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クソ野郎が動かなくなってから一分ほど経った。クラリスは黙ってその光景を見続けている。もしかしたらスキルの副作用でロザの体が限界をむかえ、話している最中に死んでしまったのかもしれない。その場合『中身』に君臨していたクソ野郎は移動先がなく、そのまま消去されたことになるが……なんともあっけない幕引きである。念のため本当に死んでいるのか至近距離で見ることにした。もしかしたら罠の恐れもあるからだ。
クソ野郎はというと……膝をついた体勢で目も口も開いたまま硬直している。実際に触れられないから確認することはできないが、ただ呼吸は止まっていて心臓の鼓動も聞こえてこない。死んでいるようにしか見えないのだが、なにか違和感があった。死体にしてはどこか生気を感じるのである。で、遠目からも確認できた亀裂の入った肌をよくよく観察してみると、あることに気づく。剥がれ落ちていく皮膚が空中にとどまっているのである。軽くて浮遊しているとかではなく、ピタッと空中に止まっていた。違和感が恐怖へと変化しようとしていた。さらにロザの顔を重点的に見てまわっていると、額から流れ落ちた汗もまた地面に落ちる直前に空中にとどまっている……。
その瞬間、疑念が確信へと変わる。そして思い出す。以前ワタシが魔王ゴウマとして勇者グルモと戦った際、グルモは時を止めてきたということに。そう、この世界では時を止めることが可能なのだ。そうなると、目の前にある死体としか思えない『物体』は、じつは死んでいるわけではなく、文字通り時が止まっている状態ということになる。ただグルモの時とは違い、世界全体を止めているわけではなく、ロザ限定で止めている。だからロザから落ちたものも空中にとどまっているのだ。その証拠に、彼女の周りでは風によって土埃は流れていくのにロザの髪は揺れない……。
その事実に気づいたとき、とうぜん湧いてくるのが疑問である。そう『誰が止めたか』だ。ふつうに考えれば、クソ野郎本人が止めたということになるが、この状態で止めたところで何かメリットはあるのだろうか。時がとまっているということは思考だって止まる。考える時間なんてないのだ。消去される恐怖に我慢できずについ止めてしまったか。はっきり言って意味のないことだ。ところでクラリスはこの状況に気づいているのだろうか……意識を彼女に向けていると――何気なく見ていたロザの足元で変化があった。地面に落ちていた『何か』がふわっと浮き上がった。
最初は土埃が風で舞い上がっただけとも思ったが、意識を視界だけに集中して見てみると、それが土ではなく人間の皮膚だということに気づく。その瞬間、ワタシの頭は混乱へといざなった。時が止まっているならロザの皮膚が風で舞い上がることはない。もしかしたら時が止まっているという考え自体が間違っていたのか。それをはっきりさせるため空中にとどまっていたロザの皮膚や汗に目をやった……そしてワタシは目を疑うことになる。とどまっていたはずの皮膚や汗が、ゆっくりとロザのほうへと動き始めていた――。




