第35章 戦う少女と闇属性
ロックス、ジャイロ、クランベリー、ガイルはそれぞれ
激戦を通して反社会勢力との戦いに勝利を収める。
一方、シラカバと対峙するデューイとシエンだが…?
―分館3階・図書室―
「デューイ先生、今治療しますから!落ち着いて息をしてください」
私(=デューイ・トリトニア)は不覚にもシラカバとの戦闘で奴の攻撃を喰らってしまい、腹から血を流してしまった。
シラカバと対戦したことで、図書室の書架の本がバラバラ落ちてしまい、いくつかの書架も破損させてしまっている。後で請求書を見るのが怖い。
「フロックス…私はいい。お前だけでも早く、逃げなさい…」
「嫌です!先生は大切な人を見捨てて逃げるようなことはするなと、
私たちに教えてくださいました。私はここで逃げたくありません!」
フロックスの回復魔法は格段に上達している。
先ほど私はシラカバから致命傷を与えらえれたが、10秒もしないうちに出血が止まっている。
「羨ましいなあ。俺も、戦いで受けた傷を無償で治してくれるような、
可愛い女の子に出会いたかったなあ。デューイ先生は生徒に恵まれているねぇ。
俺は結局、部下には恵まれなかったようだ」
私はシラカバの能力を見誤っていたようだ。学生時代よりも、こいつはさらに強くなっている。
そして、もともと傲慢で弱い奴を見下すのが趣味のようなクズだったが、
強さとともに人格のクズさ加減も増している気がする。
「…部下に恵まれていないだと?俺には有能な二人の男がお前の傍にいたように見えたが?」
「その二人にうちの組織のシンボルマークを肩に刺青させて、行動を監視してたんだが…。
お宅の生徒さんにやられちまったみたいでさ…ホント、使えねぇな。
まあいいや。俺は、お前を始末できて、この学園と大陸ごと爆破できちまえば、言うことねぇからな」
私はシラカバの発言に驚きを隠せないでいた。
「学園と大陸を爆破させる…?本気で言っているのか」
「おおっと、つい口が滑っちまったか!まあいい。君らには特別に教えてやるよ。
実はこの分館の最上階にある大きな鐘に、時限爆弾を設置していてな。
俺の闇属性魔法特性の『魔族アンデット化成分』がたっぷり入った爆弾を設置してある。
異常事態で学園の入構に規制をかけてくれたお陰で、爆弾の設置もしやすかったぜ?
おお、爆破まであと30分ってところかな~」
「そ、そんな…それじゃあ私たち、誰も助からないの…?」
フロックスが絶望的な顔をしてシラカバを見ている。
「あれあれ~?そんな顔しなくても、お嬢ちゃんは可愛いから、
俺の軍門に下るって承諾してくれたら、いくらでも助けてあげるよ~」
シラカバが下品な笑みを浮かべながら、フロックスに甘言で揺さぶりをかける。
「フロックス!こいつの言葉に耳を貸すな!全部まやかしだ!」
私はフロックスを正気に戻せるよう、なんとか声をかける。
「デューイさぁ…ちょっと黙っててくれないかなあ。
さっきからうるさいんだよ。俺はこの子とお喋りしてんの」
そう言うとシラカバは私の体を闇魔術で掴み上げ、閲覧席の奥へと投げ飛ばした。
「がは…!」
「デューイ先生!」
フロックスは私を追うため駆け寄ろうとするが、シラカバがその先を阻む。
「ダメダメ~、悪いけどここは通さないよ~?
どーしても通りたかったら、俺の言うことを聞いてもらわないとなあ」
シラカバの魔の手がフロックスに伸びている。
これ以上…こいつの好きにさせるわけにはいかない‼
だが、シラカバから受けた攻撃のダメージで体が動かない。
「や、やめてください!近寄らないで…」
「イシシ。怯えてる顔も可愛いね~シエンちゃん。君、学校でもモテるでしょ?
ボーイフレンド何人いるの?おじさんにも君の事、色々教えてくれよ~」
シラカバの卑下た不愉快な声が聞こえてくる。
「シ…シラカバさん、その…キモイので近づかないでください‼」
フロックスが大声でシラカバを拒絶した。
「え…年頃の可愛い女の子に…キモイって言われた…」
シラカバは激昂するかと思いきや、今の発言にかなりショックを受けているようだ。
私はフロックスを手招きして、こちらへ来るよう指示する。
フロックスの機転で、なんとかシラカバから彼女を離すことに成功した。
(フロックス。これはあくまで私の憶測だが、奴の闇属性は、お前の木属性と相性がいいかもしれん。
当たって砕けるつもりで、奴に攻撃してみろ)
私はフロックスに小声で、教師として出来る限りのアドバイスをした。
その時、下の階から数名の足音が聞こえてくる。
ガラっと図書室の扉が開いた。
「ここから、さっきシエンちゃんの叫び声が…あれ?」
スパイラキシスを筆頭に、ダイアンサス、ルドベキア、カンパヌラが図書室へ入って来た。
「なんか反社のリーダーのおっさんが、ショック受けてないか?」
ルドベキアが率直な意見を言うが、シラカバの心にまたグサリと棘がささったようである。
「お…おっさん…って。俺、デューイと年齢一緒なんだけど…」
「あ、いたいた!シエンちゃんとデューイ先生、そんなところで何してるの~?かくれんぼ?」
私は先ほど真剣に戦っていたことが馬鹿らしくなるほど、頭が痛くなってきた。
「…貴様ら、気を抜くな!そこのシラカバは私でさえ手こずった最恐の魔術師だ!
お前らごときで敵うと思うな。ただ…」
私は、生徒の前では教師であり続ける必要がある。なにせここは神聖なる学び舎だ。
「シエン・フロックス。せっかくの実践経験だ。
本学園の学びの一環として、そこのシラカバをお前の木魔術で倒してみろ」
フロックスを除く四名の生徒は目を丸くして私を見ている。
「ハッハッハ!教師のお前も戦いに匙を投げたか!
属性一最弱とよばれる木属性の女の子と戦えって?
そんなの最初から勝負はついているじゃないか!どうした、気でも動転したか?」
私はシラカバの言うことなど間に受けず、フロックスを見据える。
「フロックス。お前が今まで特訓してきた、全ての集大成をこいつにぶちかませ。責任は私が取る」
フロックスは覚悟を決めて、しっかりした足取りでシラカバと対峙する。
「し、シエンちゃん…本当に大丈夫かな?」
スパイラキシスは心配そうにフロックスの様子を見守る。
「安心しろ。ここには俺もロックスもいる。
シエンが危なくなったら全力で俺たちがサポートするぞ」
ダイアンサスは危なくなったら彼女を手助けするつもりらしいが、恐らく必要ないだろう。
こいつらは、私が避難誘導する際、アンデッドたちについて『やつらが苦手とするものを伝えていたこと』をすっかり忘れているようだな。
フロックスはシラカバの前に立ちはだかり、パチンと指を鳴らしシラカバの体に蔦を巻き付ける。
「おいおい、お嬢ちゃん。こんな細い蔦でどうしようってんだい?
こんなのすぐに…んん?引きちぎれない…?」
大陸中に広がっているアンデット化は、おそらくシラカバの闇属性で生成されたものだろう。
だが、アンデッドには弱点が一つだけある。『植物』だ。
恐らく私の読みが正しければ、闇属性に唯一対抗できるのは…木属性の魔術!
フロックスはそのまま手を翳し、上空に無数の葉っぱを浮かび上がらせる。
「千葉刃」
フロックスが手を上から下へ降ろす。
それを合図に無数の葉っぱがシラカバの全身を覆う。
鋭利な葉っぱたちは、ザシュッという鋭い音と共に、シラカバの身体に無数の切り傷を作っていく。
切り傷の傷は深く、シラカバの身体は血まみれになってしまった。
シラカバの体を切り刻んだ葉っぱたちは、役目を終えたものからスッと消えていく。
「ぐ…な、なんて威力…たかが植物なのに…なんで…」
フロックスは表情を変えず、指をパチンと鳴らし次の攻撃を仕掛ける。
先ほどよりも太い蔦をシラカバの体に巻き付け、彼の身体を拘束した。
「輪廻転生=彼岸花(リー・インカーネーション=ヒガンバナ)」
太い蔦はシラカバの栄養素を吸収するかのように、どんどん太さを増していく。
そして無数の蕾が咲き始め、蕾から赤い彼岸花が次から次へと咲き誇る。
その様子はまるで赤い蝶々が、シラカバの体を蝕んでいるようであった。
「俺の時と、技名がちょっと違うな…」
ロックスがぼそりと呟くのを聞いたフロックスは、説明を始めた。
「ああ、輪廻転生=彼岸花は、相手の体力・魔力・生命力を奪う、ちょっと危険な技なんだ。
魔闘大会前に編み出したんだけど、フォックス先生に大会では使用禁止って言われてて。
今回試すのにちょうどいいと思って、やってみたんだ。」
フロックスの説明が終わるころには、シラカバの皮膚は縮んで皺くちゃになり、
枯れ果てた小枝のようになっていた。
「あ…あ…(なんで、木属性ごときにこの俺が…)」
真っ赤に咲き乱れる彼岸花に囲まれ、シラカバは言葉も出ない様子である。
「デューイ先生、このヒトどうします?このまま命を絶つこともできますけど」
フロックスがしれっと酷いことを言う。
周りの男子たちは彼女の発言に驚かされているようだ。
「…こいつは私が拘束しておく。お前たちは分館最上階の鐘へ急げ。もう時間がない」
「…分かりました。先生、あまり無理しないでくださいね」
そうして私の生徒たちは図書室を駆け出した。
相変わらず敵に情けをかけない、容赦がないところは父親に似ているのかもな…。
私は、彼女の父レイモンド・フロックスの面影をシエン・フロックスと重ね合わせ、少しだけ微笑むのだった。
私とシラカバとレイモンド…かつてプリムラ魔術学園で競い合った日々が、懐かしいな。
「頼んだぞ…お前たち。諸君ならきっとやり遂げると、私は信じている」
私はぼそりと本音を呟いた。
―爆破まで、あと20分―。




