第十四節 悪夢
「そいつは光栄だ、俺もテメェらが大嫌いだからな……」
バチィン
そんな音が響く。
男が棺に巻かれた鎖を切ったのだ。
解けた鎖が地面に落ちてあたりに金属音を撒き散らす。
男は戒めの解けた棺の蓋を外し、投げ捨てる。
棺の中から現れたのは巨大な……剣だろうか?
剣……と表現するのが一番近いように思えた。
炎をそのまま固めたらこうなるのではないかと思えるような形の、身の丈はあろうかという巨大な剣。
紅の夕日に染まるその姿はまるで紅蓮の業火のようだ。
男はその柄を手に取り、右手一本で軽々と肩に担ぎ上げ、空の棺を蹴り倒し。
「さて、派手にやろうじゃねぇか」
男は不敵な笑みを崩さずに言う
バッ
突然後ろから聞こえてきた音に私は振り向く。
最初に目に入ってきたのは、視界を覆うほどに舞い散る、無数の漆黒の羽毛だった。
視界が開けたとき、私が目にしたのは、一対の黒い翼を背に生やしたタニアの姿だった。
「タニア!?」
私は悲鳴に近い声を上げていた。
そのとき、私の傍らを凄まじいスピードで男が駆け抜け、巨大な剣をタニアに叩きつける。
タニアはそれを宙に舞い上がってかわし、建物の上に飛び乗って私達を見下ろす。
私はその場でへたり込む。
「誰か、これは夢だといって…夢なら…早く覚めて…」
私は呟きを漏らす。
「残念ながら夢じゃねぇよ…クソくだらねぇ現実だ」
「そんな…」
男の非情ともいえる言葉に私は絶句する
「このくだらねぇ現実を生き抜きたいなら…立て、そして自分がどうすべきか考えろ、当てになるもんは自分しかいねぇんだ、そうするしかねぇ、そうだろ?…それができないなら…死ね」
男のあまりの言いように私の中に怒りが芽生える。
私はその感情に背を押され立ち上がる。
「おお立ったか、それじゃ、邪魔だからどこへなりと失せろ」
私は柳眉を上げ、男を睨みつけ怒りをぶつけようとするが、視界の端に映ったタニアの姿に言葉を飲み込む。
「…タニアを…お願い…」
私は言ってその場を離れる。
そして少し離れた場所まで走り、私は立ち止まる。
この戦いは見届けなければならない、そんな気がした。
タニアは親友であり…家族だ。
私は振り向こうとする。
そのとき、先程の同僚たちの死に様が脳裏をよぎる。
あまりにも凄惨な最後だった。
「………………………」
私は迷った末に振り向くと、男とタニアの戦いはもう始まっていた。
タニアが漆黒の羽根を男へと飛ばすと、男はそれを異形の左腕と右手の大剣で薙ぎ払う。
(タニアも…あんなふうな死に方をするのだろうか…)
そんな光景は、見たくなかった。
私は、やはり目を背けようと思った。
ここで逃げれば、少なくともタニアの死を目にしなくてすむ。
しかし、私は目を逸らすことができなかった。
ドドドドドォン
タニアの放った羽根が爆発を起こす。
凄まじい爆発音の連鎖が響き、激しい爆風が吹き付けてくる。
私は手で顔を庇い、足を踏ん張った。
風が止み、私はまた闘いの場に目を戻す。
まだ土煙が立ち込めていて、中の様子は見えない。
だが、あれだけの爆発に巻き込まれてただで済むとは思えない。
タニアは屋根から翼を羽ばたかせて舞い降り、私に歩み寄ってくる。
そして、私の前で立ち止まる。
「さぁ、ケイト行きましょ」
「タニア、あなた…どうしてこんな…」
手を差し出してくるタニアに私は問いを投げかけた。




