426
変な違和感を持ちながら吹き飛ばされているクソ野郎に目をやると、もうその頃には我に返っており苦悶の表情をうかべていた。左頬をなでる仕草を見せるクソ野郎は、いまの状況を掴もうと忙しく頭をキョロキョロとさせている。その後、地面に叩きつかれる直前、うまく片手をついて衝突を緩和してから倒れ込んだ。このクソ野郎の動きにも違和感がある。以前のクソ野郎は身体能力を過信して受け身ひとつしてこなかった。これは咄嗟に出るものではない。体に染み込まれた動きである。さらに言うと、現在のクソ野郎はマサオ化のまま、あんな動きができるはずはない。これにも第三者の介入が関わっていると考えるほうがいいだろう。目まぐるしく状況が変化する中、クソ野郎はよろめきながら立ちあがる。
「えっえっえっ……? なんで……? お、お、俺の方が強いはずなんだけど……ど、ど、ど、どういうこと……?」
呆然とするクソ野郎が口にした。まだ左頬をさすっている。それから察するに、左頬に何らかの衝撃が加わったことは間違いないだろう。ちなみにこの間もクソ野郎は例のスキルを発動したままだ。身体能力はクラリスの4倍ある。クラリスが物理的に攻撃を与えることはできないはずなのだが……そんな時クラリスの足元に、こぶし大くらいの鉱物が転がっていることに気づく。この周辺には、赤みがかった茶色の鉱物がほとんど、なぜか足元にあるのは灰色の鉱物だった。あのひとつ以外どこにも灰色の鉱物は転がっていない。
あの色といい、あの大きさといい、どこかで見たことがあることに気づく。よくよく思い返してみると、イリアカントとウキヨカントの国境にある洞窟、アルフとクラリスが戦った場にあった鉱物と同じ色をしている。さらに言うと、鉱物の大きさに形状、アルフがクラリスに投げつけたものと全く同じモノと気づく。その瞬間、背筋が冷たくなり雷に打たれたくらいの衝撃を受ける。
アルフが投げた鉱物……たしかクラリスが避けて空の彼方に飛んでいった。その後、それがどうなったかは知らない。もの凄い勢いで投げたことは覚えているが、まさかあれからずっと飛び続け、それが偶然クソ野郎に当たった……いや、さすがにそんな偶然あるわけない。それならアルフが狙って投げた……いやいや、いくらなんでもそんなことできるわけない。そもそもクソ野郎のこと知らないのだから。それなら『なぜ』アルフが投げたモノがクラリスの足元に落ちているんだ……それなら『なぜ』クソ野郎は吹っ飛んだんだ……灰色の鉱物がワタシの妄想を掻き立てる――。




