青の邂逅_03
「で、響がここに来るなんて珍しいじゃん、何かあったの?
もしかして銃を教えてほしいとか?」
モニターの記録をリセットし、床に散らばった薬莢を片付けながらニヤニヤと悪戯っぽい笑みで問うと、その表情に少し苛立ちを覚えたのか、軽く草太の頭を小突いた。
「いってぇ!何すんだよ!」
「アホな事抜かすからや、そうやなくて任務。今朝雅から報告あってな…」
響は雅から伝えられた、Blue鉱山の輸送列車の護衛をするという事を伝えると、草太は少し苦い顔をした。
「げ…、Blueに向かうって事は数日列車に乗るってことだよな…。俺あの列車、椅子が固くて苦手なんだよ…」
「まあそう言うな。短期間で行ける交通手段がそれしかないんやからしゃあないて。ジープやと燃費の問題もあるし数日なんてどころやないんやから」
草太はよほど嫌なのか不満げな表情だ。
響は苦笑しながら慰めの意味も込めて草太の肩を叩いた。
「ま、それについての詳しい話を後でするさかい、先に飯食いに行こうや!どうせ訓練しててまだ食うてへんやろ?」
「飯!行く!」
草太は先程の暗い表情から一転して目を輝かせ、壁のフックにかけていたコートを手にして早く早くと急かす。
響はその様子にほんのすこし口角をあげてあとに続いた。
◆◆
食堂に行くまでの長い渡り廊下を草太と談笑しながら歩いていると、前方から見覚えのある金髪が目に入る。
途端に響の眉間にしわがより、あからさまに嫌な顔をした。
「橘…八重斗…」
そう呼ばれた金髪の青年も響を見るなり三白眼を細め、そして同じように嫌悪を込めた眼で響を睨む。
「ちっ…んだよ蓮見かよ、朝からシケた面拝んじまったなぁ…」
八重斗は挑発的な態度でそう言うと、響のこめかみに青筋が浮かびあがる。
今にも飛び出しかねない右手の拳を震わせ、目尻と口角がひくついているものの、努めて冷静を装った。
「そらどーも、少なくともてめぇの極悪人面よりは何百倍かはマシやと思うんやけど?」
冷静を装ったつもりでも腹の中は相当煮えくり返っていたらしい。
鋭い言葉の棘を八重斗に浴びせると、お互いほぼ同時に堪忍袋の緒が切れる音がした。
「蓮見ぃい!!てめえは今日という今日こそぶち殺す!!」
「上等じゃ!!!返り討ちにしたるわボケ八重斗!!!」
響と八重斗の殺気がぶつかりあい、辺りの空気が肌で感じるほどに張りつめる。
互いに己の得物に手をかけ、今にも抜刀しかねない雰囲気だった。
「ちょ、ちょっと二人とも!ここでの抜刀はマズいって…!」
草太が慌てて二人の仲裁に入ろうとしたその時、軽やかな鈴の音と共に目の前を何かが横切ったその直後、何かを殴打する音が廊下に響いた。
音がした方を見れば、響と八重斗は二人して俯せで床に倒れ込んでいる。
「…へ?」
何が起こったのか分からず草太が口を開けたまま呆気にとられていると、二人を床に沈めたと思われる人物がいつの間にか草太の目の前にいた。
「兵条第36条、軍内部にて訓練目的以外での抜刀および非公式の決闘を禁ず、コレを破った場合6カ月の禁固刑に処ス…士官学校を出たばかりの新兵でもちゃんと守ってるコトよ、二人とも」
淡々と兵条を読み上げる声の主は、中国人の面立ちをした小柄な体型の少女だった。
鴉の濡れ羽色、とでも言うのだろうか。緑がかった黒髪を左右で輪にし、その根元を縛る紐についた鈴が、動くたび軽やかな音を鳴らした。
「てめ…っ、紅花…!自分の班長に向かって何しやがっ…ぐぇっ?!」
文句を言い切る前に紅花と呼ばれた少女は、伏せた八重斗の背中に容赦なく全体重をかけて座り込み、八重斗は轢き潰された蛙のような情けない悲鳴をあげた。
「今にも兵条をぶち破りそうだったアンタらを止めただけ有り難いと思ってほしいネ」
「だからって頭に容赦なく脳天落としかますんはやめてほしかったんやけどな…」
「綺麗に決まったもんなぁ…」
草太が苦笑しながら響を助け起こすと、紅花は八重斗の背に座ったまま悪戯っぽく笑った。
「それは謝るネ、でも問題が起きるのを防いだんだから許してナ、響」
悪びれた様子なんて微塵も感じないが、紅花の言う通り故にぐうの音もでない。
未だ紅花に下敷きにされている八重斗には目もくれず、響は紅花に手を振り、草太と共にその場をあとにした。
内心、次こそは息の根を止めてやると憎悪を滾らせていたのはここだけの話である。




