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灰色帝都の紅い死鬼  作者: 平田やすひろ
空蝉の宴
67/153

-空蝉の宴- 6-14

 曼殊沙華が、赤い血を散らしたように咲いている。

 石畳の割れた参道には、砕けた水瓶の破片が飛散していた。

 中に入っていたモノは、跡形もなく消え去っている。


「忌々しいのう・・・」


 気品のある十二単(じゅうにひとえ)をまとった女が、静かにつぶやいた。

 その口元は緩やかに吊り上がっており、雛人形のようにかすかに笑っているように見える。

 発した言葉とは裏腹に、怒りの感情は微塵も無いようであった。

 しかし、側に控えている従者らしい者たちは、緊張した面持ちで、主の女性の声に耳をかたむけている。


「まぁ、よい・・・ごくつぶしを始末する手間が、はぶけたというものじゃ・・」


 そう言うと、落ちていた水瓶の破片は、ドス黒い霞となって、女の手の中へと引き寄せられた。

 黒く凝った『ソレ』を握り締めると、女のまとっている威圧感が、より一層増す。


「・・・誰か、触れておるな・・」


 女は、しばらく無機質な表情で自分の手の中を探るように見つめた。

 しかし、わずかに目元を引きつらせると、口元をハッキリと吊り上げる。


「あの男が死んで大人しゅうなったと思っておったのに・・イタズラ娘が、またこりずに暴れとるのかのぉ・・・」


 女は高らかに笑い出すと、静々と歩き出した。

 他の者たちも、同じ速度で無言で付き従う。

 行列は厳かに、そして何処か禍々しく、『隠世』の奥へと進んで行った。


 近寄りがたい一団が、その姿を消していくと、待っていたかのように、草藪(くさやぶ)の陰から小さな影が参道に躍り出る。



 ―――ッキ・・・



 小さな影は短く鳴き声を上げると、紅蓮の炎を揺らめかせた。

 そして、追うような鋭い眼差しを、淀んだ闇へと静かに向ける。

 その愛らしいつぶらな瞳には、獲物を見つけた喜悦の色が、明らかに浮かび上がっていたのだった。

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