第3章 ドキドキ入学試験と鬼教師
今回はいよいよ入学試験!
シエンは無事、合格できるのか…?
※タイトル・内容を一部修正しました。 2026.10.1
※『カクヨム』にも連載しています。https://kakuyomu.jp/my/works/11054822663831803486
試験勉強と魔術の特訓を続け、2年後の11月11日。
この日はプリムラ魔術学園の入学試験日だ。
魔術学園の建物は、先の尖った屋根が幾つも連なり、荘厳にそびえ立つお城のような建物である。
建物の中央部分には、金色に輝く大きな鐘がついているのが見えた。
今日は試験の付き添いに、父と母が来てくれている。
「さて、僕たちが見送れるのはここまでだ。シエン。ドンと一発、かましておいで」
「シエンちゃん、緊張しすぎず、リラックスよ♪」
「…はい!では、行ってきます」
二人の言葉に勇気をもらい、最高の笑みを浮かべた私は、両親にクルっと背を向け、一歩また一歩と試験会場へと向かう。
「本当、大きくなったわね。シエンもスズナも、私たちの自慢の娘だわ。それに、あの子ならきっと大丈夫よ。ね、レイ?」
「シエン…。ぐずっ。父さん、お前がここで学園生活を送っても、ちゃんと見守ってるからな…」
「もう、パパったら。まだ気が早いですよ。それと入学試験会場の入口前で泣かないでくださいな。他の保護者がびっくりしていますよ」
サーシャがレイモンドの背をさすりながら、保護者控室へと移動を促した。
試験は筆記試験が70分。
休憩を10分はさんで、その後120分の実技試験というスケジュールである。
本年度の受験者数は約550名。そのうち入学できるのは110名。
倍率は5倍の狭き門である。
だが実際、筆記は思ったほど難しくなかった。
…あくまで私の主観的感想だ。
200点満点の試験で、問題数は全100問。
最後の5問は引っ掛け問題のようだったが、引っ掛かることなく問題を解くことができた。
だが、問題は次の実技試験である。
実技試験は11ある試験部屋で行われ、各々自分の得意魔法と特殊スキルを2分間で表現することとなっている。
私たち受験生は筆記試験会場で待機し、5名ずつ名前を呼ばれ、実技試験会場へ移動させられる。
試験を受けていて感じたが、トップレベルの魔術学園と言われるだけあって、
椅子も机も装飾が美しく、高級な素材が使用されているようだ。
さて、実技の攻略方法について、少し記憶を思い出そう。
今から2年前、私は父様と一緒に、実技試験のアプローチについて考えていた。
得意魔法はいいとして、「情報検索」を試験監督の先生方にどう披露すれば良いものか、父様と思いっきり悩んでいたのだ。
悩んだ結果「試験官の先生の素性を分析しちゃえ!」という結論に至ったのだが、さすがにそれは倫理観に欠けるのでは?と父様に質問してみた。
「じゃあ、シエンはどんな風にリ・サーチを試験官の先生に披露したい?」
「え、えっと…先生方の好きな食べ物とか、趣味とか…あまり込み入った個人情報ではないもので…」
「…シエン。他人の自己紹介をしてもしょうがないよ。実技では自分をきちんと自己紹介しなきゃ。第一印象は少し派手目にしないとね」
という話の流れになり、結局私の特殊スキルに関する実技は、「リ・サーチを使って、試験官の先生が3時間前に行っていたことを分析し、解説する」ことになった。
リ・サーチの能力のコントロールは問題ないんだけど…。
もしも意地悪な試験官の先生だったら、私が分析したことを全否定するかもしれない…。
あまり先生方にとって都合の悪い内容は言わないでおこう。
「受検番号111番。中へどうぞ」
私の受検番号が呼ばれ、「失礼します」と緊張した面持ちで中へ入る。
緊張で胸が張り裂けそう…落ち着いて、こういう時は深呼吸だ。
「受験番号と名前の照合が取れました。では実技を始めてください」
面接官の先生に促され、私は自己紹介を始めた。
「はい!受験番号111番。シエン・フロックスと申します。私は実技試験で「植物魔法」と特殊スキル「リ・サーチ」を披露いたします」
目の前には二人の試験官がいる。
おそらく学園の先生だろう。
グレーの長髪をゆるくひとつ結びにした厳格そうな無精ひげの鬼人の男性と、
グリーンの短髪に穏やかそうな雰囲気の鬼人の男性が座っている。
目の前の穏やかそうな先生に促され、私は身を構える姿勢をとった。
まずは呼吸を整える。ゆっくり息を吐き、吸う。
そして手を構え、試験官の先生の目の前に竹の城壁を創り出した。
試験官の先生の顔が見えるよう、中央部分は低く、部屋の端に行けば行くほど高く成長させる。
出来栄えは中々良さそうだ。
さらに、竹から蔦をにょきにょき出し、季節外れの朝顔を咲かせ、
蕾から花を開花させる。最後の仕上げに、朝顔からラベンターの香りを漂わせる。
「では、次に私の特殊スキル『リ・サーチ』を披露します。リ・サーチはある一定の範囲内において、物質の情報を分析し解析する能力です。まずは現在の状況について、簡単に分析させていただきます。湿度52%、気温24度、気圧1010Pha、空気中に微量の塵とラベンダーの香りを感知…そして」
私は二人いる試験官のうちの一人をターゲットにした。
無精ひげを生やしている先生にしよう。
彼にリ・サーチを試みた。
「そちらの鬼人の先生は…体温36.1度、心拍数85。二日酔いが酷く、市販の酔い止め薬を服用されておられますね。今朝は朝食をお召し上がりになっていないご様子。なるほど…昨晩は行きつけのバーで飲み明かし、朝帰りをされていらっしゃ…」
「シエン・フロックス!」
怒号に近い大声で無精ひげの先生に名前を呼ばれ、私はびくっと肩を震わし、口を閉じた。
目の前を見ると、鬼気迫る形相で無精ひげの先生がこちらを睨んでいる。
しまった…!つい調子に乗って、余計な情報をリ・サーチしてしまった…ど、ど、どうしよう!
だが、もう一人の試験官の先生は、顔をそむけて笑いを堪えるような仕草をしている。
「シエンさん。なかなか面白い能力を持っているね。この学園でさらに磨きをかければ、最高の逸材になれるかもね」
「も、もったいないお言葉でございます」
私は顔を真っ青にしてオロオロしながら、なんとか声を振り絞った。
すると、無精ひげの先生がゆっくり口を開く。
「シエン・フロックス。貴様、魔術自体は悪くない…が、試験中に俺に恥をかかせたことは許さん。その性根を徹底的に叩き直してやるから覚悟しろ!」
「も、申し訳ございませんでした!」
「試験時間の2分はとうに過ぎている。さっさと退出しろ!」
失礼しました!と挨拶をして、足早に試験部屋を後にした。
「お、終わった…もうダメだ…」
私は魂が抜けたように試験会場を後にした。
そして試験を終え父と母と合流し、一緒に家へ帰ったのだった。
家から帰って実技の試験部屋での出来事を、一部始終父と母に伝えた。
なぜか父と母はウキウキした様子で私の話を聞いている。
「という具合に終わってしまいました…。もう、不合格確定ですね。別の魔術学園の入学試験を受けたほうが…」
私が萎れていると、父様がすかさずフォローしてくれた。
「シエン。君はその先生に言われたんだろう?『その性根を徹底的に叩き直してやる!』って。学園として受け入れる気がなければ、そんなことを受験者に言ったりしないよ」
「さすがだわ、シエンちゃん!飲んだくれの先生の裏事情を暴露しちゃうなんて、超ナイスよ!」
あ、そうだった。この人たちは『うちの娘たちLOVE!』な人たちだった。
本当に親バカなんだから…。
たぶんこの後、不合格通知が届いて、近所の噂話になるんだろうな…。
せっかく、ここまで頑張ったのに…いや、これで終わりじゃない。
まだ他にも魔術学園はたくさんあるし、今の時期でも受験が間に合う学校はある。
一応、不合格だった場合のプランBも父様と考えていたし、次に向けてもう少し頑張ろう。
私は気を取りなおして、また受験勉強に勤しむのだった。
それから約2週間後。
プリムラ魔術学園から封書が届いた。
開けたいような、開けたくないような…。
複雑な気持ちを抱えていたが、母がワクワクしながら私を見つめている。
「大丈夫!シエンちゃんなら、絶対合格よ♪それに、たとえ不合格だったとしても、父様と母様はあなたを責めたりしないわ」
ドクドクと心臓の音が聴こえる。
ペーパーナイフで封を切り、封書の内容を読む。
「シエン・フロックス殿。貴殿はこの度のプリムラ魔術学園入学試験において優秀な成績を修められた。
よってSクラスへの入学を許可する。魔術学園代表 フォックス・ネメシス」
通知書には大きな文字で「合格通知書」と書いてある。
受かったんだ…夢じゃない。実技も100点以上で合格できたんだ!
本当に奇跡としか言いようがないけど…素直に嬉しい!
「すごいじゃない!おめでとう、シエンちゃん!Sクラスですって!今日は奮発してご馳走作らなきゃ♡」
いつの間にか私は、合格通知書を片手に持ちながら母にハグされ、ボロボロと泣いていた。
「よがった…落ちたと、思ってたがら…受かって…本当に…良がったぁ…」
合格通知が届いて安堵したのか、私の目から大粒の涙が溢れ出てしまう。
その日の夕飯は母が腕によりをかけてご馳走を作ってくれた。
仕事から帰って来た父も、大喜びで泣いていた。
泣いている父を見て「シエンちゃんが嬉し泣きするのは、きっとパパに似たのね」
と母は優しく呟くのだった。
―後日、プリムラ魔術学園・職員室―
「今年もなかなか良い人材が集まりそうですね」
シエンを試験監督していた先生2人が話しあっている。
「特にこの、シエン・フロックスという子は、筆記試験で200点満点を取っていますね。あの難関な筆記で満点を取った子が現れるのは、何十年ぶりでしょう。この逸材を逃すのは実に惜しい。そう思いませんか?デューイ先生」
デューイと呼ばれたのは無精ひげの鬼人の先生だった。
「…仰ることは分かります。ですが、実技でアイツは…」
「デューイ先生、お酒のお付き合いもほどほどにしてくださいね。試験日前に不摂生をするのは良くないです。今月の給与は減給させていただきますよ」
デューイは目の前に居る上司に逆らえなく、「すみませんでした…」と謝る。
「さて、これから彼らがどんな道を歩むのか。とても楽しみです」
穏やかそうな鬼人の先生は、にこりと微笑むのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
今回登場するプリムラ魔術学園の教師、デューイ先生についてお伝えしたいことがあります。
アメリカの哲学者、教育学者でJohn Deweyという方がいらっしゃるのですが、
本作品とは関連性がございませんので、ご了承ください。
ただ、デューイ先生を表現するにあたり
「厳しくも暖かい目で生徒を見守る」ような教師像を意識しております。
ちなみに、デューイ先生がバーでお酒を飲んでしまったのは、ストレス解消のためだそうです。
お酒の付き合いは、ほどほどが一番ですね…(^▽^)/




