第2章 亜人族の世界と新たなミッション
今回から転生世界のストーリーが始まります。
※シエンの手記の中に、大陸の歴史や地理の話題が出てきますが、
すっ飛ばしてスクロールしていただいてOKです。
(思いのほか長文になってしまいましたが、
飛ばして読んでも本編を楽しむことができます)
※タイトル更新と一部修正・加筆を行いました。 2026.10.12
※『カクヨム』にも連載しています。https://kakuyomu.jp/my/works/11054822663831803486
―それから時は経ち―
私はなんとか、3歳でこの世界の言語を習得することができた。
おまけに父様の書斎にある本を読み漁り勉強し、同時に体を鍛えることも続けた。
前世では周りに流されるまま生きてきたため、
自分のために努力することなんて、ほとんどやったことがなかった。
私は心に決めたのだ。
前世で出来なかったことを、この世界で嫌というほど徹底的に行おうと。
せっかくだから、私の身の周りのことと、
この世界のことについて、前世の言語で記録に残しておこう。
これは私だけのマル秘ノートだ。
私は自室の机の上にノートを広げ、おもむろに筆を走らせた。
4月4日。天気は晴れ。
私はどうやら、薬師の家系で辺境伯の家に生まれたらしい。
そして私は「シエン・フロックス」と名付けられた。まずは私の家族について書き記そう。
私の父、レイモンド・フロックスは優しく穏やかな鬼人だ。
鬼人の中でこういった穏やかな性格の種族は珍しいらしい。
私の生まれたフロックス家は代々薬師として地域に貢献しているそうだ。
普段は優しい父なのだが、娘のこととなると残念な父になる。
以前、近所の男の子と一緒に家の中でおままごとをしていたことがある。
「俺、結婚するならシエンちゃんみたいな女の子がいい!」
突然、その男の子が冗談か本気か分からないことを言った。
「お父さんは許しません!」
その様子をたまたま目撃してしまった父は鬼の形相で男の子を叱ってしまい、挙句の果てに男の子を泣かせてしまった。
結局、父と母が男の子の家の両親に謝りに行き、事なきを得たと、後で母から聞いたことがある。
次に母について書き記す。私の母はサーシャ・フロックスといって、実は母はエルフ族なのだ。
エルフ族は美男美女が多いことでも有名なのだと、家の文献で読んだことはあった。
どちらかと言うと、母は美しいというより、可愛らしいエルフ族だと思う。
母は私が幼少の頃から悪いことをすると「め!」と叱ってくる。
ある日、父が夜中にこっそりスナック菓子をつまもうとしているのを、母が発見した。
「レイ。夜中にお菓子はダメって言ってるでしょ。め!ですよ!」
と叱っているのを私は姉とこっそり見たことがある。
そしてなぜか叱られたのに、父のレイモンドは嬉しそうだったのも覚えている。
姉曰く、「あれでうちの親父、コロっと惚れたんだろうよ」とのことだ。
せっかくなので姉についても書いていく。私が普段「お姉さま」と呼んでいる姉はスズナ・フロックスという名だ。
私より5歳年上で、私とよく遊んだり一緒に合気道の稽古に付き合ってくれたりする。
口調はややキツイところもあるが、根は優しいお方だ。
私は口のキツさもお姉さまの優しさだと思っている。
お姉さまのことを書き記すために、少し習い事の合気道について触れておく。
元々、赤ん坊の頃から自分の人生設計について思案していた際、
頭脳とともに体力も鍛えたいと考えていた。
「健康のためにも体を鍛える習い事がしたい」と父に相談したところ、「体を鍛える稽古をするなら、合気道を始めてごらん」と勧められた。
以来、近所の稽古道場に通わせてもらうこととなった。
後から知ったが、私の姉も6歳の頃に合気道の道場へ通い始めたのだという。
母から聞いた話では「あなたが生まれてから『妹を守れるように強くなりたい』って言いだしてね。それがきっかけで合気道を始めたのよ」とのことだった。
いつもこの話しを思い出すと、目頭がジーンと熱くなる。
本当にお姉さまは優しい方だ。
…思い出すのも煩わしいが、前世の私の家族は冷たい関係だった。
仕事一筋で家庭を顧みない父。
娘が自分の思い通りの結果を出せないと罵倒する母。
結局私は実家に居るのが嫌で、大学卒業後は一人暮らしを始めた。
私が死んだ今、あの人たちはどうしているだろう。
…まあ、考えても仕方のないことだ。
この世界に生まれたからには、悔いのないように生きていきたい。
家族のことを書き記した次は、自分のことを記すとしよう。私は幼少の頃から父の書斎に忍び込み、書物を読み漁っていた。
そのおかげで、自分の魔力を最大限に引き出すことに成功した。
「魔力の源は想像力」という事実を書物から知り、色んな魔力の使い方をシュミレーションしてみたのだ。
呼吸はゆっくり腹式呼吸を行い、精神を研ぎ澄ます。これにより、自分の魔力の源を感じ取ることができると書物に書いてあった。
知識を得て実行すれば、それが知恵となる。
魔力の使い方をコントロールしている間に分かったことだか、私は植物を扱う魔法が得意のようだ。
特訓の甲斐あって、色んな種類の草花を操り、様々な場所から植物を生み出せるようになった。
さらに、書物を読み進めるうちに分かったことだが、この世界の魔族は皆等しく先天的に「特殊スキル」というものを所持しているらしい。
特殊スキルを自分で扱えるようになる頃合いは、5歳~12歳と幅が広い。
そして、特殊スキルとは、まさに天からの授かりもので、家系や遺伝子には由来しない唯一無二のスキルなのだとか。
私の特殊スキルってなんだろう?
そう考えた瞬間、私の頭の中で、空間を分析的にレーダーで映すようなイメージが流れてきた。
…これが、特殊スキル!
どうやら私は、状況を把握し分析し、必要であれば数値や異常状態の確認も行える特殊スキルを身に付けたようだ。
これは、使い方次第で大きな武器となりえるかもしれない。
私は自分の能力に「情報検索」と名前を付けた。
ちなみに特殊スキルの発動は、私がちょうど5歳の頃に起きた出来事である。
そうそう、ついでにこの異世界についても書き記しておこう。
これも家の文献を読んだ内容になるが、この世界は亜人という魔族が住む世界だそうだ。
魔族の歴史は長く、現在に至るまでに他種族同士での争いが絶えなかったそうだ。
そして、争っても何も生まれないという事実にようやく気付き始めた魔族たちは、
大陸を五つに分けてそれぞれ有力貴族たちが、領地を統治するという体制を整え始めた。
それから約500年間、統治体制が保たれており、戦争を一度もしていないというのだから驚きである。
ちなみに五大貴族とは、ダイアンサス家・ネメシス家・サンダーソニア家・スカビオサ家・セントポーリア家の公爵家である。
…そういえば、今日は父が「少し話したいことがあるから、あとで書斎においで」と言っていた。
そろそろ時間のようだ。
私はマル秘ノートをパタンと閉じて、鍵付きの机の引き出しにしまいこんだ。
フロックス家の邸宅の一階へ降り、父の書斎の扉をノックする。
「入っていいよ」
父の声が聞こえたので、私はドアを開けた。
「失礼します。父様。お話を聞きに伺いました」
「よく来たね。さあ、この椅子にかけて。話はすぐに終わるから大丈夫」
私は父に勧められて椅子に腰をかける。
改まって話とはなんだろうか。
ひょっとして、この間書斎の禁書を無断で読んだことが、バレてしまったのだろうか。
「シエンは今年で何歳になるかな?」
「私は…今年で12になります」
私は基本、家の中でも敬語で両親と話しをする。
貴族社会ではよくある光景だ。
「そうだね。そろそろ頃合いだね。シエン、君はこれから15歳になるにあたって、魔術学園の入学試験を受ける準備をしよう」
よかった。禁書を読んだことはバレてないみたい。
…ん?待てよ、魔術学園?学校生活を送るの?この私が?
「学校に、行ってもよいのですか…?」
少し弱気にになりながら、私は父様に話しかけた。
「もちろん。魔族は皆、魔術を勉強して自分の能力を鍛える義務がある。魔術学園の入学条件は15歳以上だから、今から試験勉強を始めても十分すぎるくらいだよ」
魔術の勉強ができるのは嬉しいけど、学校生活かぁ…
社畜OLの私にはちょっとキツイな。
「あまり、気は進みませんが…では、これから魔術学園の入学試験に向けて、試験勉強に専念します。…合気道の稽古はしばらく休んだ方がよろしいでしょうか」
試験勉強をするとなると、習い事はしばらくお休みしたほうがいいだろうな。
師範には『お前は中々見込みがある』って言われていたから、ちょっと残念だけど。
「分かってくれてありがとう。合気道は入学試験まで残り1年を切ったら、一旦お休みしよう。師範には僕から説明しておくから、心配しないで大丈夫」
「ありがとうございます。ちなみに父様、魔術学園の入学試験となると、入学試験に必要な資料などを用意しないといけませんよね。…どこを受けたらいいでしょう?」
あいにく魔術学園に通うことになるとは想定外だった。領地内の学園も有名な学園しか知らない。
「うん。それなんだけどね…。せっかくだし『プリムラ魔術学園』を受けてみないかい?シエンの実力なら問題ないと思うんだよね」
プリムラ魔術学園と聞いて私は度肝を抜かれた。
実は五大貴族の領地内にはそれぞれ、最高峰と呼ばれる魔術学園が存在する。
プリムラ魔術学園はネメシス家がスポンサーの、領地内最高峰の学園だ。
「えぇー?!プ、プリムラ魔術学園ですか?あそこは入学試験も超難関で…」
「シエン。私はずっと、君をそばで見ていたから分かる。君はもっと上を目指しなさい」
え、なにこの『君はまず日本一を目指しなさい』みたいなノリは。
でも、高みを目指すのも悪くないかも…いや、待てよ。
もし、入学試験に落ちたら?滑り止めってこの世界では受けれるのかな?
「上を目指すことは、私も同意します。ただ、プリムラ魔術学園となると、相当試験勉強を積まないと受からないでしょう」
「おや?珍しく弱気だね。それに、スズナもプリムラ魔術学園に通っているんだよ。君のお姉さまと同じ学園で、学んでみたいと思わないかい?」
「それは、お姉さまの実力があってこそ、でしょう。私は勉学に関しては得意ですが、魔術に関しては、まだ半人前ですし…」
「そんなに謙遜しなくても大丈夫だよ。
それに入学試験は筆記と実技があって、両方とも200満点中100点以上を取得すれば入学可能だから。
まあ、100点満点で換算すると、その内の50点以上を合格とするくらいだから、試験内容は最高峰と言われるくらい難しいと思う。
だけど、私の可愛い娘たちは、これくらいのことで尻込みするような子たちではない、と思っているよ」
そこまで言われてしまっては、受けるしかないじゃないですか、父様。
けれど、領地最高峰と言われる魔術学園の入学試験を受けると聞いて、プレッシャーもあったが、同様に得体のしれない高揚感を感じた。
「…父様のお墨付きとあらば、恐れることはありませんね。これからの数年間、プリムラ魔術学園入学のため、尽力をつくします」
「ふふ。シエンならそう言うと思ったよ。でもあまり試験勉強で根をつめないようにね。
休憩と勉学はバランスが大切だよ。実技の魔術については、僕がサポートするから安心して」
父との話し合いが終わり、私は自分の部屋へと戻った。
今日は休日で、父も母も家に居る。
ちなみに姉は現在、プリムラ魔術学園の近所で、アパート暮らしをしながら学園に通っているそうだ。
時折手紙が届くので、母と一緒に内容を読んでいる。
ちらりと厨房のほうへ目をやると、母は仕事をひと段落終えて、メイド達と一緒にクッキーの生地をこねているようだ。
あとで手伝いに行こう。
自室に戻り、改めて先ほど父と話していた内容を反芻する。
なんだか父親の思惑にまんまと嵌ってしまったような気もするが、高みを目指すのも悪くない。
しかし、試験勉強なんていつぶりだろう。
ふと前世の記憶を辿ったが、テスト前日に一夜漬けをしていた自分を思い出した。
なんとも稚拙なことをしていたな、と我ながらあきれ、苦笑いがこぼれた。
おそらくここが私の人生の分岐点だろう。でも、やれるだけのことはやりたい。
魔術も父が面倒をみてくれるという話だし、余計な心配はいらないだろう。
それから私は12歳から14歳の約2年間、
プリムラ魔術学園入学に向けて、着々と準備を進めるのだった。
―目指せ、プリムラ魔術学園への入学!
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
次回はいよいよ、鬼教師が出てきます。あ、間違えた。
魔術学園の入学試験編に突入です!




