表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灰色帝都の紅い死鬼  作者: 平田やすひろ
媼主の速贄
112/153

-媼主の速贄- 2

 


 ―――昭和二十年 八月十三日 千葉



 夏の夜明け独特の、(さわ)やかでありながら水気を含んだ空気が、村を包んでいる。


 まだ、山の向こうに昇りかけている太陽が、うっすらと空を染め始めていた。




「・・・・夢彦(ゆめひこ)!!」




 恭一郎(きょういちろう)は、叫び声を上げながら飛び起きた。


 全身汗だくになっており、息が上がっている。


 浴衣(ゆかた)の胸元を握り締め、激しく高鳴る鼓動を抑えようと努めた。


 しかし、耳鳴りが更にヒドくなるばかりで、目の前がぐらりと揺れる。


 恭一郎は、体を支えられなくなり、再び寝床に倒れ込んだ。




 ―――恭一郎?




 名前を呼ばれ、恭一郎は身をすくませた。


 視線だけ声のする方へ向けると、小さな(あか)空蝉(うつせみ)が手元から顔を出す。


 恭一郎は目を見開いたまま、うめくように溜息をついた。




 ―――顔色が(すぐ)れぬぞ・・・どうした?




「怖い・・・」




 ―――?




「怖い・・・・・・夢を見た」




 ―――・・・・いい歳して情けない




「夢彦・・・・いや、『(そばえ)』が」




 恭一郎は、そこで言葉を切った。


 (ひたい)(てのひら)を当て、仰向けになって天井を眺める。




 ―――『戯』が、どうした?




「・・・・覚えてない」




 紅い空蝉はガクッと前のめりになった。


 そして、低い(うな)り声を上げると、溜息をつく。




 ―――恭一郎・・・




「名前を呼ぶな!」




 荒げた声に飛びのく空蝉を、恭一郎は一瞥(いちべつ)した。


 いつもなら喧嘩沙汰(けんかざた)になっているところであったが、どういうワケか無言で縮こまっている。


 乱れた呼吸よりも息苦しい雰囲気に、恭一郎は小さくつぶやいた。




「すまない・・・『(うつろ)』・・・・・・覚えてないが、頭が混乱してる」




 ―――・・・うむ




「・・・お前も、調子が悪いのか?」




 ―――いいや。お前がボロ雑巾(ぞうきん)のようになっても、俺は痛くもかゆくもない




「・・・お前、本当にムカつくな」




 ―――仕方なかろう。『死鬼(しき)』は、そういうモノなのだ




 恭一郎は溜息をつくと、目を閉じて、うつ伏せ気味に横になった。


 浅い呼吸のまま、枕に顔をうずめる。




 ―――本当に、調子が悪そうだな・・・




 恭一郎は、無言で息を整えようと努めている様子であった。


 その痛々しい姿に、『虚』がカタリと(きし)む音を上げる。




 ―――少し、待っておれ




 カサリと乾いた音を上げ、紅い空蝉は縁側(えんがわ)から庭へと飛び出した。


 また何か(たくら)んでいると思いながら、恭一郎は静かに寝息を立てるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ