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クラリスの歩みは続いている。とてもゆっくりな歩みだが、着実にクソ野郎との距離を縮めていた。そんなクラリスの問いかけに対して、クソ野郎は理解に苦しむ表情を浮かべたままだった。これまでの傾向では「それはどういう意味だ?」とか反射的に応えそうなもんだが、いっこうにクソ野郎の口から出てこない。これは攻撃を当てることのできなかった動揺の最中に、さらなる動揺を被せられたことによって、クソ野郎の中で情報を理解して処理することができなくなっているのだ。そんなクソ野郎に対して、クラリスは更に続ける。
「なんじゃ、その顔は? コントロールされることに対策があるとか言ってなかったか? こうなることを全く考慮せんかったんか?」
「え……?」
「ガワである勇者の中に習得していないスキルがあって、それが仕掛けられた罠と見抜いて、その先にある可能性は全部考えたんか?」
「ん……?」
「いやいや、じゃからな、そのスキルが罠だと気づいて、あえてそのスキルを使用したんじゃろ? じゃったら『トリプル・ソク』のその派生スキルも『罠』だと気づかんもんかねぇ……で、余のコントロール対策として習得していないスキルを選ぶように誘導されているとは思いもしなかったんか……はぁ……やはりお主は勇者の体を借りるべきではなかなかったな……」
「……はっ? そ、それはどういう意味だ?」
クソ野郎から反射的に言いそうなことがここで飛び出した。クラリスは小さく笑みを浮かべながら口をひらく。
「ふっ……どうやら、停止してた『おつむ』がやっと動きはじめたようじゃな。お主でも理解できるように説明してやるわい。この世界に存在するためのガワ、それを生成せずにこの世界の人間の中に入り込みコントロールする選択をお主はした。ガワが死んだとしても、よその体に移ればいい、絶対に負けない戦法だ、なんて語っておったが、それは違う。人間の中に入り込んだ時点で、その人間の影響は多少受ける。その理由は、人間には『感情』があるからじゃ。いくら影響受けんようにしても、人間として、この世界に存在した時点で、その『ことわり』から逃れることはできん。そんで生まれてしまった感情ってもんはな、時には別の生き物のように暴れだす時がある。要はどうコントロールするかが大事になるわけじゃが――」
ここまで言うと、クラリスは話を中断した。聞き入っていたクソ野郎は反射的に頭を傾げる。一瞬のことだったが、クラリスの視線が別のところにあった。すぐに元に戻すと、クラリスは何もなかったように話の続きをはじめるのだった――。




