412
この世界の枠組から外れた者同士の戦いが行われてたとは思えないくらい辺りは静まり返っていた。遠くで落ちたであろう枯れ葉が二人の足元を転がりながら通過していく。
「はあ? 含めてってなんだよ? もしかしてこの俺の消去もすでに終わったなんて言っているわけじゃないよな?」
呆れた様子でクソ野郎は笑いながら反射的に言った。敵を背にして歩いていたクラリスはそこで足を止める。そして、範囲魔法によって焼かれた砂がふわりと舞い上げながらクラリスは振り返った。
「感情に支配される前のお主なら……もう消去されることから回避できないって、この時点で理解できていたはずなのじゃがなぁ……」
「あ? なに言ってんだてめぇ! どう考えても俺が消去されるわけないだろ! 何度も言っているが、このガワが消滅しても俺だけは消去されずに残ることができる。いくら俺の選択を否定しようが、これだけは間違っていない。仮にお前を消去できなくても、別の個体となり続けて消去するまで狙い続けることだってできるんだっ!」
自信満々に言い放った。現在持たされた情報からも、クソ野郎の言っていることに変なところは一つもない。ガワを持たないクソ野郎は実質無敵だと言ってもいいだろう。クラリスが何を考えているのかワタシには想像もつかない。その時、クラリスは笑いながらクソ野郎を指差した。
「ハハハ……そこまで言うんじゃったら、もうすぐ崩壊するわけじゃし、そのガワを捨てて別個体へ移動してみるがよい。できるもんならのう……」
「あん? んなこと簡単――あっ!」
そこまで口に出すと、クソ野郎は時が止まったかのようにフリーズした。その瞬間、クラリスの言いたいことが少しだけ理解できた。このエリアには……実際にはこの二人しかいないのである。さらに言うと、範囲魔法でエリア全体を焼き尽くしたせいもあって生物らしい生物は生息していない。さらにさらに、クソ野郎はこのエリアをシステム封鎖している。エリア外の人間に移動することもできないのである。クソ野郎の取れる選択肢は一つしかない。システム封鎖を解除してエリア外の人間に移動すること。ワタシがそのことに気づいたのと同時に、クソ野郎も動き出した。
「ま、まずい……はやくシステム封鎖を――」
クソ野郎がそこまで言いかけたところでクラリスが遮る。
「本当に解除して大丈夫かのう? 今のお主にシステム介入はできるのかなぁ?」
「うぇ?」
「お主は『マサオ化』が進んでおる。さきほどの攻撃が当たらんように、今のお主にシステムをコントロールできるのかのう? 先に言っておくが、システム封鎖から解除された余はのう……これまでの『お遊び』とは違うからな……」
「なっ!」
「いや、ごめんごめん。余計なことを言ってしもうた。さあ気にせず、はやくシステム封鎖を解除しなさい」
「えぇ……」
クラリスの言葉に翻弄されるクソ野郎、しかし生き残れる方法は封鎖解除以外ない――。




