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ファイティングガール!  作者: Jack…
大学二年
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クミちゃんの不満

水野クミです。


中央高のころから付き合っているカントク、増田くんと今も付き合ってます。


芸術学部に入学した彼から最初に言われたのは「カントク」と呼ぶのはやめてほしい、でした。


まあ、本当に監督になる人を育てる学部ですから、今、あだ名として呼ばれることは遠慮したいって気持ちは分かります。


でも、ずーーーーって「カントク」って呼んでたから、今更「マスダくん」とか呼ぶの、ちょっと気恥ずかしいんですよね。


まあ、がんばって呼んでますけど。


でも二人だけで部屋にいるときはカントクって言います!!


           ・・・


カントク、部屋の中ならいいよね?


「いいですけど・・・やっぱりあそこに行くとスゴい人ばかりで、カントク、と言われるたびに胸の奥にズキっと来るものはあります」


やっぱ、あそこってスゴいんだ・・・


「いやまあ・・・一年ちょっと経って、二つの退学パターンがあるってのを実感したあとだと特に、ですね」


退学パターンが二つ?付いていけない以外にあるんだ?


「普通はそうですよね。大学の教育レベルから落ちこぼれたら退学して、人によっては別の大学や専門学校に行くっていうのはあります」


それはあるよね。うちの大学でも・・・少ないけどあるよ。留年もある。


「あそこはそっちより別の退学が多かったりします」


どんな退学?


「在学中に芸能人や歌手としてデビューしたんで、もういてもしょうがないという退学です」


あーーー・・・・・・なるほど。


「僕のいる文芸でも、文学賞で大賞を取って退学するってひともいないわけじゃないみたいです」


でも、カントクが、小説家なんて食えるかどうか分かんないって言ってなかった?


「はい。僕はそう思っています。だから、応募自体はしていますが、入選しても卒業はするつもりですよ」


最終選考とかに残ったことあるの?


「まったくです。一次ですらほぼ落ちます」


そういうもの?


「そういうものです」


メンタル持つの?


「まあ、分かってたことです。それくらいで心が折れてたら文芸なんてやってられません」


そうなんだ。でさ。


「はい?なんですか?水野さん」


私からカントクにちょっと言いたいことが二つあるんだけど。


「できることでしたら」


一つ目は敬語をやめてほしい。


「え?」


うん、外で話すときに敬語を使うのはまだいいだけど、一緒のベッドに入っているときにも敬語なのはちょっとやめてほしいんだ


「・・・努力します・・・二つめは何でしょう」


はい。水野さんでなくて、クミって呼べないかな?私のこと。


「・・・そうですね・・・ここまでいろいろしておいて、『水野さん』では他人行儀ですから・・・とりあえずクミさんと呼ぶのでもよいですか?」


まあ、水野さんよりはいいか・・・

ちなみに敬語を崩さない理由はなに?


「特に・・・いきなりタメ口にするのも、あまりにも彼氏ヅラをしているようで・・・はばかられまして・・・」


・・・あのーー。私はあなたのことを彼氏と認めているんだから、多少の彼氏ヅラをしても責めたりはしないんだけど・・・

カントクって、自尊心とか、自己肯定感とか足りなくない?


「自覚はあります。自信も足りないと思います」


それで文芸はできるんですか?


「うーん・・・自信も自己肯定感もない作家という人はそれなりにいるんで・・・」


有名な人では?


「まあ、評価する人によって異なるとは思うけど、太宰治とか?なんせ四回自殺している。三回は未遂だけど・・・」


え・・・自殺したことは知ってたけど、そんなにしてたんだ・・・

まあ、死んだらそのあとは自殺できるわけないから、未遂が三回なのは当然だけど・・・


「あとは、構造的に、今の正統派の作家はあまり自己肯定感が強くない」


構造的?どういうこと?


「正統派じゃないほうが売れちゃってるから」


なんででしょう?


「うん。出版社というのは、本を出すからには黒字にしたい、という思いがある。まあ、商業出版だから当たり前なんだけどね?」


まあ、それはそうだよね?


「で、Web 小説ね。これさ、人気とか、どんだけ読まれてるってのが、イヤでもリアルタイムに分かるわけ」


ああ、そうなると・・・


「そう。今の売れっ子はほとんどがWeb小説家なんだよ。出せばどれくらい売れるってのも、もう分かるようになってるからね」


ちなみに正統派の作家・・・の定義は?


「もう、難しくなっている。昔なら、文学賞とかに応募して入賞したひと、とか、小説家の○○先生の弟子、とかあったんだけど。今じゃ師匠がいない人ばっかりなんだよ」


小説家って徒弟制なの?落語家みたいだね。


「あそこまで強烈な関係性というのはないと思うよ。漫画家のアシスタントのほうが近いんじゃないかな?」


漫画家のアシスタント・・・背景とかモブを描く人だよね?・・・小説にそんなの無くない?


「無いわけじゃないんだ。長編だったりすると書きはじめる前に大体のプロットを書いて、それから肉付けすることもあるし、大河小説的なものだと、それこそ舞台背景が10年単位のものだってある。物によってはもっとだ。そうなるとこのキャラはいつ何歳で、こっちの家系はこうなってて、向こうはこうだ、みたいな設定の山が必要になる」


ああ、そういう・・・確かにいるね。大河小説って、なんか古い小説に多い気がするけど・・・


「SFやマンガも含めれば未だに結構あるよ?銀英伝はちょっと古いかもしれないけど今でも有名だし、その時代だとグイン・サーガという大技もある。あれはプロットを書かずに書いてたみたいだけど・・・あと100巻越えてるマンガは基本的に大河小説・マンガだよ」


なるほど・・・確かにそうかもだけど・・・結構矛盾を無視しているのも多くない?


「まあ、あるあるだよね。Web 小説とかラノベでそれほど正統派小説にならなくてもいいのなら、別に整合性を完全に取らなくても面白いだけでいい」


結局は、部数が出ればいいってこと・・・


「そうなる。または、課金が取れれば、だね。Web 小説のコミカライズって、今となってはマンガ界一大コンテンツだけど、最初、小説で一巻分をコミカライズして、伸びなきゃコミカライズ版はそこでおしまいってパターンが多い」


世知辛いですね・・・


「逆に言うと小説ファンは『紙の本』を買ってくれる、出版社からしたら神客なわけで、小説で一巻の内容って短かければ数日だけど、2~3ヶ月のエピソードも多い。つまり、4~5巻出れば一年過ぎちゃう。で20巻とか30巻まで出るような長編シリーズも少なくない」


と、なると、それらって実質的には大河小説になるんですね・・・


「大体はね。そうならない構成のものもあるけど」


カントクは本格的な作家を目指して文学賞とか応募してるの?


「逆に文学賞がWeb 小説側に寄ってきてるってのもあるんだ。なんせ投稿してもらいやすいし、本人の痛みを別にすればコメントや批評が勝手に付くからね」


中央高のころもしてたの?


「もちろん。『クソつまらん』とかのコメントも目一杯もらってたよ」


それが本人の痛みってやつ?


「まあね。でもすぐ慣れる。極論として、適当な事書き散らしてんじゃなくて、全部読んで詳細にコキ下ろしてるってのは・・・めったにもらえないけど・・・ありがたいことなんだよ」


そうなの?


「まず、全部読んでもらえた時点で嬉しい。そして、詳細にコキ下ろすってのは・・・読者側としての期待度って考えられるんだよ。一万文字、400字詰め25枚を詳細にコキ下ろすとなるとその三分の一、3000文字、原稿用紙にすると8枚以上も書く。当然すごく疲れる作業だから。嬉しいんだよ」


ああ、そういうことね・・・じゃあ、授業でも批評されまくりなのね・・・


「そう、批評は疲れる作業だからね。学費を払って先生にしてもらわないといけないわけだ」


じゃあ、小説家の師匠は、雑用を引き受けてもらう代わりに、そういう指摘をしたりするんだね・・・


「いろいろみたいだけど、まあ、僕も師匠はいないから詳細はわからない。でも弟子として取ったからにはしてくれると思うよ」


カントク、あの、外では増田くんと呼ぶけど、ここはカントクって呼ぶのはいいよね?


「まあ、呼ばれ慣れてはいるし、二人のときはいいんだけど・・・江古田の街だとどこに学部生がいるかわかんないから・・・『こいつ、彼女にカントクって呼ばせてるんだ』と思われるのがとっても恥ずかしい・・・」


はーーーー確かに、理解したし、敬語からタメ口になったし、今日の不満は解消しました。


「ありがとう。これからもよろしく」


はいはい・・・もうちょっと強引なところがあってもいいんだけど・・・優しさは充分だから、今はいいかな・・・

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