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「――で、お主が感情に触れたの今回が初じゃ。んーまぁ、まずコントロールなんてできんて」
「な、なんだと……この俺がその感情をコントロールできていないとでも言いたいのか? ふ、ふざけんな! 俺は感情を完全に制御できている。デタラメなことを言ってんじゃねぇっ!!」
「ほーん、ではなぜ、いま武器を持っておらんのだ?」
「あっ? そ……そんなこと今は関係ねぇだろうが!」
「いいや関係ある。お主にとって有利となる武器……なぜ置いてきた? なぜ素手でかかってきた? 論理的に答えてみよ」
真っ直ぐに見ているクラリスの問いに、クソ野郎の眼球は左右に動く。少しの間をおいてから、クソ野郎は口を動かす。
「す、スピードを重視したんだ。あの大剣はかなりの重量がある。ど、どうしてもスピードが落ちる。だから絶対に追えないスピードを実現するために……置いてきたんだ!」
早口で回答するクソ野郎に、クラリスはクスッと笑った。
「必死に考えた答えがそれか? もう少しまともな答えが返ってくると思ったが、お主の『マサオ化』は相当なもんじゃな!」
「はあ? な、ななな、なにがマサオ化だあ? あの無能が何だって言うんだよ?」
「おいおい、まだ気づいておらんのか? お主はもう思考から戦闘能力、何から何までマサオになっておるのだぞ」
「わわわ、わけのわからねぇこと言ってんじゃねぇ! 俺は俺だ。勇者の体を乗っ取っているのは、この俺だそっ! あの無能は関係ねぇ!!」
真っ赤になった顔で喚き散らかすクソ野郎の様子に、クラリスはおもわず吹き出してしまう。その後、見下した目をするクラリスはこう続ける。
「なにがスピードじゃ、そんなこと考えもしなかったくせに。余が『論理的』って言ったから、もっともらしい答えを言ってしまったんじゃろ? それが『感情』じゃ。そもそもお主の目的は『余の消去』のはずじゃ。合理的に考えれば、余が苦しむことなんて結果には関係ない。じゃが、お主は感情を優先にした。それは感情をコントロールできているとは言えん行動じゃ。そのことに気づけん時点で、お主は感情をコントロールするどころか、感情にコントロールにされておるのじゃよ。で、話を戻すが、マサオに侵入する前の『以前』のお主なら、まずこんな行動に出ることはなかったじゃろう。その意味わかるか?」
「はあ……?」
「ガワを生成したお主だったら、余を苦しめたい、痛めつけたい、なんて感情は生まれることはなかった。最も効果的な方法で消去してきたはずじゃ。余が降伏宣言したのはのう、お主が生成したガワで来た場合、余に勝てる手策がなかったからじゃ。その理由は、強い弱いとかいう話ではない。感情を持たぬものに、余が打てる手はなかった。お主に同期された時点で、余は守るべき『対象』がいた。それが『感情』じゃ。同期され、戦闘能力が同等の場合『あしかせ』となるのは結局のところ『感情』なのじゃよ。今回の戦いは、いかに感情をコントロールできるか、それが勝負の鍵となったわけじゃな。これで説明は以上。ふぅ、やっと終わった!」
クラリスがそう言うと、歩み続けていた足を止め、もう何もかも終わった様子で背伸びをしている。それに呆気にとられてしまったクソ野郎は……。
「お、おい……まだ戦いは終わってないぞ……なに終わった気でいる? 勝負はこれからだろ? なぜ勝った気でいる?」
と言うと、クラリスは無防備な状態で……。
「ん? もう終わっておるぞ」
と返す。そしてクラリスはクソ野郎に背を向けるのだった――。




