第34章 ここで決めろ!男子たちの戦い
分館のエリアでそれぞれ熾烈な戦いが始まる。
・食堂…ロックス+ジャイロ VS センダン
・音楽室…ガイル+クランベリー VS サントリナ
・図書室…シエン+デューイ先生 VS シラカバ
勝負の行方はいかに…?
―分館2階東側・食堂―
ロックスとセンダンの戦いを俺はずっと見ていた。
見るだけで、ロックスの戦いには手を出さない。それがロックスとの約束だからだ。
だが、これ以上傍観者であり続けるにはさすがに無理がある。
「ぐっ…手を…放せ…」
ロックスは打ち身や打撲で傷だらけになり、センダンに首を掴まれ体ごと持ちあげられている。
「なかなか、いい拳だった。お前の特殊スキルも面白い。
ここまで打撃を喰らったのは、いつぶりだろう」
センダンにも殴り傷はついているが、まだまだ余力が残っているようだ。
これ以上は、もう見ていられない。
気づけば俺(=ジャイロ・カンパヌラ)は、ロックスとセンダンの間に割って入っていた。
「一旦、ここは俺に預けてもらおうか」
センダンの腕を掴みながら、俺は戦いの交代をロックスに合図した。
「ジャイロ…悪いな。あと、頼んだ…」
ロックスは戦いを預けることに安堵しているようである。
よく頑張った、ロックス。後は任せろ。
だが、邪魔をされたのが気に入らないのか、センダンは怒り狂いはじめた。
「邪魔をするな!こいつとの戦いはまだ、終わっていない!」
センダンが反対の拳で俺に殴り掛かろうとしてきたので、俺は少量の電流を彼の腕に流し込んだ。
「ぐあ…!な、なんだ?今、何をした!」
センダンがロックスから手を離し、自分の腕を庇うように俺から距離を取る。
「俺の特殊スキルだ。おれは電流…所謂『雷』を操ることができるスキルを持っている。
実は雷の出力調整に時間がかかってしまって、魔闘大会では応用できなかったんだ」
俺の後方に下がったロックスが「すげー」と言いながら俺を見ている。
「特殊スキル…俺にはないもの、お前持っているな。…許せない、認めない」
何が彼の逆鱗に触れたのか。
先ほどからセンダンは怒りを抑えられないようだ。
「誰がお前の得意分野で戦うと言った?
俺は戦いにおいて、ロックスほど優しくないから、気をつけろよ」
軽くセンダンを挑発したあと、俺は彼の足元の地盤を緩める。
「岩動力」
自分たちの足場を上部へ引き上げ、センダンの足場を低く構築する。
そして俺は周りに岩の城壁を造り上げた。
「この…爬虫類野郎が!卑怯者!降りてこい!意気地なし!」
センダンはどうやら魔術を使って戦われることが、よほど癪に障るらしい。
「な…あいつ。ジャイロに対して、なんて侮辱を…」
ロックスの言葉に少しだけ俺は救われた。
彼はヒトを見た目で判断するような奴ではないから安心できる。
*****
俺の種族はリザードマンという種族だが、見た目が全身鱗状態で、トカゲのような外見をしている。
1000年前の古い歴史資料には、リザードマンに対する蔑称として「爬虫類」という言葉が使用されていたらしい。
幼少期の俺は、近所の子どもたちから見た目を気味悪がられ「爬虫類野郎!」と罵られる日々を過ごしてきた。
だが、そんな俺を両親は優しく温かく見守ってくれてた。
そして「例え他者から心無い言葉を投げかけられても、絶対に自分から手を出してはダメよ。
あなたが自分の拳を出すときは、自分の守りたいものを守るために使いなさい」といつも母から言い聞かされていた。
俺は俺を罵った子どもたちのことを許すことはないだろう。
だが、報復をしようとも思わない。
俺は…俺の本当の望みは、大切な仲間たちと笑って過ごせる日々を送ることだ。
そのためなら、この拳を使うことを俺は厭わない。
「これは、お前を屠るための魔術だ。侮辱されたからお前を屠るのではない。
大切な仲間を守るために、俺はお前に鉄槌を下す。…雷撃槍‼」
センダンの頭上から大きな稲光が発生する。
雷の光の速度は速い。避ける間もなくセンダンの頭上目がけて電流がビリビリと流れる。
彼の体は白い稲光で発光し、まるで骨が透けて見えるかのようだ。
「か、体が痺れ…あああああ!」
センダンに雷撃が落ち、彼の体は丸焦げになった。
モヒカン頭からプスプスと煙が出ている。彼はあまりの衝撃に膝から崩れ落ちた。
地盤を岩に変換したお陰で、雷撃が他の階に流出することなく、戦闘を終えることができたようである。
「や、やったか…?」
ロックスがジャイロに向き直る。
「まだ生きているだろうが、油断は禁物だ。こいつを縛り上げておこう。
縄は俺が持っているのを使ってくれ」
ジャイロは腰に下げているポシェットから長いロープを取り出した。
「お前、普段そんなの持ってたっけ?」
ロックスが不思議そうに呟きながら、おれのポシェットを指差した。
「ああ、これか。異常事態だからサバイバル道具を常備したんだ。
ポシェットはシエンの様子を参考にした」
「ああ。そういうことか。…ジャイロもそうだけど、シエンもなかなか便利なスキル持ってるよなー。
俺の特殊スキルなんか『腕力と脚力が10倍になる』ってだけのスキルだし。
使い道が体術だけに絞られるんだよな」
「ロックスの場合、もう少し魔術を使いこなして戦えたら、戦いの幅が広がると思うぞ」
ロックスが体術を得意とするのは知っているが、
魔術を使って戦っているところをあまり見たことがない。
「それなんだけど…魔術と体術を織り交ぜるってのが俺、どうも難しくて…一度に二つ以上のことをするの、苦手なんだよ」
今度ロックスの魔術特訓に付き合ってみようと、俺は本気で考えるのだった。
―分館2階西側・音楽室―
ガイルには「余計な手を出すな」と言われたけれど、
彼はサントリナの戦いで消耗し、やや劣勢に追い込まれている気がする。
僕(=クランベリー・スパイラキシス)は子どもの頃から魔術が大好きで、今まで色んな魔術を見てきた。
火の魔術・氷の魔術・風の魔術…他にも見たことのない珍しい魔術に会う度、感動と喜びを覚えた。
金属性の魔術も珍しい。手足から刃物や銃器を創り出して攻撃する様子を見ていると、ついうっとりしてしまう。
ガイルの戦い方は無駄がない。合理的で確実に相手を仕留めようとする。けれど、サントリナはガイルの戦い方の二手も三手も先を行く。
ガイルの動きを先読みして行動しているようにも見える。互いに金属性で武器を創生し、戦い合っているけれど、圧倒的にサントリナが押している。
恐らく、ガイルに欠けているのは圧倒的な経験値の差。
きっとサントリナは闇の裏社会で狡猾な輩と戦い慣れているのだろう。
手を出すなって言われたけど、僕はガイルの言うことを聞くなんて、一言もいってないし。
魔族は死んだら終わりだもの。少しでも生き残る方法を考えなきゃ。
百戦錬磨の戦い方をする相手に、最も有効な攻撃方法は―。
僕は薄暗い音楽室内を、火魔術を使って明るくした。
「焔光」
室内を照らすだけでなく、部屋の明かりも無理やり火魔術で付ける。
「…おい、クラン!何勝手に部屋明るくしとんだ。余計なことすんなっつっただろ」
僕に背を向けて戦っていたガイルが、サントリナと戦いながら言葉だけ投げかけてくる。
「おや、お友達も痺れを切らしているんじゃありませんか?
だって、君の攻撃は私に当たらない。
寧ろ、私の攻撃を喰らって、君が摩耗しているじゃありませんか。
そろそろ負けを認めてはどうです?」
ガイルが苦しそうに顔を歪めている。だから二人で挑もうって言ったのに。
サントリナと戦う前に「お前は手出しすんな。俺がやる」なんて言うんだもん。
…そろそろ、いいよね?
サントリナは次の攻撃に移るため、移動しようとした。だが、何故か体が動かない。
「ん…?これは、影魔術?」
僕は魔闘大会でやってみせた影魔術をサントリナに仕掛けた。
だけど、今回の魔術は脚の自由を奪うだけじゃない。
サントリナの影は次第に彼自身にまとわりつき、彼の体をぐるぐる巻きに縛り付ける。
脚だけでなく、腕までも黒い糸のような影がサントリナの体を拘束する。
「ぐ…そちらの僕さんはなかなかやるじゃないですか。
私をここまで足止めできたのは君が初めてかもしれませんね。クランベリー・スパイラキシス」
サントリナはうっかりクランベリーに気を取られてしまったようだ。
戦いにおいて、ガイルは一瞬の隙も逃さない。
サントリナの背後に忍び寄り、とどめの一撃でサントリナの腹をザクッと剣で貫く。
「ぐは…‼」
サントリナの口から血が零れる。
ガイルは返り血を浴びているが、躊躇することなく剣を引き抜き、魔術を解除して剣を収め、
代わりに銃器でサントリナの頭を狙う。
カチャリ。銃のトリガーが外れる音が聴こえる。
「ガイル、もうそこまでだよ。
ここで殺したら、ガイルもこいつらと同じ犯罪者になっちゃう。シエンちゃんが悲しむよ」
僕はガイルを諫めた。彼はもう十分過ぎるくらい、サントリナと戦ってくれた。
これ以上、ガイルの手を汚したくない。
サントリナは倒れ込み、血だまりの中で腹に手を当てながら、息も絶え絶えの状態である。
「そんなに…警戒せずとも、もう私は…長くは持たないでしょう…
少しすれば…シンリー嬢のスキルも…元に…戻ります」
サントリナはゆっくりと言葉を紡ぐ。
ガイルはまだ、サントリナの頭に銃口を突き付けたままだ。
「…サントリナ、最後に一つだけ聞く。お前たちの真の目的はなんだ?」
僕はびっくりして「え?」と思わず本音を声に出してしまった。
「大陸の住民をアンデッド化して、プリムラ魔術学園に宣戦布告して。一体何が目的だ?」
サントリナは口の端で少しだけ笑い、声を絞り出すように答えた。
「君は…勘のいい子…ですね。ヒントは…分館最上階の…鐘です…行けば…分かります」
そう言ってサントリナは気絶してしまった。
ガイルはスッと銃口を収め、音楽室から出て行こうとした。
「ちょっと、ガイル!どこ行くのさー」
僕は慌ててガイルの後を追った。
「ああ?決まってんだろ。この建物の最上階だよ。お前も早くついてこい」
もう本当、人使いが荒いんだから。
でも、どんな相手でも物怖じしないところは、ガイルらしいな。
君のそういう所、嫌いじゃないよ。
僕はガイルの背中を微笑ましく見ながら、彼について行った。




