サイドストーリー 気になるあの子とのドキドキタイム⁈
入学式のその後のお話です。今回はガイル視点でお話を展開しております!
タイトルにサイドストーリーと記していますが、
本編の内容にも関わってくるお話となっております。
一部、別サイド視点のお話もありますので、お楽しみに!
※内容を一部、修正しました。2026.10.4
気になるあの子の連絡先を教えてもらった。
週末に甘味処へ一緒に行く約束もした。
そんな安っぽいラブソングのような言葉を頭に浮かべながら、俺は明日の用意をしていた。
「あとは…服か」
俺はプリムラ魔術学園の男子寮の自室で、男性ファッション誌と睨み合いながら、出かけるための服装を考えていた。
もちろん普段はファッション誌など買わない。
ロックスに雑誌を借りて、必要な箇所にだけ付箋をつけて読んでいるだけだ。
「必要な部分だけ読んでみたが…流行りを追うよりは、自分に似合う格好をしたほうが良さそうだな」
ダイアンサス家の邸宅から持ってきた何着かの服をクローゼットから物色し、自分が気に入っている服を手に取る。
「学園の他の奴らに見つかると面倒だから、少しだけ変装しねえとな」
準備はだいだい整った。明日はシエンと出かける予定だ。
待ち合わせは甘味処の店の前で、場所もしっかり把握した。
「明日を楽しみにしながら眠る夜なんて、いつぶりだろうな…」
準備もほどほどにして部屋の明かりを消し、ベッドへと潜り込む。
この間の不眠状態が嘘のように、深い眠りにつくことができた。
次の日―。
待ち合わせの甘味処へ行くと、既にアイツは店の前で待っていた。
「悪い、待たせた。…結構早く来たんだな」
アイツの―シエンの姿を見て、胸の鼓動が高鳴る。
チャイナ風のデザイン柄の白いブラウスに、ダークブラウンのプリーツスカート、黒色のミュールという出で立ちだった。
いつもは髪をまっすぐにおろしているが、今日はサイドの髪のみを残し、後ろを束ねてお団子風の髪型にしている。
「ううん、今さっき来たところだから、全然大丈夫だよ。…ガイル、サングラスかけてると悪い人に見えるよ?お店では外したほうがいいと思う」
ちなみに俺のファッションはというと、黒色のシャツの襟をすこし着崩れさせ、ボトムスは青色のジーンズを着用している。
靴は歩きやすい運動靴だ。それと、首元に十字架をモチーフにしたネックレスを付けている。
「あぁ?グラサンかけなかったら、他の学園の奴らにバレるだろ。これでいいんだよ。それより…」
「ん?どうかしたの」
確かファッション誌に書いてあった。『女に出会ったら、まずは褒めろ』と。
「今日の服装、似合ってる。…清楚でいい感じだな」
「ふふ。ありがとう。ガイルが褒めるなんて、珍しいね」
今回ここへ来たのは、あくまでシエンの機嫌を取るため。
入学式の週の休日に、二人だけで甘味処へ行くことにしたのだ。
ただし、甘味処やカフェは城下町周辺にしかない。
そして、プリムラ魔術学園もまた、城下町内に建設されている。
なので学園の奴らに見つからないよう、装いをいつもと変えて甘味処へ行こうと、事前に打ち合わせをしておいたのだ。
なんだろう。胸の動悸が激しい。顔に熱が集まってしまう。
こいつと一緒に居ると、いつもこうだ。
「ここの店、パフェが人気なんだって。ほら、ガイル。一緒に入ろう!」
俺はなんとか平常心を取り戻し、店へと入っていった。
*****
店員に案内され、二人掛けの席に座る。
店内は涼しく、落ち着いた雰囲気のオシャレな内装だった。
軽やかなBGMまで流れている。
「ガイルは何頼む?私はこの『季節限定いちごパフェ』にするよ」
「…俺はコーヒーでいい」
「えー?何か食べたほうがいいよ?お腹すかない?」
「俺、甘い物は苦手なんだよ」
「う~ん、そっかぁ…それなら…」
シエンはメニュー表をパラパラとめくって、何かを見つけようとしている。
甘い物は食わねぇって言ってんのに…また余計な世話を焼く気か?
「あった!これ『ところてん』って食べ物なんだけど、甘さはほとんどないから、ガイルでも食べられると思うよ」
シエンが指をさす方に目を向けると、無色透明の四角くて長細いゼリーのような食べ物が載っている。
食べ物の写真の横に小さく「みつは『酢味噌しょうゆ』と『黒みつ』が選べます」と書いてあった。
「この『みつ』って何だ」
「上からかけるソースみたいなものだよ。甘いのが苦手なら『酢味噌しょうゆ』が良いと思うよ」
「…甘くねえならこれにする。決まったんなら店員呼ぶぞ。いいか?」
「うん。お願いしまーす」
俺はなるべくスマートに店員を呼んで、それぞれの品を注文した。
「では念のため確認いたします。季節限定いちごパフェがお一つと、ところてんでみつは酢味噌しょうゆをお一つ。以上でよろしいでしょうか」
「ああ、頼む。」
「かしこまりました。それでは、メニューをお下げいたしますね。少々お待ちください」
店員が去ったあと、「前から気になってたんだけど…」とシエンが話しかけてきた。
「この間、入学式の日のホームルームが終わった後、シャーリーが私とガイルから『同じ匂いがする!』って騒いでたじゃない?あの時、ハンカチを匂わせて納得させたようだけど、なんでシャーリーは納得したんだろう?だって、私はガイルのハンカチに一度も触れていないのに」
『前から気になってた』なんて言うから身構えたが…そのことか。
確かにシエンの言うことはもっともだが、俺にはその理由に心当たりがある。
「それは、ベロニカの奴がただの獣人族だからだろうな。獣人族は姿形自体、獣のそれに似ているが、身体能力は獣並みに備わっていない。元々ベロニカは、猫並みの嗅覚は持ち合わせていないんだよ。まあ、他の魔族に比べたら別の意味で、『鼻』が利くんだろうけどな」
「え、獣人族って猫や狼の身体能力とか使えないの?」
「お前、知らなかったのか?」
俺は、シエンは割と博識だから、何でも知っているのかと思っていた。
コイツでも知らないことがあるんだ。
「あ、うん。実は得意分野以外の知識はあまりなくて…。でも今度『種族の違い』について図書室で本を借りて読んでみるよ」
「お前さえ良ければ、俺の実家にある本を貸してやる」
「え、いいの?」
「…少し時間はかかるが、それでも問題なければいつでも貸してやるよ」
「じゃあ、お願いしようかな。急ぎじゃないから、私もいつでもいいよ」
「ああ、わかった」
そうしてしばらく俺たちは、とりとめのない話しをしてその場の雰囲気を楽しんでいた。
*****
数分後―。
注文した品がテーブルの上にキレイに並べられている。
シエンに勧められた『ところてん』は意外と美味かった。ゼリーよりはやや固めで、つるっとした喉ごしがいい。
酢味噌しょうゆの『みつ』もやや辛めで俺好みの味だった。
「ん!美味しい!城下町に行くことはあっても甘味処とか寄ることないから、なんか新鮮~」
シエンはパフェが食べれて中々ご機嫌のようだ。
「お前、美味そうに食うな。…おい、口元にクリーム付いてんぞ」
「え?ど、どの辺?」
慌てるシエンを余所に俺は、シエンの顔にスッと右手を近づけ、指でクリームを取ってやる。
そして指に付いたクリームをペロっと舐めた。
「結構甘いかと思ったが…クリームは甘さ控えめだな」
シエンの方にチラリと目をやると、顔を赤くしてこちらを見ている。
よほど恥ずかしかったのか、耳まで赤くなっているようだ。
(へえ、学園では余裕そうな態度取りやがるが、意外と初心なのか)
「…どうした、パフェ食わねえのか?」
俺はニヤニヤしながら意地悪くシエンに声を掛ける。
「え、あ、いや、そ、そうだね!まだ残ってたね」
顔を赤らめ、恥ずかしそうな態度を取っているシエンを見るのは、実に愉快だ。
こういうからかい方のほうが、コイツには効くのか。
新たな発見をすると共に、シエンの弱点も見つけることができた。収穫はあったようだな。
「…なあ、入学式の時にお前が言ってた『よく眠れるハーブティー』ってどこに売ってんだ?」
「え?(あの独り言聞いてたんだ…)ああ、『カモミールティー』のことだね。それなら普通に市場で売ってるよ。この後、一緒に見に行ってみる?」
「ああ、市場に流通しているなら買いたい。悪いが一緒に探すの手伝ってくれ」
「もちろん、いいよ」
そして俺は二人分の会計を済ませ、甘味処を後にした。
「ご馳走様でした。ガイル、今日は奢ってくれてありがとう。」
「言っとくが、今回だけだからな」
そして俺たちは、近くの市場で「カモミールティー」を探すことにした。
*****
時を同じくして。昼下がりのとあるバーの中。
バーのカウンターでは眼光鋭い、ガラの悪そうな男がグラスを傾けている。
「なあ、マスター。とある筋から聞いた話なんだけどよ…。プリムラ魔術学園に、金属性と木属性のガキが両方出現したらしいな」
「ほう。2つの稀有な属性が同時に出現するのは、珍しいですね」
マスターと呼ばれた男は、髪型を金髪でオールバックにしており、バーテンダーらしい身なりをしている。
「俺は知らせを聞いて、背筋がゾクゾクしたぜ…世の中ひっくり返すには、絶好の機会かもな」
「おやおや。貴方も物好きですね…また、あの連中を使うんですか?」
「まあな。そろそろ地下に潜伏するのも飽きてきたし。機が熟したってところかねぇ」
そう言ってカウンターの男は「お勘定」と一声かけ、支払いを済ませる。
するとマスターと呼ばれた男が、胸の前に手を当てて、恭しく一礼する。
「なにかお手伝いできることがありましたら、お知らせください。シラカバ様」
「…近いうちに召集をかける。連絡があるまで待て、サントリナ」
シラカバと呼ばれた男は、バーの入口から出ずに、バーの奥の壁に手を当てる。
壁から隠し扉が出現した。扉の先には薄暗い地下通路が広がっている。
「さて、どう料理してやろうか…今から考えるのが楽しみだなあ。ハッハッハ!」
この時はまだ、誰も知らなかった。
シエン達が魔術学園での生活を謳歌している間に、彼らを蝕もうとする闇が近づいていることを。
*****
夕刻―。
俺は寮の自分の部屋へ戻り、夕食を済ませてくつろいでいた。
机の上の「魔通信機」を片手にメールの着信を確認する。
「魔通信機」とは、遠くにいる相手とも連絡が取れる便利な魔道具だ。
手のひらサイズの魔道具で、縦にスライドすると、画面と入力ボタンが現れる。
この魔道具は風魔法を動力として使っているらしい。
主に「通話」と「文書(メール等)」のやり取りと、時計機能などが付与されている。
魔術学園で生活を送るにあたり、俺は父上から「魔通信機」を持たされた。
「魔通信機持ってる奴、意外と多いんだよな…シエンも学園に入学するとき、親に持たされたって言ってたし」
メールの着信を確認すると、シエンからメールが届いていた。
『今日は甘味処で奢ってくれてありがとうね。ガイルが嫌でなければ、またいつかご飯でも食べに行きたいな。もちろん、今度はちゃんと割り勘で。じゃあ、またね』
「ふーん…アイツなりに楽しめた感じか?あ、待てよ。返事なんて打つかな…」
俺はまだ、この時気づいていなかった。
俺がシエンに惚れ始めているという事実に。
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
今回は糖分甘めな内容にしました。
パフェも甘いですが、二人のやり取りも甘くしたら、ちょっと胃もたれしてきました(笑)
次回から、とある学校行事が始まります!お楽しみに!




