勝手に追加任務を受注するんじゃねぇ!!
スコットだ。
『ごほうび』フライトは順調だった。
何といっても、パクセーからシェンクワーン、共に空港での引き渡しだ。
そう、オレ達は空港から空港への輸送をするだけでいいのだ。
正直、この国の人民軍の空軍は絶賛・立て直し中というところで、14t の支援物資など運べるような状態じゃない。
いや、まったく運べないわけじゃないんだが、完全内陸国のこの国は国境警備だけで、陸軍の動ける兵隊のうち、半分くらいを展開している。
そうなると、物資を四方八方に届けるという仕事 ―― 兵站があり、南北に長いこの国では立て直し中の空軍にそれを託す必要があるのだ。
その輸送機だって、大型トレーラー級の L-100 からみたら、ミニバン・・・は、流石にアレか、まあ、マイクロバス級に見えるようなものばかりだ。
今回の支援物資は、人民軍にとっても、喉から手が出るほどに欲しいもの、不発弾の検出・除去装置だ。
人民軍もジャール平原に不発弾処理の部隊を展開している。
しかし、不発弾は不発だっただけで、基本的には爆弾のままだ。
つまり、危険だ。中でも BLU-26、クラスター爆弾からばら撒かれた子爆弾は数百万発とも一千万発以上とも言われている・・・うん、量が多い。重さとしては一ポンドというところだが、『この先、不発弾あり』という看板が読めない子供が亡くなる事故は今も絶えない。それが悲しい現実だ。
今回の装置は、この子爆弾に焦点を当てたものだ。もちろん、250ポンド以上のMk81/82なんかの不発弾も多い。しかし、数で言えば BLU-26 相当のものが9割以上を占めると言われている。つまり250ポンドや500ポンドの爆弾も数十万発埋まっているというわけだが・・・
まあ、オレ達の祖先・・・といっても一世代か二世代前に過ぎないが・・・ずいぶんなことをしてくれたもんだと思うぜ。
オレだって先祖の罪滅ぼしにこういう任務を受けているわけじゃなく、メシのタネにしているに過ぎないから、どっちもどっちだろ?と言われたら、まあな。と答えるしかないがな。
まあ、国連の支援物資なのは間違いないし、この国にとって、ある程度の救いになるのも確かだろう。
11.8t の本体に補機なんかも入れて14t の大荷物だ。
後部ハッチからレールとウィンチで引き上げ可能な、ウチの輸送機でなきゃ、なかなか運べる機体なんかねぇよ。
タイ国境からパクセー空港までと、シェンクワーン空港からジャール平原への輸送はどうするかって?
それは人民軍にお任せだ。結局、不発弾の処理部隊は人民軍だからな。
あとは面子というやつだ。
軍隊にしても、政府の省庁にしても面子が立つ、立たないというのは非常に大きな問題になる。
人民軍では物理的に不可能だからこっちに仕事が回ってきただけだが、陸送までこっちにやられては面子が立たないにも程があるってことだ。
まあ、このPMC で14t もの大荷物を陸送するのはどだい無理な話なんだがな。割と航空輸送に特化したPMC なんでね。ポーターどころかスカイバンまであるくらいにはな。
整備兵が圧倒的に足りてないがな・・・司令、頼んだぜ?
・・・
夜明けとともに、農業機用の簡易空港のはずのPMC の拠点からパクセーの国際空港になぜか L-100 が飛んでいったわけだが、管制官どもは知らんぷりだ。
公然の秘密というやつだな。まあ、そうでないと困るのも事実だ。
普通に滑走路を指示されて、格納庫までタキシングするだけの話だ。
今、この支援物資を持ち込むのには意味がある。乾季が始まってしばらくした今が重量物を陸送するのに一年で最適だからだ。
雨季になったら平原が一面の泥沼になる。もちろん、BLU がどこにあるかなんて全く分からない、死の泥沼だ。
もっとも、そのお陰で重い爆弾は地表から深いところに沈んでいる、という副作用もあるんだが・・・まあ、いつか浮いてくるかもしれないから油断は禁物だ。
パクセーはタイからの輸入窓口的な街でもある。特に重量物は物理的にタイの港にも近いここで受け取るのが最適だ。
なので、国際空港にはそれなりの重機もあり、積載にも苦労は無かった。
ボンとダオがウィンチを担当し、他の兵士は見てただけ、というやつだ。
見ていただけなのは、積載だけで、もちろん、ラッシングとその確認は全員がやったさ。
・・・
「さて、行くか」
いつも通りの起動シーケンスの後、機長席で彼女は呟いた。
オレとノイは、そろって「Roger」と返し、機長のマイティが管制と話して、こちらも「Roger」と返し、離陸準備完了だ。
「ノイ、今日は AE2100 初のフルスロットルだ、スコット、四連スロットルを一杯に入れろ」
マイティはそういうと、オレにスロットルを入れさせた。もちろん、パーキングブレーキはまだ掛かりっぱなしだ。オレの両方の爪先は機体に食い込みやがれってくらいの力でブレーキを保持している。
オレ達も貨物室に座っている兵隊達もヘルメットをかぶっているが、AE2100 のフルスロットルは・・・轟音・・・と言うしかなかった。
「キャプテン、EGT 上昇、全基正常!トルク上昇!!」
ノイだ。ヤツなりに必死にディスプレイを見ているんだろう。
「出るぞ!!」
はい、キャプテン!
オレは彼女の合図に合わせ、爪先でブレーキをリリースした。
その途端、とんでもねぇ加速が始まった!
・・・
ロケットスタートで加速した L-100 は 3,000mの滑走路を1,000mも使わないうちに110ktを越え、1,200m のラインの手前で離陸した。
人民軍、陸軍のやつらも見物していたし、管制塔からも注目の的だったのは分かっていた。
これは彼女なりのパフォーマンスというやつだろう。14t ぽっちの荷物なんて軽いもんだよ的な・・・これも『面子』かな?・・・いや、単にせっかくの高性能エンジンのパワーを使いたかっただけかもしれない。
こいつは普段の簡易滑走路じゃできねぇからな。あそこじゃ、ブレーキを掛けてたって、勝手に前に進んじまうwww
「やはり、いい滑走路はいいな!」
やっぱりそうかよ。陸軍の見物人も管制塔のやつらも口を開けてポカーンとしていたことだろう。14t の鉄の塊を積んでるのは知ってるからな。
それがわずか1,000mちょいで離陸して、ぐんぐん上昇していく。まあ、JP-8 の無駄遣いであることは確実だが、ウチがナメられないための、そしてウチの階級章の『格』を維持するための必要経費だとすれば大した投資ではない。
そして、巡航速度の 300kt に達すると、5,000ft をキープだ。
本当なら 20,000 ft あたりが燃費がいいんだが、後ろの兵士が死んでしまう。
与圧もないし、耐寒装備を配ってあるだけだからだ。
本来、パクセーからシェンクワーンなら、真っ直ぐ飛べばいい。
しかし、兵士たちにヴィエンチャンを見せてやるために、山岳飛行訓練と称して、ビア山を大きく回り込み、ナムグム川から北上し西からシェンクワーンにアプローチする。
そして、ヴィエンチャンの北東部で、航路を北西に向けている時間を使い、高度を5,000ft まで落とし、主脚カバーを開くというパフォーマンスだ。
「機長から貨物室。これから30秒後、90秒間主脚カバーを開く。総員、近くの点検口から地上を眺めよ。座席ベルトは外してよい、但し、座席後部に連結した腰の安全索は装着したままとすること。警告する。これは安全ではない。全員、再度安全索の装着を確認し、隣席の者とダブルチェックをせよ。繰り返し警告する。これは安全ではない。両手で貨物のラッシングワイヤーなどを掴め!」
なんつーアナウンスだ。安全ではない、か。
安全とは言いがたいのは事実か。まあ、主脚の点検口からなら、落ちるってことだってありうる。
操縦室は与圧されているので、貨物室との隔壁の扉は開けられない。
パッキングされていない工具や紙類がまったくない向こう側と違い、こちらにはフライトプランやチェックリスト等々の紙やペンもあるので、風が吹くのは避けたい。
それでも後ろから、ガヤガヤとした雰囲気がするのは伝わってきた。防音材は最小限だからな。
「では主脚カバーを開く。再度警告する。点検口に手足を入れたり、身を乗り出したりすると落下の危険がある。安全ではないアトラクションであることを認識せよ!しっかりとラッシングのワイヤーや鎖を掴み、覗くだけにせよ。いくぞ!!」
ガゴン!
開けたか・・・おう・・・こりゃ、キツい・・・
おいおい・・・まるでなにかに掴まれて揺さぶられてるみたいだぜ。
機長・・・機体が・・・なんとか保持できますが・・・
「予想より揺れるな。まあ、両方開けてよかったな。片側だと例のフラップを使わないといけないところだった」
やめてくれ!!兵士が死ぬ!!落ちる!!
「どちらにしろ90秒は持たないだろう・・・寒いからな。気温は10℃はあるだろうが、暴風が吹き荒れるだろうから」
まじかよ!!
「ボン!!ダオ!!大丈夫か!!」
それを聞いたノイも、真っ青になり、インターコムで貨物室に話し掛けている・・・叫び掛けているのほうが適切か?
『クナイ・マイ、CLOSE IT!!PLEASE!!DAO』
バックグラウンドノイズがシャレにならん!!機長、頼む!!
「分かった」
ギーーー・・・ガゴン!!
「スコット、貨物室の人員に欠けが無いか確認せよ」
シャレにならん!!
スコットから貨物室!!ダオでいいぞ!!
総員無事か?
おい!!こんな間はいらないよ!!ダオ!!ボン!!誰でもいいぞ!!
『ダオです・・・。総員無事。怪我人もいません』
一応聞くだけは聞いておくか・・・
景色は堪能できたか?
『はい、最初の15秒くらいはですけど・・・首都のまん丸い湖でしたっけ?あれも見えました。』
そのあとはどうだ?
『雨のない・・・ロム・パユでした・・・』
なんだ?それ・・・
「ああ、スコット、ລົມພາຍຸ だ。Maelstrom、Gale、Turbulence だ」
メチャクチャな突風ってことかよ・・・
ごほうびのはずが災難だったな。
『いや、みんな感謝してます! こんなの見たことありませんから!!・・・当分は酒の席で自慢できます!!!』
そいつは何よりだよ。兵士が無事なのがオレには何よりだ・・・
・・・
ヴィエンチャン経由は遠回りだが、遠回りといっても 100~120 nm、200km 程度のものだ。
そして、観測機器・・・工業用PCをフル稼動させ、ジャール平原の上を偵察飛行だ。
と、思ったら、真っ直ぐ空港のほうへアプローチだ。
「今は7号線沿いをスキャンすればよい。取り敢えず、腹の中の重いものを降ろさぬと観測などできぬ」
どうした?行きも帰りもスキャンすると、張り切ってたじゃねーか?
「事情が変わった。UN 方面から、ジャール平原のスキャンを案件として受けたのだ。せっかくいい機材があるんだ。単に周回するだけではなく、効果的に支援物資を使えるようにしてあげようではないか?」
いい機材ってのはなんだ?あの工業用PCってのは結局データロガーだろ?
「まあな」
どうすんだよ。
「支援物資を降ろしたら一旦帰る」
は?スキャンはどうすんだよ!
「良く考えてみろ。ついでならともかく、詳細なスキャンを仕事でするとしてだ、L-100 でスキャンするのは・・・極端に言えばロウソクに火を付けるのに、巨大な火炎放射器を使うようなものだろう?それに、低空飛行で低速で飛ばすとなると、地面効果のアレをやらぬとならぬ。まあ、アレは低高度すぎてスキャンもできないが」
言いたいことは分かる・・・物騒だがな。火がつくどころかロウごと全部溶けちまうけどな・・・じゃあ、どうするんだ? 今回は簡易椅子の兵士もいるから、アレはやめてくれ。殉職者は出したくないんだよ!
「ポーターを持ってくる。あれなら低空飛行も低速もやりたい放題だ!」
はあ?ポーター?あんなんでこんなとこまで来るのかよ!!燃料持つのか?!
「こいつはもう分解できないが、ポーターなら分解できるだろ。主翼を外せばウィンチで簡単にこいつに乗せられるぞ!!ノイ、ボンとダオもいれば三人で組み立てられるよな!!」
「Yes! Ma'am!!」
おいおいマジかよ・・・
論理的に考えればマイティの言っていることが正しいのはオレにも分かるんだが・・・
いつ受注したんだよ!!もう、ウチの司令ともネゴも済んでるってことかよ!!
まったく・・・これだから、極端に頭のイイやつは!!!




