第39章 10年越しの和解と裏話
「…これが10年前の出来事なんだが、お前は知らなかったんだな」
ガイルの話を最後まで聞いていた私は、目から大粒の涙が溢れ出てしまっていた。
「そ、そんな過去があったなんて…父様や母様も10年前のことを中々話したがらないし、家ではその話はタブーだったから…でもさ」
わたしは少し涙を抑え、ガイルに本音をぶちまけた。
「昔のガイルと今のガイル、全然ちがうじゃん!昔は色白で目もぱっちりしてて、とっても可愛い男の子だったのに!」
バツが悪そうにガイルは頭を掻きむしり、ぼそりと呟く。
「あれから、近衛騎士になるための特訓を受けて、屋外での稽古が増えたから日焼けしちまったんだよ。兄上は領地の政治を、俺は領地の警護のため近衛騎士になるように…って父上から命が下されたから、そのために勉強だけじゃなく、鍛錬もしてたんだよ」
だから魔闘大会でも戦い慣れていたのだな、と私は合点がいった。
「…もしかして入学式の時、私に当たりが強かったのって、私がガイルのことを忘れていたから?」
「まあな。俺のことを見たら、ちょっとは思い出すかな…って期待してたんだが。
お前、全然思い出さねぇから、ムカついてちょっと八つ当たりした」
そんなの、正直に言ってくれればいいのに…と私は考えたが、
初対面で「実は俺たち10年前に会ってるんだ」なんて言われたら、気味悪がるかもしれない…と思い直した。
「そうだな…正直な話俺、いま心が弱ってるから、
シエンが俺のほっぺにチューしてくれたら、元気出るかもなぁ?」
そう来たか…うーん、さっき『出来ることがあれば何でもする』って言っちゃったしなぁ…まあ、ご褒美くらいはあげてもいいか。
私はガイルに向き直り、じっとガイルの顔を見つめた。
「…少し、じっとしてて」
私はスッと近づきガイルの頬に口づけを落とす。
感覚を楽しむように、私は少し長めに口づけした。
ガイルの頬から唇を離すと、ガイルは私の腰を自分のほうへ引き寄せる。
そのままガイルは顔を近づけ、私の唇を奪った。
ガイルの唇と私の唇が折り重なる。
「んぅ…!」
お互い唇を離すと、甘い吐息が絡み合う。
「ガ、ガイル!ここ病院だから!
あんまり羽目を外すと、他の患者さんを刺激しちゃうから!もう、これ以上はダメだよ」
私が諫めると、ガイルは少し残念そうな顔をした。
「…ここ個室だろ?ちょっとくらい、いいじゃねえか」
「良くない!ほら、もう自分の部屋へ戻って。しっかり休まないと、退院する日が伸びちゃうよ」
これ以上ここにガイルを置いていくと危ない気がするので、私は彼を自室へ戻るよう促した。
「じゃあ、またな。シエン」
「うん。退院したら、たくさん遊びに行こう」
私の言葉を聞いて、ガイルは急に元気になる。
「…今の、言質取ったからな」
「わかったから、もう行きなって…」
それから3日後―。ガイルは退院し、私も5日後に無事退院することができた。
*****
シエンたちが退院する少し前、デューイ・トリトニアとレイモンド・フロックスは近場の居酒屋で久しぶりの再会を交わしていた。
「やあ、デューイ。卒業して以来だね。どうだい、調子のほうは?」
「…お前、そもそも自分の娘がプリムラ魔術学園に入学するなら、私に一言くらい言ったらどうだ?」
「おや、久しぶりに級友と会うのに、第一声がそれかい?それに、こういうのは黙っておいたほうが面白いだろう?」
やれやれというように、デューイは呆れた顔をする。
そんな彼にはお構いなしというように、手元のグラスを傾けながら、レイモンドはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「シラカバのことは…僕も聞いているよ。退学してからどうしているか、気にはなっていたけど…あいつは、本当は独りで寂しかったんだろうね」
「お前や私が周りに居ても、あいつは私たちの言葉に耳を貸さなかった…奴の自業自得だ」
デューイが物悲しそうに呟く。
「ま、あいつのことはさておき。それでさ、僕の娘だけど、学校で上手くやっているかな?
時折実家に帰って、学園生活の話は聞くんだけどさ。デューイから見て、うちの娘はどう思う?」
レイモンドの娘に対する異常な執着について、デューイはまだ知らない。
「そうだな…入学式ではひと悶着あったが、級友たちとは仲良くやっているように見える。
成績も優秀だし、周囲への気遣いも上手い。…ダイアンサスの嫁になるには及第点だな」
「デューイさ…わざと言っているだろ?まあ、ダイアンサス家から
『自分の息子が信頼を置ける仲間を作れる環境を用意してほしい』ってプリムラ魔術学園に要請があったって話は、僕も後で知ったけど…。セルリアの奴、とんでもないこと要求するよなぁ」
セルリア・ダイアンサス。レイモンドとは幼馴染で、現ダイアンサス家の当主である。
「それだけ、ダイアンサス領地を統治するのが難しいってことじゃないのか?
時折、内乱が発生していると噂を耳にするぞ」
「ダイアンサス領地は昔から小競り合いが絶えないよねぇ。
ちなみに、うちの娘を婚約者にって話が出たときは、僕も思わず発狂しそうになったよ。
しかし、ガイル君もいい男になったよなぁ」
「レイモンド、お前…酔ってるだろ」
「…ん?まだ、ほろ酔い程度だよ。ほら、今日は僕の奢りだからさ。ちゃんと呑んでる~?」
こうして、二人は居酒屋で互いに飲み明かすのだった。
*****
私たちが反社会組織と激戦を終えて退院するころには、いつの間にか年が明けていた。
プリムラ魔術学園は建物の倒壊もあり、授業はしばらく延期となった。
ガイルは体に異常は見られなかったが、精神面での理由により、1か月に2回カウンセリングを受ける日々を過ごしている。
魔術学園の先生たちは保護者からの対応に追われているようだ。
退院してから私は、1週間ほど実家で過ごしていたが、心身ともに回復したため、元のアパートの自室へ戻っていた。
そして、父のレイモンドは薬の研究開発に成功し、今回のアンデッド化が重篤化した患者に向けて投与薬を各医療施設へ届ける仕事をしている。
少しずつではあるが、私たちは各々の平和な日常を取り戻しつつあった。
―闇の帳が降り、明るい兆しが見える―
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
最後にガイルの父親、登場です!
そして、物語はフィナーレへと進みます。
次が最後のお話です。お楽しみに♪




