スケジュール確保!
ジョージです。
本当に行くんですね?
「習熟訓練も無しに新しい機種に乗ることなど出来ぬ」
そりゃ、そうですが・・・
あれから四ヶ月が過ぎ、マイティさんはラオ国に訓練に行くことになりました。
なんでラオ国なんですか?
「あれだ。元々ベトナムの隣で、PMC 的なものはそれなりに多いというのと、山岳飛行の練習に適した地形ということがある。あとは、なんというか汚職がそれなりに盛んで、カネとコネがあれば適当な航空機の登録が出来るという側面もある」
だめじゃないですか・・・それ。
「普通に考えればな。ただ、どちらにしろ、PMC なんてものはグレーな仕事が一杯あるのだ。あと、賄賂というのがカネを渡すだけだと思ったりしてないか?」
え・・・カネでなくモノとかという意味・・・ではないですよね?
「そうだ。買う、という賄賂もあるのだ。高官の親族経営の企業からサービスやモノを継続的に買う、という方法もある」
そうなると・・・合法的な売上になるわけですよね?
「まあ、ヤクザのミカジメ料と同じだな。現存しているヤクザのミカジメ料は花屋だったりするからな」
どういうことですか?
「夜の商売の店では、生花を飾るところが多い。これは安くなくても不自然じゃないし、アレンジメントで価格が違う、と、言い張れる。一日1万円の差だったとしてもおかしくないが、一月なら20万以上の上がりになるからな。毎日営業する店なら30万だ。一店舗からそれくらいの上がりがあれば数十の店を束ねているところなら商売になるわけだ」
・・・なるほど・・・実質的には未だにミカジメ料を取っているのに、形式的には合法・・・あれ?中央更生カンパニーもそれやってませんでしたっけ?
「やっている。ヤクザほどぼったくってないのと、県警がバックに付いて『暴力団排除』の加盟店ステッカーが貼れるのがウリだな。あと、一応、ボランタリーということになっているが、ヨソモノのチンピラがきたときには、ウチの社員が出張っていくこともできることになっている」
なんかヤクザと変わらない気がします・・・
「いや、ヤクザが入っていたときは印刷物からオシボリから何から何までそっち経由で頼まなければ庇護の対象にならなかったが、今では最低一ラインだけ更生カンパニー経由にしてくれればいい、ということになっている。例えば、八百屋ならチラシの印刷だけ、とかな?」
なるほど・・・じゃない気もしますが、今はいいです・・・
その逆ということで、継続的に買い続けることで高官なり誰かが、政府やら警察に話を付けてくれる、ってことですね・・・
「そういうことだ。既に買っているものもある」
なんですか?
「タイ契約のLEO 衛星インターネットだ。ラオ国の南部、私が行くPMC の拠点付近では、タイのテレビも見えるし、4G/5Gの電波も拾える。ラオ国は社会主義国で、通信の統制があるんだが、何故かその高官の親族経由では、タイ契約の衛星インターネットが買えるんだ」
・・・めちゃくちゃじゃないですか・・・統制する立場なんですよね?その高官さんは・・・
「そういう国だと思うしかない。まあ、それだけだと安全とは言い難いから、一段目で、Nord かなんか、二段目でさらにWireGuard かなにかを掛ける必要もあるかもしれないが」
そういえば言語はどうなんですか?
あなたの場合、あまり苦労はなさそうですが。
「ラオ語は思い出した。文字はちょっと苦戦するかもしれないが、会話は大丈夫。フランス統治国だったから、フランス語も現地のエリート層には通じるらしいし。タイ語も実質的には通じる。少なくとも南部では。パクセーという街だ」
でも、飛行機ですよね。その周辺だけ、というわけにはいかないんじゃないでしょうか。
「まあ、ジャール平原くらいまでは行くかもしれないが・・・あそこは戦争の爪痕が未だに残りまくりで不発弾がどれだけ埋まっているか分からぬので、不整地着陸はないな。北限だとルアンナムターの可能性があるが・・・あそこはなぁ・・・」
ルアンナムターですか・・・寡聞にして存じあげませんが・・・
「うむ、ほぼ中国だ。普通話も雲南話も一応できるから、まあ、話はできると思うが・・・」
中国なんですか?!
「国境までか、国境を越えているかは分からぬが、近くの街まで、高速か鉄道が通じていたはずだ。まあ、ラオ語の方言の違いよりそちらのほうが楽かもしれぬ」
やっぱり方言でけっこう違う言語なんですね・・・
「まあ、標準的なラオ語を話していれば聞いてはもらえるが、返事は方言の可能性はあるな。山と盆地ばかりだから、一山越えれば方言が変わるのは、まあ、普通だろうな」
ウチの実家のほうで、太い川を渡ると方言が微妙に変わっていって、浜松まで行くと同じ県内とは思えない方言差があるみたいなもんでしょうね。
そういえば、距離はどのくらいあるんですか?
「ルアンナムターからヴィエンチャンまでは350~400kmくらい、ヴィエンチャンからパクセーまでは450~500kmくらいだな。但し、ヴィエンチャン-パクセー間は真っ直ぐ飛べない。迂回飛行が必要だ」
どうしてですか?
「簡単だ。タイに領空侵犯してしまうからだ。L-100では戦闘機に対抗できないからな」
対抗しなくていいです。迂回しましょう。まあ、最大で1000~1200kmくらいの航続距離があればいいんですね・・・
そういえば・・・スマホのGPS 情報を共有してもらう件は、マイティさん的には問題ないですか?
「別にかまわぬが・・・電波がな?日本でも山岳地帯では切れるだろう?ラオ国のUnitel は軍がバックに付いているので、案外強いらしいが、軍がバックについているということは検閲される可能性もあるということだ」
それは、VPNクライアントを入れて常時オンにしてもらうくらいしか思いつきません。
「あとは、業務内容によっては電源を切るよう要求される可能性はある。一応、契約書ではその場合はこちらから断っていい、ということになっているが、銃を突き付けられたら切るしかないな」
そこは命を優先していただいて構いません。
しかし・・・世界一運用されているであろう軍用輸送機ですから、慣熟しておく意味はあるとは思いますが・・・なぜ受けたんでしょうか?
「うむ。当該PMC の業務内容として、辺境のインフラ整備や、人道支援の実施、と、ともに、考古学的調査、というものがあった。これに魅力を感じたわけだ。ルアンナムターは銅の道、塩の道でもあったわけだし、ジャール平原だって不発弾だらけなものの、史跡は豊富だ。ユネスコ世界遺産になるほどにな。クメール朝以前の歴史の解明という意味では、こちらでツテを作って、教授に話を持っていって、あっちの大学の公式プロジェクトにしてもらう手もある」
・・・そういえばこの人は考古学者でもあったんでした・・・
「あと、この周辺なら、スポンサーも集めやすい」
え?そうなんですか?
「うむ。日本では現代の中国に対する好き嫌いとは別に、物語としての三国志、特に蜀の物語が未だに大人気だ。正史だけでなく創作物としてもな」
はあ・・・そうですね・・・ぼくも図書館で古いマンガ版を読みましたけど確かに夢中になって読み切ってしまいました。
「そうだな。そして、劉備・関羽・張飛だけでなく、諸葛孔明の人気も高い」
それはわかりますが・・・
「孔明の南征という逸話というか『お話』は覚えているか?」
えーーと・・・北伐の前に国内の安定を図るため、南方に遠征した話ですよね?
「そうだ。そこに孟獲という武将が出てくるが、これは、部族の長だと認識してる。そして、有名なのが『七縦七擒』という逸話だ。分かるか?」
なんとなく覚えています。単にこらしめるのではなく、心から屈服させるために行った施策で、その後は従順な配下となったみたいな話でしたよね?
「その通り。孟獲の支配地は雲南省あたり、と言われているが、先程述べただろう?ラオ国と接しているんだ。そして、南征は短期決戦だったのでラオ国までは来てないはずなんだが、ラオ国北部やミャンマー北部には孔明がここまで来た、という石碑がそれなりに残されていると言われている。本物かどうかは別としてな?」
・・・考古学的に面白いというか・・・どちらかと言うと、歴史の『 if モノ』としての一般受けというか・・・
「そうだな、荒唐無稽な説かもしれない。ただ、孟獲の支配地を従属的な自治区として取り扱っていたのであれば、中世のヨーロッパ貴族、武力で地域を支配していた有力者、という意味でな?と、大差ない。そして、従属の見返りとして、知識を授けた、というのは非常に『孔明的』だ」
それはなんとなく理解します。
「そして、蜀は滅亡し、その後の晋、西晋も長くは続かない。その混乱の中で一族の子孫が南に移動した、という説は唱えること自体は自由だ。そして、ルアンナムター付近は元々古代からの交易路だったんだ」
そうなると・・・
「そう、当時、科学技術では中国は間違いなく先進国だった。そして、官僚制度もあり、官吏登用のための九品官人法すらあった。さらには貴族の専横や、汚職すらあった 『文明の』先進国なんだ。三世紀の話だぞ?」
日本は卑弥呼の時代ですね・・・汚職はどうかと思いますが、確かに官僚制度などが確立していなければ汚職の意味すらありませんからね・・・
「そう。だから、プリ・クメールの奇跡は孔明の南征にあった、という説は立てられるし、日本ではそれなりに受ける。つまり、スポンサーが集めやすい!!」
結局はカネですか・・・
「ジョージ・・・お前の言いたいことは分からなくもないが・・・カネが無ければ調査もままならぬのが現実だ」
それはわかりますが・・・
「それにな?」
なんですか?
「アフリカよりアジアのほうがお前も安心するのではないか?」
確かにそれは言えます!
シエンクワーン県「ジャール平原(Plain of Jars)」:
数千個の巨大な石壺が散らばる、ユネスコ世界遺産。ここは不発弾のために調査が進んでいないエリアが膨大にあります。
ルアンナムター〜雲南国境「古代の塩と銅の道」:
かつてのキャラバン(馬搬)が通った交易路の探索。中国の「一帯一路」による近代的な開発が進む中、その下に眠る「青銅器時代の採掘跡」を、開発が破壊する前に記録・保全するのが目的です。
アンナン山脈の「隠された聖域」:
ベトナム戦争中に北ベトナム軍が利用した洞窟網は、実は数千年前からの聖域である場合が多いです。




