第十二節 再会
「逢う魔が刻だ」
男はマントから異形の左腕を出し、走り出す。
それが開戦の狼煙となった。
元修道女見習い達もどこからか剣を取り出しそれを迎え撃つ。
最初に男に斬りかかった一人の剣と男の異形の腕がぶつかる。
しかし男の腕は剣とぶつかったことなどお構いなしで突き進み、深々と鋭い爪を彼女に突き立てる。
その両脇からそれぞれ一人ずつ修道女が男に襲い掛かる。
男は左から来る一人に異形の手を翳す、その手には当然、最初に貫いた一人がついたままだ。
一人の剣は彼女を貫くものの、男までは届かない。
男は開いている右手でいとも容易くその背に棺を固定している鎖を引きちぎり、握った鎖はそのままに右手を振るう。
薙ぎ払われた棺をもろに受けた一人は、数メートル吹き飛んで壁に叩きつけられる。
次の瞬間男は左方向に足を一歩踏み出す。
ズゥン
重く大地が震え、地面が陥没するほどの勢いで踏み降ろされた足と共に突き出された異形の腕が、貫いていた一人をさらに貫き、いまだ剣を持ったまま次の行動に移っていない一人に突きこまれる。
かくして修道女二人の串刺しという悪夢のような画が完成する。
「おおおおぉぉぉあああぁぁぁ!!」
男は叫び、無理やりに左腕を手近な壁に叩きつける。
二人の体が壁にめり込み男の服に返り血と壁の破片が飛び散った。
まだ体勢を立て直していない男に、間髪いれずアンを含めた残る二人が襲い掛かる。
男は棺を投げ捨て、懐に右手を差し込む。
次の瞬間には男の手は振りぬかれていた。
一人が突然進行方向とは逆に吹き飛び、私の傍らを通り過ぎていく。
振り向くと、彼女は胸を剣で貫かれ、壁に縫いとめられていた。
柄が体にめり込んでいることからも、どれだけの膂力で剣が投擲されたのかは想像し難い。
目を戻すと、男はアンの胴体を異形の腕で捕らえていた。
アンは男の腕に剣を突き立てようとするが、剣の切っ先は異形の皮膚に傷一つ入れることもできない。
男は口の片端を上げる。紅の夕日を受けたその笑みは、地獄から来た悪魔を思わせた。
グシャッ
男は、何の躊躇も無くアンの胴体を握りつぶした。
夕焼けの中に黒い華が咲く。
私は言葉もなくその場でへたり込む。
人間技ではない。
「手ごたえがねぇな、まぁ、操り人形程度じゃあ、この程度が限界か」
返り血にまみれた姿で男は棺を拾い異形の腕を振るって付いた血を飛ばす。
そして、何かに気付き視線を巡らす。
「……もう一匹……お前がこいつらの親玉か、今度のは楽しませてもらえそうだ」
男は言って私に……
いや、私の後ろに目を向ける。
私ははじかれるようにして振り向いた。
「タニア……」
そして、私はすぐそこにいた少女の名を口にした。




