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 一瞬なにが起きたのか分からなかった。クラリスが動いたようには見えない。しかしクソ野郎は右腕を失い、それをなぜかクラリスが持っている。物理的に引きちぎったようには思えない。まるでシステム介入が起きたような……ここで改めて切断されたクソ野郎の右腕をよく見た。切断面は研ぎ澄まされた刃物で斬られたようにきれいだ。クラリスがそのようなモノは持っていない。そこで切断された位置に注目した。そこであることに気づく。クソ野郎がシステム封鎖前に切断された位置と全く同じだということに。ここでピンとくる。これは……事前に仕込まれたシステム介入によるものだ。


 システム封鎖されたエリアでシステム介入とは変に思えるかもしれないが、封鎖される前に行われたシステム介入についてはキャンセルされないのだ。その証拠に、唯一このエリアでシステム介入できるモノが存在している。そう、あの大剣である。大剣がエリア内でシステム介入ができる理由は、大剣に仕込まれたシステム介入が封鎖前だったから。現在のシステム封鎖は、システムにアクセスできなく介入ができないだけで、封鎖前に施されたシステム介入に関してはそのままなのだ。つまりクラリスはシステム封鎖される前に、クソ野郎の右腕にシステム介入をしていた。たぶん介入内容は位置情報の変更だろう。任意のタイミングで右腕の位置を変更できるように細工したのだ。だから実際にクラリスが動かなくてもクソ野郎の右腕は彼女の手の中にあったわけである。


 これならいくら身体能力に差があっても最大限に動揺を誘うことができる。たぶんクラリスはいざという時のために残していたのだろう。戦闘前、右腕を切断したのは反抗の意思を伝えるためでなく、こういった仕込みもやっていたのだ。さすがという他に言葉がでてこない。


「きゃあああああああああああああああああああ!! お、お、俺の腕があああああああああああああああああああああああああ!! はぁはぁはぁはぁ……くそがああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 この状況を整理していると、クソ野郎が悲鳴を上げた。続いて、プルプルと震えだし、怯えた表情まで浮かべはじめた。


「はぁはぁはぁはぁ……ヤツの動きが……全く見えなかった……これだけ身体能力を上げているのに……アイツは……バケモノだ……」


 無機質だった頃は無反応だった。しかし今は『マサオ化』している。もしマサオなら冷静でいられるわけないのだ。以前のクソ野郎ならすぐに今回のカラクリに気づけたはずなのに、恐怖がそれを邪魔して考えることを放棄している。マサオ化の効果を再確認した。クソ野郎を倒すならマサオ化は必須だ。クソ野郎は完全に戦意を失っている。まごうことなきクラリスの勝ち……だがしかし……いまは……。


「はぁはぁはぁはぁ……今すぐ封鎖を解いて……別の個体に移動しないと……はぁはぁはぁはぁ……早く早く解か――」


 時が止まったようにクソ野郎は動かなくなる。そう……いまは……クソ野郎だけが相手ではないのだ――。

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