第8章 止まらない涙とツンデレ男子
魔属性鑑定で、シエンは属性一最弱の「木属性」と鑑定され、
クラスメイトたちの間でケンカが起きてしまう。
デューイ先生の折檻で事態は丸く収まったが、
シエンの気持ちは収まらず逃げるように彼女はその場を離れる。
そんなシエンの様子が気になる魔族がいるようで…?
※内容を一部修正しました。 2026.10.3
「シンリー、この後どうするー?」
「そうだな…購買でも寄ってくか。シエンも一緒に…ってシエンはどこ行った?」
「ありゃりゃ?さっきまで一緒に居たんだけど…んじゃ、『シーちゃん探し』しよー」
「そうだな。あいつ、どこほっつき歩いてんだ?」
その様子を怪訝そうに見つめる生徒が一人居た。
「……少しだけ、様子を見に行くか」
一方私は、魔属性鑑定が終わった後、人目を避けて一年生のA棟校舎裏側にあるベンチに腰かけていた。
ここは北側で日の光も届かないため、ひんやりと涼しく人目につかない場所でもある。
ほんの少しだけ…一人になりたい。
「はあ…ダメだ。今日は情報量が多くて、情緒が不安定になってしまう…」
思えば入学式から色々あり過ぎた。
私の試験監督の先生の一方は学園長先生で、もう一方は私の担任の先生。
その担任のデューイ先生は試験前日にお酒を飲んでいて、二日酔いで調子が悪かった先生だ。
おまけに、入学式が始まる前、私にぶつかってきたガイルは学年主席。
そして、何故かガイルに目をつけられ、罵られてばかりいる。
「ガイルって、前世の小早川課長に似てる気がする…嫌だな。なんでいつも私は、攻撃的でガラの悪い男に絡まれるんだろう」
しかし、小早川課長の言うことは理不尽なことが多かったが、ガイルの言うことは概ね筋が通っている。
彼は間違ったことは言っていない。ただ、言い方がキツイだけで。
まあでも、女友達ができたのは素直に嬉しいけどね。
思考回路と気持ちが落ち着くまで、ここでゆっくりしよう。
私は運動靴を脱ぎ、ベンチに三角座りして顔を伏せた。
*****
10分ほど経った頃、誰かが近づく気配がした。
「おい、シエン」
聞き覚えのある声だった。だけど、なぜあいつがここへ来たんだろう。
「大丈夫か、具合悪いのか?顔を上げて見せてみろ…って、なに泣いてんだよ」
そこには心配そうな顔をしたガイルが立っていた。
実は私は、心を鎮めようとしたらなぜか自然と涙が流れてしまい、収拾がつかなくなってしまっていた。
まあ、涙のワケは100%、目の前の君が原因なんだけどね。
「泣いでない…ご、ごれは、心の汗です…」
顔はびしょ濡れになり、最悪な場面をガイルに見られてしまった。
だけどもう、正直どうでもいい。
「それを『涙』って言うんだろ。…袖で涙を拭くな、これ使え」
そう言ってガイルはハンカチを差し出してきた。紳士物の上品なハンカチだった。
「こんな高価なもの、使えないよ…」
ガイルに優しくされて余計に目から涙が溢れ、止まらなくなってしまう。
ただのガラが悪い男子だと思ってたのに…なんでこんな時に限って優しくするのよ。
しかし、ガイルがハンカチを持ち歩いているのは意外だった。
ダイアンサス公爵家の次男として、しっかり教育を受けているのだろう。
「はあ…。分かった。…少しじっとしてろ」
呆れられてしまったかな。本当はもう泣き止みたいのに、全然涙が止まらない。
その時、ガイルが私の手首を掴み顔を近づけ、私の頬に軽くチュっと口づけを落とした。
「んん?!な、なにやって…」
「涙、引っ込んだみたいだな」
あまりの出来事に顔が熱くなる。気がつくと私の涙は引いていた。
「あ、ありがとう…?」
「なんで疑問形なんだよ。…隣、いいか」
私は咄嗟にガイルが座れるように場所を開けた。
ストンと彼は腰を降ろすが、何故か距離が近い気がする。
「…ガイル君は、何しにここへ来たの」
「お前が他のクラスの奴らを避けるように、ここへ逃げて行くのを見つけたから、後を追って様子を見てた。」
「そうじゃなくて…私に、何か用?」
頬にキスを施され内心動揺していたが、平静を装って私はガイルに質問した。
「その…さっきは俺が悪かった。俺、お前と居るとなんか心がモヤモヤして、居心地悪い気持ちが芽生えてさ、つい八つ当たりしちまって…本当に、すまなかった」
相変わらず私は、攻撃的な男性の標的になってしまう。
今だって、ガイルのサンドバックにさせられている。
なんでいつも、こうなるんだろう。
しかしガイルが自分から謝ってきたので、私は少し意地悪を言ってみた。
「それは、私が木属性だから馬鹿にしたことに対する謝罪?それともガイル君が睡眠不足かもしれないから、気を付けろと言ったときのことの謝罪?」
「…ぜ、全部だよ。あとさ、『ガイル君』って言うの止めてくんね?」
「え?」
「普通に『ガイル』って呼び捨てでいい。俺に『君』なんか付けるな」
「じゃあ、ガイル。言っておくけど、私はまだ君のことを許したわけじゃないからね」
「な、なんでだよ。さっき謝ったじゃん!」
「ノンノン!謝れば許されるほど、世の中甘くないの。まあ、あとは今後の君の態度次第だね」
するとガイルがじっとこちらを見つめてくる。いや、睨んでいるようだ。
「お前さ…俺にどうして欲しいわけ?」
「う~ん?とりあえず甘味でも奢って、機嫌を取ってくれたら許す」
これくらいの我が儘は言ってもいいだろう。
「女子って甘い物好きだよな。…わかったよ。寄りたい店があんなら教えろ。今度一緒に連れていってやる」
「君の奢りでね。後で連絡先を教えるよ」
先ほどより雰囲気が柔らかくなった気がする。
とりあえずこれで仲直り出来たのだろうか。
甘味処も奢ってもらう約束もできたし、私としては嬉しいのだが、ガイルの本音はどうだろう。
「…あのさ、悪いんだけどさ。膝枕してくんね?」
いきなりのガイルの発言に私は驚いてしまった。
「へ?」
「さっきから眠いんだよ。…時間になったら起こして」
ガイルは私の許可も待たずに、膝の上に頭を置いて目を閉じている。
器用に頭の2本角を隠し、数分もしないうちに眠ってしまった。
「この様子を見ると、昨夜は一睡もできなかったのかな。…今度、ぐっすり眠れるハーブティーを用意しようか」
半ば強制的に膝枕をしているが、成り行きで仕方がないので、そっとガイルの頭をなでてみる。
シャーリーが「ガイルはオネムで私に甘えたかった」というのは、あながち嘘でもなさそうだ。
さわさわと心地よい風が吹いて、「絶好の昼寝日和だな」などと私は思いを巡らせるのだった。
*****
「では、これでホームルームを終わる。カリキュラムはさっき配布したとおり。
明日から授業が始まるので、気を引き締めて勉学に勤しめ。以上、解散!」
私はガイルの昼寝に付き合わされ、クラスメイト達の目をごまかすために、二人別々に時間差で教室へ入室し、無事にホームルームを終えた。
「シーちゃん、さっき聞きそびれたけど、魔属性鑑定終わった後、どこ行ってたん?」
シャーリーに質問され、先ほどのガイルとのやり取りが脳内を掠める。
「あ、えっとね。校内の非常階段とか、まだ確認してないところがあったから、校内見回りの続きをしてたんだ」
言い訳苦しかったかな?嘘だとバレるかな…。
「ふうん…そうなんだー!…スンスン。むむむ。シーちゃんからガイルの匂いがする!」
シャーリーが顔を近づけ私の体臭を嗅ぐと、とんでもないことを言い出した。
「え?」
「そして、ガイルは…」
そういえばシャーリーは猫の獣人族だったな。
もしかして嗅覚が猫並みに優れているとか?
シャーリーはスルッとガイルに近寄り、匂いを嗅いでいる。
「うお!ば、馬鹿、匂いを嗅ぐな、変態か!」
「やっぱり!ガイルからシーちゃんの匂いがする!」
「「「ええええ?!」」」
教室中がパニック状態になってしまった。
「おい、シエン!あいつに何かされたのか?安心しろ、ダチに手を出した輩はぶっ飛ばす!」
シンリーは私の肩をつかんで心配そうに詰め寄ったかと思うと、今度は拳を握ってガイルに喧嘩を挑もうとしている。
「まさかとは思ったけど、手が早いねー。ガイルって意外とスケベなんだ♪」
「一見初心な感じに見えたが、中々やるではないか、ガイル氏!これぞ紳士の嗜み!」
クランベリーやラインハートまで騒ぎ出す始末だ。
なんとか適当にごまかそうと、私は早口でシンリーを宥めようとした。
「ま、待ってシンリー!…実は、さっき私が見回りしている時に、目にゴミが入ってしまって、その、偶然居合わせたガイルにハンカチを貸してもらったんだ!」
私に合わせてガイルが機転を利かせてくれた。
「あー…そういやそうだったな。目にゴミが入って泣き散らかしてたから、ハンカチ貸してやったんだわ。おい、馬鹿女。このハンカチの匂い、嗅いでみろ」
言いながらガイルはシャーリーにハンカチを差し出す。
本当にこれで、大丈夫かな?
だって私、ガイルのハンカチには一度も手をつけてないし…。
シャーリーは始めこそ「シャー‼」と威嚇していたが、匂いを嗅ぐと「さっき嗅いだ匂いと同じだ!」と納得したようだ。
「なんだ、シャーリーちゃんの早合点だったんだ。びっくりしたぁ」
クランベリーや他のクラスメイト達も納得したようで、なんとかこの場を収めることができた。
各々帰り支度をしている最中、ガイルがそっと私のほうに寄ってきた。
「昼間の出来事、誰かに言いふらしたら、罰ゲームだからな」と耳打ちし、さっと私のそばを去っていく。
そんなの言えるわけないじゃん。でも、罰ゲームって何するんだろう?
あまり良くないことが起きそうなのは確かだ。
この秘密は墓場まで持っていこう。
「シーちゃん、途中まで一緒に帰ろー」
「うん!今行くねー」
入学式も無事に終え、女友達もできて正直嬉しい。
なんとか、このクラスでやっていけそうだ。
―職員室―
「さて、なんとか入学式を終えたが…今年も楽しみだな」
残業中のデューイ先生が手元の資料を読みこみながら、不敵な笑みを浮かべている。
「徹底的に教育してやらねば…な」
職員室の窓の外では雷が鳴っている。
不穏な気配がシエンたち1年Sクラスにすこしずつ迫っていた。
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
今回で入学式編は一旦終わりですが、本編はまだまだ続きますのでご安心ください。
次回は入学式後のサイドストーリーをお届けします!
お楽しみに!




