青の邂逅_06
鳥がさえずり水平線から太陽が昇り出す頃、もう何百年も使い古されその長い歴史を感じさせる黒い列車が高らかに汽笛を鳴らす。
数百年前の第三次世界大戦が始まるよりもずっと昔に使われていたと言われるその列車は、当時「蒸気機関車」と呼ばれていた。
今は現代の技術と組み合わせられ、見た目はそのままだが動力は蒸気ではなく動力炉に置かれたコアとなる蓄雷石による電力で動いているという。
蓄雷石がまだなかった時代、こんなでかい乗り物が電力ではなく蒸気で動いていたというのだから先人の知恵というものは計り知れない。
そんな過去の遺産を前に、響はぼんやりとそんな事を考えながら吸い込んだ紫煙を空へ吐き出した。
「あ、いたいた!おーい響!」
列車のホームにある階段から一際活力のある声量で名を呼ばれ、響はそちらの方を振り向く。
「おう、おはよーさん。草太、雅」
荷物を抱えてこちらに向かってくる二人にぶっきらぼうに手を振り、椅子にしていた荷物から腰を上げる。
時刻は朝の5時半。
任務開始を告げる合図のように、列車の汽笛が再び鳴り響いた。
◆◆
燦々とした太陽の光が照りつける荒野を、蓮見たちを乗せた列車は土煙を上げながら滑走していく。
目前の景色が線となって通り過ぎていくのとは対照的に、遠くに見える風景はひどくゆっくり流れて行く。
そこには壮大な自然があると言う訳でもなく、あちこちに緑が生い茂ったビル群や瓦礫の山と化した街が見えるだけだった。
昔の戦争の爪跡も、今は徐々に自然に取り込まれつつある。
「かつての繁栄影もなし…か」
それなりの文明を誇っていたであろうその廃街が景色の後方に流れていくのを横目に、客室のボックス席の窓際に頬杖をついた響がぼそりと呟いた。
「第三次世界大戦が起きるまでは、ここでたくさんの人が暮らしていたなんて…信じられないですよね…」
雅がその呟きに応えるように言った。
響の手前に座っていた彼女は先ほどまで読書をしていたらしい、膝には開かれた状態で手記帳くらいの大きさの古びた小説が乗っていた。
響は雅から視線を窓の外に戻す。
この世界がこうなってしまった原因なんて、わかりきっていた事だ。
「…人間増えすぎるっちゅーのんも、考えもんやんなぁ…」
その答えとも取れる言葉を吐くと、雅は困ったように笑い、再び小説の頁をめくった。
「しっかしまーもう昼過ぎだっつーのにまだ着かねーのな、目的地の鉱山」
響の隣で愛用の拳銃を磨いていた草太がぼやく。
明朝に出発し、太陽が真上をとうに過ぎ去った今でさえ、まだ目的地であるBlueの鉱山は見えてこない。
響は端末機を取り出して近辺のサーバーマップを展開し、現在の位置情報を確認する。
青い矢印の先端が進行方向を向いており、ゆっくりと進んでいる。
その周辺に細かい森や川を示す図形が表示されていた。
マップをスワイプして目的地のポータルと現在地を示す矢印との距離を計ると、道のりはまだ半分も行っていなかった。
「今は3分の1てとこやな、次のポータルまでまだかかるぞ」
「んなもんどこにあんだよ…、廃墟と更地ばっかで全然見当たらねーぞ…」
「通過点感知システムは今走ってるこの線路に組み込まれていて、先端車両がシステムを通過すると自動的に端末機に情報が送られて現在の位置を知れるんです
穂波さんが開発なさったんですよ」
「へぇ~、あいつ普段イカれてるけどやっぱ天才の名は伊達じゃねぇのな。
俺端末あんまり弄ってねぇから知らなかった」
「音声通信しか使わんもんなお前」
響はもはやなにも言うまいと端末機を懐にしまった。
ふと列車の轟音が一層大きくなったかと思うと、窓の外が突然墨を落とし込んだような黒に染まる。
どうやら山間のトンネルに入ったらしい、真っ黒な窓は鏡のように響の顔を写す。
それは嫌でも鼻筋の傷が目につき、響は嫌悪に顔をしかめた。
(今朝の夢と言いこの傷と言い…忘れたくてもふとした時に思い出せと言わんばかりに見せつけられんねやからタチ悪いわな…)
鼻筋の傷が疼いた気がして、誤魔化すかのように抱えていた刀の柄を握り締めた。
長く暗いトンネルを抜けた頃には、空の端が燃えるように紅く染まり始めていた。
もう間も無く日が沈む。




