第4章 悪夢の先に見えるもの
いよいよ魔術学園入学に向けて準備を始めるシエン。
しかしある日、シエンはふと懐かしい光景を目の前にしてしまい…?!
※『カクヨム』にも連載しています。https://kakuyomu.jp/my/works/11054822663831803486
私がプリムラ魔術学園の入学試験に合格したことは、城下町に居るスズナお姉さまにも知らせた。
「あの超難関といわれる入学試験に合格できて、本当によかったな。
私も姉として嬉しく思うよ。よく頑張った、シエン」といった内容の手紙が私宛に届いた。
お姉さまは現在、城下町付近の薬局で働いていて、5~6年ほど経験を積んで実家へ戻ってくるとのことだった。
「スズナちゃんは今、下宿していたアパートをそのまま使って、城下町の薬局で働いているわ。プリムラ学園から近いところに下宿しているし、学園生活でなにか困ったことがあったら、スズナちゃんのところへ行ってみなさい。これ、住所のメモよ」
魔術学園入学の準備をしている最中に、母からメモ用紙を渡された。
「ありがとうございます、母様。お姉さまに会えると思うと、ワクワクします!」
「あら、一番大事なのは、シエンちゃんが学園生活を謳歌することよ。来週の土日に制服の採寸を申し込んでおいたから、一緒に行きましょう。それと、下宿するアパートも探さないとね。これから忙しくなるわよ~」
母の言葉を聞いて、私はひとつ気になることがあった。
「あの…母様。プリムラ魔術学園に寮はないのですか?私のように、遠方から入学する生徒もいると聞きましたが」
「う~ん、寮はあるにはあるのだけど…位の高いお貴族様専用って感じなのよね。寮生活を送るのに1か月で銀貨1枚払わないといけないし」
ちなみにこちらの通貨は銅貨・銀貨・金貨が流通している。
銅貨1枚は約100円。銅貨1000枚で銀貨1枚となり、銀貨100枚で金貨1枚という仕組みだ。
つまり、寮の家賃は1か月約10万円ということになる。
プラス生活費を足したら、前世の新入社員の初任給くらいになってしまう。
「1か月銀貨1枚は高いです…。近くのアパートを借りたほうが安く済みますね」
「そうなのよ。スズナちゃんの入学準備のときも、寮のお値段聞いてびっくりしちゃったわ。
うちも爵位はあるけど辺境伯ですからね。ごめんね~シエンちゃん。もしかして寮に入りたかった?」
「いえ、1か月で銀貨1枚と聞いて、寮に入る気が失せました…。『住めば都』と言いますし、私はある程度の安全が保てれば、どんな場所でも大丈夫です」
それに位の高い貴族たちに揉まれて暮らすのも、胃に穴が開きそうで嫌だ。
「辺境伯の分際で~」などと毎日嫌味を言われてしまっては、せっかくの楽しい学園生活が台無しになってしまう。
それに私には、気兼ねなく近所のアパートで一人暮らしするほうが性に合っている。
「ふふ。シエンちゃんならそう言うと思ったわ。学園入学に向けての準備もいいけど、ちょっとお茶にしましょう」
魔術学園の入学に備えつつ、私の日常は緩やかに流れていった。
*****
魔術学園入学の準備も順調に進み、年が明け2月になったころ。
魔術学園で使う教材の一覧を目にし、少しだけ予習をしようと机に向かっていた。
「歴史に算術、占星術…魔術も実践的なものを教えてもらえるらしいし、少しだけ楽しみだな」
気がつくと私は机に突っ伏してした。
予習するつもりだったが、どうやらうたた寝してしまったらしい。
ふと顔を上げると、懐かしい風景を目のあたりにする。
灰色の壁に黒板。
茶色の木の板に金属のパイプでできた机と椅子。
これは私の中学生の頃の様子と少し似ている。
…何で今になってこんな風景が…。
「おい、ブス春。呼んでんだから返事しろよ」
そうだった。私は中学生の頃、学校カースト上位の女子たちからいじめられていた。
そして前世で私は中学時代、蔑称で「ブス春」と呼ばれていた。
「ブース春!ブース春!」
いつの間にか男子も他の女子たちも加わって「ブス春」コールが教室中に響き渡る。
よりによって中学生の出来事が目の前に…これは、夢なの?
「や、止めてよ…いい加減にして!」
「はぁ?ブス春のくせに生意気なんだよ。ちょっと勉強ができるからっていい気になりやがって」
そしてどこからかバケツを持った女子が現れ、私は中に入っている水を頭から被せられてしまった。
髪の毛先から、水滴がポタポタと零れ落ちる。
制服もびしょ濡れになってしまう。
しかもよくよく自分の姿見ると、これから入学するプリムラ魔術学園の制服を着ていた。
「お前はどこに行っても、何をやっても『ブス春』なんだよ。バーカ」
クスクスっと嫌味な笑い声が教室の中で聞こえる。
違う…私はもう、昔の私じゃない…私は!
「私は、変わったんだ!!」
ハッとして目が覚める。
どうやら夢を見てうなされていたようだ。
額から嫌な汗が噴き出ている。
「…嫌な夢…何で、今になって…」
でも、よくよく考えたら前世での私の学校生活は、あまり楽しいものではなかった。
中学校では先ほどの夢のとおり、クラスメイトからいじめられていたし、高校はいじめを避けて女子高へ通ったが、変化の乏しい生ぬるい高校生活だった。
大学生になってもサークルには入らず、煩わしい人間関係を避けていた。
アルバイトも、物流センターの箱詰め作業など会話の少ないバイトをこなしていた。
私はこれから学園生活を送っても、本当に大丈夫なんだろうか…?
それに「ブス春」と呼ばれていた頃の私は、確かに顔立ちは中の下で、オシャレや美容に鈍感だった。
前世の頃の私は、あまり身なりにも気を遣っていなかったな。
今まで美容やメイクなどにあまり興味を持たなかったが、今後はキレイになるための努力もしたほうが良いかもしれない。
私は自室から出て、父と母のいる応接部屋へ向かった。
「あら、シエンちゃん。まだ起きてたの?もう遅いから、そろそろ寝なさいな」
「ごめんなさい。少しだけ勉強の予習してたら、うたた寝しちゃって…お水を飲んだら、もう寝ます」
「シエン。勉強もいいけど、あまり無理しちゃダメだよ」
父が心配そうに私の様子を見た。
「あら、シエンちゃん。ちょっと顔色が悪いわね。大丈夫?」
母が私の顔を覗き込んで、そっと私の額に手をあてる。
こんな私を気にかけてくれる両親には、本当に感謝してもしきれない。
でも、前世のことを話すわけにはいかない。
これは私の胸の内にしまっておきたい秘密なのだ。
なので私は、別のことを母様に聞くことにした。
「ちょっと、気になることがありまして…母様、女性がキレイになるにはまず、何を始めたらいいですか」
「え?し、シエン?急に何を…」父が急に焦り出した。
「まあ、シエンちゃん。美容に目覚めたのね!
いいわ、母様と一緒にキレイになるレッスンしましょう!
でもね、シエンちゃん」
急に慌てふためく父を余所に、母はスッと優しく私の顔を両手で包み込む。
「シエンちゃんのお顔、とってもキレイよ。整った顔立ちで可愛い2本の角。
グリーンとブルーのオッドアイ!
髪はライトブルーのストレートヘアでミディアムショート。
シエンちゃんがキレイになったら、周りの男の子たちが放っておかないわね♪」
「サ、サーシャ!シエンの美容レッスンはまだ早いんじゃ、ないかな~?」
今度は父様の顔色が悪くなってしまった。
娘のこととなると、すぐこれだ。
「いいえ。女として生まれたからには、美しくなることを恐れてはいけないのです。パパだって、可愛い私が大好きでしょ?」
「ま、まあ、サーシャの可愛さは僕も好きだけどね…ってそうじゃなk「パパの言うことは気にしなくて大丈夫よ、シエン。魔術学園入学まであと少しですけど、エルフ族直伝の美容法を、あなたに授けるわ!」
焦る父を余所に、娘に美容を伝授するためメラメラ燃える母に、思わず「本当にこの人は可愛い」と笑みがこぼれてしまった。
先ほどの悪い夢が嘘のようだ。
きっと「学校に通う」という事実から、昔の嫌な記憶が呼び起こされてしまったのだろう。
それと私の顔や姿形について、母は「キレイ」と褒めてくれるが、うちの両親は娘たちに対して盲目的だ。
他の魔族から見れば、特にオッドアイなど気味悪がられることもあるかもしれない。
女として他の魔族の前にでても恥ずかしくないよう、必要最低限の美容は身に付けておこう。
でも、この人たちが私の両親で、本当に良かった。
心配性だが優しく穏やかな父と、明るく天真爛漫な母。
いつかこの人たちに必ず恩を返したい。
魔術学園を卒業した後は、お姉さまと同じように薬師の道を歩もう。
私は決意をさらに固くした。
―プリムラ魔術学園の入学式まで、あと2カ月―
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
次回からいよいよ、魔術学園でのスクールライフが始まります!
果たしてシエンは、どんなクラスメイトたちと出会えるのか…お楽しみに♪




