第38章 事件の真相と大切な話
病院で目が覚めたシエンは、デューイ先生から事件の真相を聞かされる。
一方、ガイルもシエンに伝えたい出来事があるようで…?
―遡る事7日前―。
学園で爆破が起きた後、白い光とともに、アンデッド化を元に戻す物質が大陸全土に広がり、アンデット化した亜人たちは無事、元に戻ることができた。
だが、1年Sクラスで戦闘に参加していた私はもちろん、ガイル、クランベリー、ジャイロ、ロックスは魔力を爆発物に注ぎ込んだ反動で体内の魔力量が不足していまい、力尽きて倒れ込んでしまった。
医者によると魔力渇望症という病気で、安静にしていれば自然と治るらしい。
ちなみに、フォックス学園長先生が爆発物に注入した魔術だが、あれは学園長先生の特殊スキルらしい。
「ライトマジック」と言い、闇属性と正反対の性質をもつ能力だそうだ。
また、光による浄化能力を発揮できるらしく、爆発物に込められたアンデッド化の成分を分解し浄化できたのは、この「ライトマジック」のお陰なのだ。
そして、例の侵入者3人組だが、彼らは反社会組織「パイソン」の幹部とそのリーダーだった。
リーダーのシラカバを筆頭に、今回の件を企てた様子である。
聴取した近衛騎士団によると、彼らはプリムラ魔術学園の生徒を見せしめに殺し、大陸全土を絶望の淵に追いやりたかったそうだ。
そして時限爆弾で大陸を危機に陥れ、自分たちで大陸全土を凌駕しようと目論んでいたらしい。
どこの世界にも「世界征服」を目論むお馬鹿な連中というのは、一定数いるようだ。
自分たちだけの世界を創ったって、上手くいくはずがないのに。
新聞記事にも今回の事件は掲載されており、私も記事の一部分を読ませてもらった。
シラカバは元々プリムラ魔術学園の生徒で金属性だったが、
本人の素行が悪く心が荒んでしまったため、金属性から闇属性へ属性が転換してしまったのだという。
闇属性に転換したシラカバを、学園は受け入れられず彼に退学を言い渡した。
そこから彼の地獄の日々が続いた。闇属性というだけで周りから疎まれ、ロクな就職先も見つからず、カタギの仕事では食いつないでいくことができなかった。
結局シラカバは、犯罪まがいの仕事をしながら、反社会勢力を自らの力で拡大していくことにした。
世の中に復讐心を燃やし、自分を馬鹿にした連中に一泡吹かせてやりたかったそうだ。
「パイソン」の幹部の3人とも重症を負っていたが一命を取り留め、永久牢獄行きが決定となり、今後脱獄でもしない限りは表舞台に顔を出すことはないだろうとデューイ先生は語る。
「ひとまずお前が知りたがっている情報はすべて話したが、まだ何か聞きたいことはあるか?」
デューイ先生から尋ねられた私は「今のところはありません」と答えた。
「むしろ情報量が多くて、頭の中を整理するので手一杯です。それと、今は治療に専念したいです」
デューイ先生は少し驚いた様子だった。
「お前からそんな殊勝な言葉が聞けるとはな…目が覚めたことをご両親に報告してくる。必要なものを用意するよう伝えておこう。
あと、ナースステーションにも声をかけておく。何か困ったことがあれば、ナースコールで呼ぶといい」
必要な用事が済んだので、デューイ先生は私の病室から去っていった。
「…なんか、いろんなことが起き過ぎて、もう何がなにやら…」
いきなり前世の会社の夢を見て、夢の中のガイルから甘い言葉を囁かれ、目が覚めたら一週間も経過していて、事件は収束へ向かっている…寿命が1年分縮んだ気がする。
「まあいいや。今はゆっくり眠ろう」
私はまた、ゆっくりと眠りにつくのだった。
*****
そして私は検査室で魔力量の検査を受けたり、軽くリハビリとして体を動かす日々を送っていた。
病院生活も3日目を過ぎた頃。ガイルが私の病室へやってきた。
彼もまた、魔力量の異常枯渇により入院していると聞いていた。
ガイルも私と同じように病衣を着用している。顔色は良さそうで、怪我などはなさそうだ。
「シエン、具合はどうだ?」
病室の来客用のパイプ椅子に座り、ガイルはベッドで座っている私に語り掛ける。
久しぶりにガイルの声を聞く。
私は夢の中でガイルに出会ったが、ガイルにとって私と会話をするのは本当に久しぶりだろう。
「うん、大分よくなったよ。魔力量も少しずつ戻ってきてる。ガイルは大丈夫?」
「ああ…俺は魔力量以外は大丈夫なんだが、少しだけカウンセリングを受けた」
私は『カウンセリング』という言葉に引っ掛かりを覚えた。
「カウンセリングって…ガイル、本当に大丈夫なの?」
「今のところは落ち着いてるから問題ない。
…サントリナと戦った時、奴の腹を剣で刺したんだが…。
自分の命を狙おうとしている魔族と対峙して、相手の体に外傷を負わせたのは今回、初めてだったから精神的に不安定になっていたらしい。
時々、アイツと戦った時のことを夢で見るんだ…その夢を見ると寝汗で目が覚めちまうんだけどな」
ガイルの症状は恐らく、PTSD(心的外傷後ストレス障害)かもしれないと私は思った。
犯罪者相手に戦って、心の傷を負ってしまったのだろう。
「…ガイル。私に出来ることがあったら、何でも言ってね」
ガイルは夢の中で私を救ってくれた。今度は私がガイルを救いたい。
「お、おう。ありがとな。…それと俺、お前に話しておきたいことがあるんだ」
ガイルはパイプ椅子を座りなおし、私と向き合う姿勢を取る。
「これは、俺とお前に関わる大切な話だから、最後まで聞いてくれ」
―10年前―。
俺は婚約者候補に会うという名目上で、とある辺境伯爵家の家に連れてこられた。
正直、婚約者なんて自分には必要ないと思い、
兄上が家を継げば問題ないだろうと考え、あまり気が進まなかった。
俺の邸宅よりこじんまりとした屋敷に連れてこられ、中へ案内される。
「ようこそ、フロックス邸へ、ガイル・ダイアンサス様。こちらが我が娘、シエン・フロックスでございます」
鬼人の優しそうな風貌の男性―レイモンド・フロックスに紹介され、
白いドレスを着た水色の髪にグリーンとブルーのオッドアイの女の子が淑女の挨拶をする。
「は、始めまして。シエン・フロックスと申します」
多少ぎこちない感じはあったが、社交界のレディとしてしっかり教育を受けているようだ。
それと…見た目が可愛らしいお人形のようだった。
「せっかくですから、まずはお茶を飲みながら、お話ししましょう」
これが、俺とシエンの初めての出会いだった。
俺はシエンの話しを聞くのが楽しみだった。
シエンは色んな本を読んでいて、最近読んだ本の内容を話してくれる。
俺は月に2~3回、予定を合わせてはシエンの家に遊びに行っていた。
いつだったか、「せっかくなので『疑似夫婦ごっこ』をしてみませんか」とシエンに誘われ、
完全に気が緩みきった俺は「俺、結婚するならシエンちゃんみたいな女の子がいい!」と彼女に爆弾発言を言ってしまった。
その時タイミング悪く、レイモンドに現場を見られてしまい、「お父さんは許しません!」と怒られ、あまりにレイモンドの表情が怖かったので、俺は泣き出してしまった。
その日はいつもより早めに帰宅し、俺と一緒にシエンの両親もついて来てくれて、
俺の父と母に「私が要らぬことを言い、ご子息を泣かせてしまいました…非礼をお詫び申し上げます」と謝罪をしてくれた。
「子どもの言うことですから…シエン嬢と仲良くできたみたいで、私としても嬉しいです」と母上がフォローしていたのを覚えている。
それから何度かシエンの家に遊びに行ったが、この年の秋頃流行り病のため、
俺と兄上は外出禁止を言い渡された。その時、ちょうど俺の母も流行り病で床に臥せていた。
フロックス家は薬師の家系で、レイモンドは特効薬の研究に尽力を注いでいたらしい。
結果として多くの魔族を救うことはできたが、俺の母の病を治すことはできなかった。
特効薬が出来る前に、母は帰らぬ人となってしまったのだ。
レイモンドが俺の母の葬儀に出席した際、俺はつい彼に恨み言を言ってしまった。
「ねえ、レイモンドおじちゃんはすごい薬師なんでしょ?
…なんで他の人は救えて、俺の母上は救えなかったの?…母上を返してよ」
俺は泣きながらレイモンドの足元にすがりつき、彼を困らせてしまった。
「ガイル。止めなさい。レイモンドは最後まで薬の研究を諦めなかった。
お前の母上が死んだのは、レイモンドのせいじゃない」
父に諫められ、おれはレイモンドの足元からスッと離れた。
「ごめんね…君のお母さんを救うことができなくて…本当に、ごめんよ」
レイモンドは膝をついて俺の背丈まで屈みこみ、俺を優しく抱きしめた。
幼少の俺にはまだ理解できなかったのだ。
母上は元々体が弱かったため、体が流行り病に耐えられなかったという事実に。
それから、俺はシエンの家に行くのを止め、家庭教師付きで勉学に励む日々を送ることとなった。
シエンの家に行くと、嫌でも母上のことを思い出してしまう。
レイモンドからも「すまないが、もう家に来てもらうのは止めてくれないか」と打診があったそうだ。
会えば互いに傷の舐め合いになってしまう。
こうしてダイアンサス家とフロックス家の交流は、一時的に途絶えてしまったのだ。
―これが、私とガイルの悲しい出会いの始まりだった―
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
この回の話を読むと、いつも涙が出てしまいます…(´;ω;`)
私は涙腺が弱いのでしょうか。
次回は、ちょっと明るい方向へ向かいますので、お楽しみに♪




