青の邂逅_02
「これでええやろ、で、話は?」
さっさと話を進めたいと言うのに、やれ姿が見えなければいいという問題じゃないだの、また後でかけなおすだのと文句を垂れていたが、さして気にするでもなく右から左に聞き流した。
「どうせ今聞くんも後で聞くんも一緒やろ、小言はええから早よ報告」
「もぅ…!響さんはもうちょっとデリカシーと言うものをですね…」
「雅」
「…っ、…昨夜未明からRedとYellow国境付近にある赤の関所の国境警備隊と、定時連絡を最後に通信が途絶えていた件なのですが…」
蛇口を捻って水流を止め、髪から滴を滴らせながら、響は昨晩に通信でそれらしき報告があった件を思い出す。
「…それは藤堂大佐があのクソ金ぱ…4班に調査に行かせたやろ、またなんかあったんか」
「それが今朝、Blueの鉱山方面にある二つ目の関所が…同じように連絡がとれません…こちらから何度もアクセスしても応答なし、ジャミングの形跡もなく、関所の状態が確認できない状況にあります」
「…そっちには俺らが確認しに行けと?」
「いえ、そちらの関所への調査は、九重班長率いる1班が向かいます。
あの付近にはBlue鉱山のREDへの輸出用列車があり、関所が機能していない今、警備が手薄だと物資の定期輸出に支障が出かねないとのことで、今回私達はそちらの警護にあたります」
「…ふぅん、列車の警備ね…そんなん分隊の奴らの仕事のはずやろ、俺らが駆り出されるやなんて、随分とまあ人手が足りてへんみたいやねえ」
「それは…先の市外地でのレジスタンス鎮圧のため、そちらに回せる人員がいないものですから…。
Violetも、いつ動き出すかわからないですし…」
「Violet…なあ」
Redと敵対している国、Violet。
その国との国境に、Red国の関所をいくつか設置し、多くは他国侵攻の防波堤の役割を果たし、国外からの入国者には関税をかけていた。
いつもは提時に仕事内容を報告するための定期連絡がある。
その関所からの連絡が取れなくなったと言うことは…。
「…レジスタンスか紫のやつらか、まあ何にせよ詳しい話は後やな。
雅は資料集めて第3会議室行っとって、俺は草太と朝飯食ってからいくわ」
「了解です、それではまた後ほど…」
雅との通信が切られ、響はさっさと目的の人物を呼びに行くために髪をタオルで大雑把に拭い、シャツと軍服を着てシャワールームをあとにした。
◆◆
音を外部に漏らさないように作られた、灰色の壁が並ぶ無機質な広い空間。
射撃の訓練を目的とした場所で、茶色の髪を後ろに撫でつけ、あまった襟足を紅い紐で結んだ青年は鋭く目を光らせ、両手に二挺のハンドガンを構えて合図が鳴るのをを待つ。
視界の隅で赤いライトが点滅し、ブザー音が鳴ると共に、射座25m先に人の形をしたピクトグラムの的がランダムに現れる。
赤い的と青い的が不規則なタイミングに現れては倒れ、射撃経験のない人間からすれば動体視力が追いつかず、どちらが敵か味方かすら判別できない。
それぞれの的には急所と想定された円形のマークが所々に印されており、青年は的確に赤い的のマークにだけ弾丸を撃ちこんでいく。
的が出る速度は徐々に上がり、ふいに青い的を前にした状態で赤い的が少し横にずれて並んだ。
その並びはまるで赤い的が人質を取ったかのように見え、青年はフッと笑みを浮かべた。
「なめんな」
その小さく呟かれた一言と同時に、青年は何の迷いもなくトリガーを引いた。
放たれた弾丸は、青い的の顔面すれすれをかすり、後ろの赤い的の顔面に叩きこまれた。
二度目のブザー音がけたたましく射場に鳴り響き、傍らのモニターでは心拍数や呼吸動態などの生体情報が表示されていた。
射撃分析装置が出した青年の射撃評価のランクはダブルS。
評価のランクの中で最上位に当たる評価だった。
「うっし、今日も絶好調だな!」
先程の射抜くような鋭い視線とはうって変わり、年相応の無邪気な笑顔を浮かべて、持っていたハンドガンの汚れを手持ちの布巾で拭い、丁寧に銃身を磨く。
すると、後ろに何かしらの気配を感じた。
青年は一瞥する事もなく反射的に背後を振り返り、同時に後ろの気配に向けて銃口を突き付けた。
しかし自分の目の前にも、同じ銃口が見えている。
青年は、相手と腕を交差させる形で、互いに銃口を向け合っていた。
「後ろ、気ぃつけとかんと頭ぶち抜かれるで。草太」
「どうかね、少なくともお前よりは早くトリガーを引く自信はあるぜ。響」
「せやろね」
響は銃を下ろし、傍らのテーブルに置きながら悪戯っぽくわらった。
草太も笑いながら、銃を腰につけられた革製のガンホルダーにしまう。
他者から見れば一触即発の場面だが、二人からすれば他愛のない戯れでしかない。
犬飼 草太
彼は響の親友にして、響が率いるCRIMSON部隊第3班の一人でもあった。




