気分は修学旅行かよっ!
スコットだ。
何が兵隊への『ごほうび』かって?まあ、ちょっと長いけど聞けばわかるよ。
彼女は優秀なパイロットであるだけではなく、ジョージが言っていたが、なりたてとはいえ、れっきとした考古学者でもあるという。
オックスフォードの有名な先生に師事しているらしい。
確かにこの地域は古代文明が栄えていた地域で、それが第二次世界大戦直後から続く、長年の紛争、戦争によって一部は利用され、破壊され、調査しようにも不発弾が山のように埋まっていて、調査もままならない地域だ。
ジャール平原がそのランドマークの一つだな。
なんと彼女はLiDARやらカメラやらの監視装置とその記録装置、さらにその制御用の振動にも強い工業用PC一式を自前で持ってきていやがった。
そして、仏印時代の古地図も手にいれてあり、突き合わせは帰国後に行うつもりだと言っていた。
そして、例のごとく袖の下を使い、自国領土内なのをいいことに、ジャール平原での偵察・・・じゃねぇ、調査飛行の許可すら取得しちまった。
不発弾摘出のための国際支援物資が、タイからの陸路を経てパクセーに入り、そこからシェンクワーンまでの空路を経由して、最終的にはジャール平原へ陸路でアプローチするんだが、これは間違いなく、国際的な復興支援の空路、陸路輸送に過ぎない。
そして、そこには考古学的な話もいくらかは本当にあるんだろう。
で、そこにしっかり付け込むのが彼女の事務的な『本領発揮』だ。
元々、これは PMC としては正式に受注した案件のうちの一つで、領空侵犯を裏のメイン案件とするなら、こちらは表のメイン案件なのだ。
陸路は別のヤツらが実施するが、オレ達はパクセーからシェンクワーンまでのれっきとした国際空港間の国内移送業務を行うわけだ。
輸送機の重整備なんてカネのかかる話は確実な案件がないとやってられないんだよな。
そして、不発弾調査・摘出装置、硬くて重い、密度の高い装置を運ぶのに、ストレッチタイプ じゃなくなった、元祖 C-130 と同型の L-100 という機体は極めて向いている。
普通の物資輸送だと、貨物室の長さが足りなくて、充分な重さまで積み込めない。
でも、軍需物資は大体、密度が半端なく、そして、重いからな。
そして、
・・・
お前、ここまで考えていたのか?
「何のことだ?」
事前の説明ではジョージは真っ青になってたじゃないか?
「そんなこともあったかな」
オレもあっちのミッションのコンプリートはともかく、五体満足で帰ってくるだけなら、ほぼ確実じゃねぇか、と思うようになっちまったよ。
「そのための訓練だ。まだ足りぬが・・・・・・先にこっちをやってしまうことにより、訓練期間の延長も司令に上申できるだろう」
もう、兵隊共にとっては、お前の言う事のほうが、司令の言う事より優先だよ。
「そこまでではあるまい。まあ、せっかくカネを掛けた飛行機を一度のミッションで捨ててくることを考えたら、訓練の延長など安いもののはずだ」
しかし、工業用PC な。振動に強いってことか?
「まあな。あとは大量にセンサー類を追加できるのも特徴だ」
偵察用途にぴったりだな。本当に工業用なのか?
「今の工場はセンサーだらけだ。ライン一つに数千個だって普通だ」
そうか、まあ、それは信じるよ。しかし、LiDAR にしてもカメラにしても、下へ出さないとなるまい・・・どうすんだ?
「操縦室後ろの隔壁のちょっと後ろに主脚の点検口があるだろう?あそこならケーブルが通る」
ああ、左右にあるな。しかもおあつらえ向きに、ツイストロック式に改造済だ。
しかし・・・臨時の臨時、二点式ベルトの追加座席なんて・・・大丈夫か?
「あんな機動は輸送機でやるものではない。お前が言うな、と言われそうだがな」
まったくその通りだよ。あの過酷な訓練に耐えた奴等は全員乗せてやってやるぞってことか?
「今回の移送対象はどう考えても重いペイロードだからな。人数がいるに越したことはない」
しかし、与圧なのは操縦室だけだろう?
「パクセーから北に向かい、ヴィエンチャンの北東からジャール平原に北上するルートなら、最大でも10,000ftを超える程度で、貨物室の簡易椅子でも危険はあるまい?防寒装備はいるが」
まあ、そうだな。国連と赤十字のマークも用意しておいたよ。
今はステッカー、カッティングシートとやらで、簡単に付けられるらしいな。
「そうだな。それなりに頑丈な機体だが手持ちのランチャーに狙われるのは勘弁だ」
しかし、あいつら、明らかに楽しみにしてるじゃねーか。
「まあ・・・個人の旅行で飛行機に乗るなんてのはラオ国では贅沢なんじゃないのか?」
それはそうだろうな。飛行機に乗ったことがないヤツも少なくないだろう。
「じゃあ、ヴィエンチャンのあたりで、主脚のカバーでも、少なくとも左側は開けてやるか?」
貨物室には窓がないからな・・・背中が壁側だから・・・右側席の兵士は喜ぶだろうが、左側のやつらが可哀想だな。
「まあ、機体はN番号で、UNの任務とフライトコードだ。空軍にも渡すべきものは渡してあるから、スクランブルを掛けられることもないだろう。計画だとヴィエンチャンの北東を通過するときには、地上高5,000ft付近だし、トランスポンダも付けてるから、ちょっとシートベルトを外すくらいなら死にはしないだろう。必要なら、こっちから貨物室のスピーカーも鳴らせるからな」
手回しのいいことで。まあ、風が入りまくって寒いだろうが、ほとんどの兵隊は空からの景色なんか見たことないだろうから、まあ、大サービスだな。しかし、そのあと上昇するのにいいのか?
「ギアを降ろすわけじゃない。しかし、振動を考えると・・・両側開けたほうがバランスがいいかな? どちらにしろ、カバーだけなら燃費の悪化もわずかだ」
普通のL-100 にはそんな機能はねぇんだよ・・・まあ、その燃料もお前の手持ちだったりするしな。もう、追加五回目か・・・計120KL、恐れいるぜ。
「訓練のため、生きて帰るためだ。大した金額じゃない。更に100kLは合意を得ている」
すげぇよ・・・そういや、あちこちに手回ししたみたいだな。
「そうでなければジャール平原でデータなど取れない。そっちのほうが燃料よりカネが掛かっているかもしれん」
まあな・・・無茶な訓練についてきたあいつらに空の旅をプレゼントか・・・粋なこったな。
「締めるばかりでは部下は付いてこない。多少の余興は必要だ。この間の模擬戦のようにな」
あれは模擬戦なんかじゃなくて、お前のデモンストレーションだろ?まったく痛い思いをさせやがって!!
それより、お前の楽しみはなんだ?輸送自体は任務のうちだから楽しみってほどじゃないだろう。データ取得か?
「それも集計するまでは何が取れてるかは不明だ。まあ、堂々とトランスポンダをつけたまま低空を飛べるのは楽しみだな。向こうに飛ぶときは全てオフだからな」
そりゃそうだ。落とされちまう!
しかし、あんだけ機材を持ち込んで、データが取れてない、なんてアリなのか?
「99%以上はそれなりのデータが取れるが、それが意味あるデータか、となるとな・・・」
そういうもんか?
「考古学調査なんて空振りが普通だ」
そうか・・・ご苦労なことだな。
「まあ、行きも帰りもデータ自体は取れるからな。帰りは空荷だから、行きよりは上げ下げできるだろう、おい、こっち睨むなよ。フラップは普通にしか使わないぞ?」
いや、兵士がただじゃ済まないからな。あれを簡易シートでやられたら。
「どこで見られているか分からぬから、本番まであれは裏庭以外ではやらない」
賢明だな。しかし・・・本番ね。
・・・
UNミッションの『ごほうび』じゃなくて、Vの壁を越えて向こうに行く、本番のほうの話になるが、あの高度・・・というか超低空なら、スクランブルで上がってきたとしても・・・戦闘機相手でも・・・空対空ミサイルも撃てないんじゃないか?
それに、機銃で狙おうにも地上に向かってまっしぐらなんてことができるパイロットは・・・そういねぇよ?
「あちらさんはMiGか?まあ、何が相手だとしても、どこかで高度を上げないと帰れないからな・・・国境のこっち側直前まではなんとか隠れるしかないな・・・なんなら、例の観光地、エメラルドな三国境でも通るか?」
おい、やめろよ?相手の空軍を増やすんじゃねぇよ!
「冗談だ。ベトナム側の農場が国境付近まで出張っているところからの山越えだ。あそこからなら高度も下げられるし、越えたら、露天掘りとダム湖まではすぐだ。そこから裏庭まではいくら鈍足の L-100 とはいえ、20分もあればたどりつけるぞ」
まあ、向こうも極端な領空侵犯はやれないからな。いつもの裏庭どころか、鉱山が見えちまったら、向こうさんも、引き返すしかない。で、裏庭まで戻れば安心だ。
「あそこは山に囲まれているから、ラオ国側のレーダーにも映らん。だから今でも訓練ができているわけだがな」
まあ、農園までは戻るときには、ちょっと映るだろうが・・・どうせ、用意周到なこいつのことだ。こっちの管制官は引っ張りこんでいることだろうしな。
問題は最後の空中投下だな・・・
「あればっかりはなぁ・・・メコンに落とす以上、ラオ国だけじゃなく、タイのレーダーにも捕捉されるのは、確実だ。・・・いっそのこと、農薬散布でもするか?」
は?何のことだ?
「一応、ウチの滑走路は農業用ってことになっているだろう?薄暮なら慣れているパイロットなら、有視界飛行でいけるし、夜明け前に霧も出るこの時期なら、風も上昇気流もなく、農薬散布には最適といえば最適だ。農業機だと・・・150ktというところかな?・・・落とした瞬間だけは空戦フラップがいるかもな・・・」
なんじゃそりゃ?・・・素人になったり熟練パイロットになったり妙に忙しいが、名目だけは立つなら・・・ちょっと本当に農業機がそういう飛び方をするのか調べて、それで行けそうなら、申請についても考えておくよ。最終的には司令に丸投げだけどな。あと、後ろの兵隊どもが死なないように頼む。
「どちらにしろ、投下の時にはシーケンサーがあるとはいえ、どうしても手作業でやってもらわなければならぬことがある。こればかりは安全索を徹底してもらうしかない。貨物室の兵士たちのためにも、あまり機体がピッチアップしないようにするにはあのフラッピングが必須なんだ。カーゴのハッチを速く閉めてやるためにもな」
あの超絶技巧ね・・・オレにはマネできねぇけどな・・・失速して墜落が関の山だ。
「あと、司令に言うなら、パクセーの管制を通じて、タイ側にも連絡が行くようにしておいてくれ、と伝言を頼む」
分かった。
そういや、その時はどこでトランスポンダを入れるんだ?
「裏庭から一気にメコンに降りるとき、うちの滑走路のそばを通るだろう?そこでいいだろう」
そりゃそうか・・・レーダーに映る機影の大きさは?
「どうしようもない。霧のせいだ、などと適当に誤魔化してくれ」
いつも通りだな・・・無茶言うぜ・・・




