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クソ野郎は迷っている。このまま解除してもいいものなのか、それとも封鎖したまま対処すべきなのか。その場合、コントロールできない過度な身体能力で戦うことになる。ちなみに最後の動揺により、クソ野郎の戦闘能力は完全にロザからマサオに入れ代わっている。これまでロザの戦闘能力で攻撃を当てることができなかった以上、戦闘能力がマサオになった状態で当てることは不可能と言っていいだろう。ワタシは気づいていた。システム封鎖解除こそ、クラリスの目的なのである。
クソ野郎が迷っている一番の原因は、現在の世界構造にある。なぜ解除せずに封鎖したエリアから物理的に移動しないのか……移動速度だけでいうならクソ野郎の方がクラリスより速い……なんて考えてしまうところだが、それはできないのである。その理由は、システムを封鎖したエリアとそうでないエリアに分けてしまったからである。その二つは別世界扱いとなり、別世界には物理的に移動することはできない。以前あった『雨季の杖』の効果と同じ、あの時は世界の中に境界線を作り出し、アルフとマサオを分断させた。あの構造はとてもシンプルだ。アルフがいた所だけ別システムで動かしただけなのである。そもそも世界のシステムは一つであり、あるエリアを別システムが動いた瞬間、それは別世界となるのだ。世界が繋がって見えていても別世界なので物理的に移動はできない。もし移動するなら二つの世界を同じシステムで動かさないといけない。ただワタシのような思念体の状態なら封鎖エリアから移動することはできる。しかしクラリスやクソ野郎のようにこの世界に存在してしまっている場合、システムが同じにならない限り外にできることできないのである。つまりクソ野郎が封鎖を解除すれば、二つの世界は同じシステムとなり移動も可能となる。そして別の人間に入り込むこともできる。
クソ野郎からしたら今すぐ解除するべきなのだが、クラリスが放った言葉はクソ野郎を躊躇させている。クソ野郎はクラリスとシステム介入バトルの経験がない。どんなことをしてくるかわからない。システム介入を得意とするクラリスに対して介入バトルは無謀とも言えるだろう。もしクラリスの手で今回のような移動する人間がいない別世界に隔離されたらその時点で終わる。システム封鎖を解除するのはかなり危険なのである。ただ、このままでは時間の問題で消去される。解除の鍵はクソ野郎が持っている。
まだクソ野郎は決断できないでいる。見開かれた眼球はたえず動き続け、その動揺ぶりを表現していた。もしクソ野郎の立場なら、このまま封鎖した状態で休むことなく攻撃を仕掛けていただろう。時間のある限り攻撃を続け、ワンチャンスを狙う。攻撃をしないと当たるものも当たらないのだから。何もしないのが一番ダメな気がする。ただ立場が違うからそう考えるだけで、当事者なら何もせず決断もできずに動けなくなってしまっていただろう。これこそクラリスによる巧妙な心理戦の賜物であり、こうなるようにクラリスは動いていた。決断できずに時間だけは進む。そして次の瞬間、クソ野郎の周囲で纏っていたプラスマが消えた――。




