、〈ルカの身体を借りた他人〉だと思い込んだんだ。


ならば今の自分は、ややこしいけれども、〈前世の記憶を保持したままの、今世のルカ〉ということになるのか。きっかけはなんだろう。前世の自分がそう願ったから?


とても不思議な気分だ。怖くて閉じこもっていたい自分と、目を覚まし前へ踏み出したい自分とがいる。


でも、二つの人生が融合した今なら――独りぼっちだった自分よりも、強くなれているような気がする。


「ルカ」と大切な人が呼ぶ声がした。今生きているこの世界で、待ってくれている人がいる。


――わかったよ。これからは前世の自分も抱えて、大事に生きてみよう。


ゆっくりと意識が浮上して目を開けた。


**

最初に視界に入ったのは、寮の部屋の天井と、それから硬い表情で覗き込むレオンの顔だった。


「……ルカ。」


安堵したように肩の力を抜く。随分と不安にさせてしまったらしい。安心させるべく、そっと身体を起こした。


「えっと、ごめん。……うなされてた?」

「いや……深く眠って動かなかった。」

「……そっか。」


それはうなされているより怖いかもしれない。まだ動揺が残る様子に申し訳なく思った。


今日は休日だったはずとはいえ、時計を見るといつもの起床時間より随分と遅い。


「………。」


目を閉じゆっくりと呼吸をした。――大丈夫、全部覚えている。


「ルカ、本当に大丈夫か?どこか悪いのなら……。」

「ん、大丈夫。でもちょっと……外の空気を、吸ってこようかな。」


そう言って微笑みかけると、何か言いたげなのを堪えるように唇を結ぶ。もうすれ違いたくないから、真っ直ぐに見つめ返して言った。


「落ち着いたら……聞いてほしいことがあって。だから、待ってて。」

「……わかった。」


真剣な面持ちで頷いてくれる彼に、自分の変化は伝わっているだろうか。頭の中を整理したい一方で、我ながら落ち着いてもいた。きっとそれは準備が出来ていた証拠だ。


失ったものも傷ついた心も、たしかにある。思い起こせばやっぱり胸が苦しい。――でも、それでも。


今はもう、孤独じゃなかった。

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