青の邂逅_05
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―――――…………
熱い。
熱い。
頬に伝う汗も蒸発してしまうんじゃないかというくらい。
轟々と燃え盛る炎、爆ぜる火花の音。
纏わり付く様な熱気がじりじりと肌を焼く感覚。
忘れたくても忘れられない、「あの日」の惨状。
響が立っている場所を中心とするように、逆巻く豪火が辺りを取り囲んでいる。
「…っ!…ぁ…!」
言葉を発そうにも喉が張り付いたように掠れた声しか出ない。
ふと後ろに気配を感じて振り替えれば、そこにいた存在に響は目を見開いた。
深淵の闇のように黒く、目の前に佇むように存在するその「影」の輪郭は、周りを取り囲む炎みたく不定形に揺らめく。
(おま…えは…!)
声にならない言葉を聞いたように、顔と思われる箇所の黒い影が掻き消された。
「……っ!!!」
影が消えたそこから見えたのは、あの日と同じように無機質な瞳で響を見つめる父親の顔。
突然の事に響は狼狽え後退ると、足元でこの場には不釣り合いな水の音がした。
おそるおそる音の方を見やれば水だと思ったそれは真っ赤な血溜まりで、その中に横たわる母の無惨な亡骸。
「……っひ…!」
ひきつったような悲鳴が喉から漏れた次の瞬間、首に衝撃を感じて息が詰まった。
何が起こったのかと自分の首元に視線を向ければ、父親の影から腕がのびて響の首を絞めていた。
「あ"…っ!かっ…ヒュッ…っ」
上手く呼吸ができず空気が抜ける音が耳につく。
頸動脈を圧迫される苦しさにもがいていると、父親の顔は影に呑み込まれ、影は質量を増して三倍にまで膨れ上がったそれは狼のような形を形成し、響の首を締め付けながら顔を覗き込むようにして地を這うような低音で呟いた。
『 』
「…え…」
言葉の意味を理解する前に影は大きく口を開け、その鋭い牙を響の首筋に突き立て、骨を砕く勢いで食らいついた――――。
◆◆
「あぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!!!!」
自分のつんざくような悲鳴で響の意識は一気に覚醒する。辺りを見回しても、炎もあの影もいない。
ここは響の自室だ。
「…っゆ、め…?」
夢にしては余りにも生々しすぎて、本当に喉元を食い千切られたのではないのかと錯覚するほどだった。
目尻にはうっすらと涙が滲み、全力疾走したのかと思うくらいに鼓動が早く息も荒い。
響は確認するように震える手で首筋に触れるも、そこには皮膚を引き裂かれた痕はもちろん痛みも噴き出した血の感覚もない。
その事実が先程の出来事を夢だと確信させ、響は僅かに安堵した。
「最…っ悪!!!なんやねん昨日から…!!」
両手で顔面を覆い、あまりの寝覚めの悪さに思わず悪態をつく。
一息ついてから、響はもう一度さっき見たばかりの光景を脳裏に浮かべた。
首に牙を突き立てられ、血が噴き出すあの感覚は思い出すだけでもおぞましく、思わず唇を噛みしめた。
(…俺に食い付く直前に何や言うてたような…)
その部分を思い出そうとすると、まるで脳が思い出すのを拒むかのように頭に鋭い痛みが走る。
大事な事かもしれない、だが体が思い出すことを拒絶しているような感覚。
二律背反なそれがどうしようもなくもどかしくて、響の神経を苛んだ。
「くそっ!!」
響はその苛立ちを振り払うかのように力一杯ベッド横のコンクリートの壁に思い切り拳を叩きつける。
準備も終えて任務の前に休息を取っておこうと思い、夕方くらいに仮眠した結果がこれだ。
軽く2時間ほど寝るつもりが気付けば辺りは暗く、通信機を起動させれば表示された数字は朝方の4時を示していた。
集合時間まではまだ時間はあるが、昨日今日と立て続けにあの悪夢を見たせいか寝直す気にもなれない。
仕方なく響はベッドから降りると顔を洗いに事洗面台へと足を向けた。




