完成形が特異解
なるほどな。精霊の使いで、優しい統治者。但し、裏切り者には容赦無い。か・・・
軽油と偽って JP-8 を持ってきた、って時点で気付くべきだったのかもしれん。
スコットだ。
まあ、マイティ最大の理解者であるジョージと会話して、頭が整理できた。
彼女は美しくて強く、異常なほどに頭が良い。それだけじゃなく、したたかで狡猾ですらある。
スケジュール確定の4ヶ月の間にラオ国の高官への浸透工作すら行った可能性がある。しかもタイ側へもだ。
そうでなければ戦略物質である C-130 のストラクチャーやら、大量の JP-8 など持ち込めるはずもない。
世界最高峰クラスの頭脳達にカネを払うのではなく、カネを払わせて研究に参加させる、さらに、そのスポンサーからもカネを引っ張るか・・・考えたことも無かったよ。
彼女もそのうちの一人であるからこそできる、逆転の一撃だ。
ショボい PMC ですら $1M以上用意した。お前ら、そんなしみったれた金額で恥ずかしくないのか?くらいのことは言ったんだろう。
まあ、彼女が言ったことを信じれば、建設会社を一つ二つ買っているわけだし、$1M で足りるわけもない。高官にバラまくカネだって必要なわけだからな。
・・・
オレには彼女の超多言語のうち、良し悪しが分かるのは英語ぐらいだ。
日本人の英語には慣れているが、彼女の英語は『異質』だ。
いや、発音にしても何にしてもネイティブと言って過言ではないのだが・・・
オレは基本的にはUSイングリッシュだ。彼女はUKイングリッシュを話すことも多いが、USメンバーと話すときにはUSっぽく話す。煙に巻くようなエスタブリッシュも話すし、他にもニューヨーカー風とシリコンバレー風は確認している。
それだけじゃない。フランス人がいればフランス人が話しそうな、同じくドイツ人が話しそうな英語もしゃべるし、あのくそったれなインド英語もインド風にしゃべる。シンガポールもだ。
最早当然なのか?日本人がいればジャパニーズイングリッシュだ。
彼女曰く、Chopping Englishらしいが。
あと、英語での会議中に聞きとれなかった重要人物がいた場合、英語から英語への英語での通訳という、他ではあまり見られないことをする。
その重要人物が、正直英語は得意ではない、という時に限られる。
まあ、滅多に見られるものじゃない。
・・・
よう、完成したな。
「感慨深いな」
多分、L-100 だけでなく、C-130 としても、それにJ 型を足したとしても、世界一、頑丈な L-100 または C-130 だ。そして、一番軽い機体でもあるだろう。
「ほぼ、リベットを使わなかったからな」
しかしまあ・・・見事な統率力だった。
「何の話だ?」
とぼけんなよ。兵隊全員をお前の信奉者にしただろう?
「たまたまだろうな」
絶対嘘だろう・・・狙ってやらなければ、ああはならない・・・まあいい、流すか。
いつから慣熟飛行を始めるんだ?
「速ければ今夜からかな・・・それより、教官は誰なんだ?」
その話なんだが・・・逃げたんだよ。
「ん?」
教官になる予定の士官が逃げた。
「何だそれは・・・首根っこつかんで回収してこい!」
いや・・・改修の様子を見ていて、これじゃ、まったく別の飛行機だ、これを操縦するなんて無理だって言ってな。
「だとしても・・・C-130 なり何なり飛ばしたことあるなら、手探りで飛ばせるだろう?」
奴はテストパイロットじゃないんだ。そこまで求めるのは流石にな。
「すると、私はいきなり左に座るのか?冗談じゃない!!」
気持ちは分からんでもない。あんたも逃げたほうも。
「どういう意味だ?意味によっては本気で蹴るぞ!!」
キックは勘弁してくれよ・・・いや、どういう意図かは今イチ理解していないが、もう、これは L-100 の剛性じゃないだろう?
それだけじゃない。普通は4発のエンジンを別々に制御するなんて無茶なことはやらないんだよ。
ああ、なるほど、そのために主翼根の剛性にすごくこだわった、と、今言われればそう理解できることはできるんだがな・・・
さらに、一般の C-130 乗りにとっては、左右のフラップが別々に動くなんて、恐怖でしかないんだ。
「一応、通常は4発は同期制御だし、フラップも普通に使えば普通に降りられるような制御だぞ?4発非同期可変ピッチや空戦フラップはオプションに過ぎない!」
それはあんたの頭の中にしっかりとした設計図と完成形があるからであって、それを書面から読み取れないやつには恐怖でしかない。失速するとしか思えないんだよ。
一応、言っておくぞ?パイロットはエンジニアじゃない。操縦用のマニュアルは読めても整備のマニュアルは読めないんだ。
自分を基準にするなよ?あんたは博士連中をアゴで使って、現場の整備兵、一般兵に崇め奉られている超越的存在なんだ。普通のパイロットじゃないんだよ。
オレだってポーターくらいなら飛ばせるが、あんな飛ばしかたは未来永劫できないだろう。
「・・・お前の言い分にも一理あることを認めよう・・・」
まあ、いいだろう・・・オレは正直、軍じゃ飛行機を飛ばせない。300時間台じゃ、自家用に毛の生えたレベルだからな。
だからこそ不思議なんだ。600時間を越えたとは聞いたが、その程度でよくもまあ、あんなに飛ばせるもんだってな。
オレなら10回は死んでるよ。
「正直、コンピューターに感謝だ。フライトシミュレータには随分助けられている」
キーボードでガチャガチャやって練習になるのか?
「そういうレベルじゃないんだ。操縦桿だけがUSB接続ってわけでもないんだ。4発機のターボプロップのためにスロットルとプロペラピッチが4本ずつ付いているし、ペダルだって普通のラダーとブレーキだけじゃない。フラップのペダルすら付いている。モニターも窓用が三枚と計器用が四枚あるんだ。頭上のスイッチも10や20じゃきかない」
それは・・・本格的なコックピット、ということか?
「こんな感じかな?」
ほとんど本物じゃねーか!
「まあな。シミュレーターのフィードバックは仮想的なものだから、それほどアテにはならないが、そこは実機の経験で補完するしかない」
単発や双発はどうするんだ?
「別に、使わないレバーが増えるだけだ。ジェットにも・・・正直、戦闘機はフライトシミュレータの華だからな。古典的なF-15や14も飛ばせるだけのレバーやスイッチが付いている」
飛行時間を正確に教えてもらっていいか?
「この間のポーターを入れて652時間だな」
それには、このフライトシミュレータは入っていないよな?
「入っているわけが無かろう!」
もし、入れたら何時間になる?
「シミュレータにもログブック機能はあるが、ここからは見えないからな・・・まあ、シミュレーターだけで5,000時間より多いのは間違いないだろう。10,000は行ってないと思うぞ?」
いつ寝てたんだよ!!
「正直に言えば、毎朝の例のライブの直前まで飛んでたこともそれなりにある。そうすれば一日で10時間稼げるわけだ」
何の練習をしてたんだよ!!
「まあ、最初のころは単発機の事前練習だな。ある程度実機に乗るようになってからは、実機ではちょっと危険な事をガンガンやるようになっていたな。こっちは最悪落ちても死なないからな」
ポーターのマニューバもそれかよ!!
「いや、あれは実機だ。垂直に登って降りての仕事だからな。でもまあ、その前にポーターじゃないがセスナのどれかはシミュレーターでやって、これ以上は危険だな、という感覚はつかめていたがな」
そういやスカイダイバーの送迎業務をやったって言ってたな・・・
なるほど、フライトシミュレータ恐るべし、というところか。
「限界性能を実機の前に探り、その8割程度までを実機でやるという意味ではその通りだな」
8割でも恐えよ!!
「そうだな、8割でもちょっと行けば10割だから危険は危険だ。ただ、実機で感覚を掴んだあと、フライトシミュレータで追実験して、自分の中にフィードバック回路を作ることはできる」
それが普通じゃねぇんだよ!
でも、C-130 / L-100 なんて輸送機、フライトシミュレータに入ってないだろ?
「mod と言って追加のカスタムパッケージを作ることが出来るんだ。ウチの親会社はシステム会社だし、ソフトウェア開発もできる。私もできるが、仕様書だけ書いてプロに任せたほうが速い。骨格さえできてしまえば、小改造は自分でできるしな」
普通に考えて、あそこまで分解した機体を一月もかからずに組み上げるなんて、やっつけ整備にも程があるはずなんだが、完璧な整備だったのはオレだって見ている。
もう一度言うぞ? お前の頭の中には完成形があるんだよな?それはそのmod?とやらにも反映されて、こっちに来る前にさんざん練習したってことだよな?
「そうだ。流石にフライトシミュレータでの練習くらいはしないと恐いからな・・・」
じゃあ、教官になるはずだったやつが逃げた理由も分かるよな?分かるだろ!
「だが、普通のC-130 は飛ばしたことがあるやつなんだろ?」
それなりにはやっただろうし、機長だって散々やっている。だがな、操縦系が全然違えば、そんな経験、役に立つわけないだろ!!
一応言っておくぞ!!そんな魔改造機のシミュレーターなんてお前しか持っていないんだよ!!!




