第33章 戦え!全面戦争の火蓋
闇の勢力がプリムラ魔術学園を襲い、シエンたちを瞬間移動させてしまう。
サントリナの計らいで、移動先で各々敵と対峙することになるが…。
―分館2階東側・食堂―
サントリナが発動した転移魔術で、俺とジャイロは分館1階の食堂へ飛ばされていた。
そこにはモヒカンの男、センダンの姿もあった。
「ここは…分館の食堂?なんでまた、こんなところに…」
俺(=ロックス・ルドベキア)が呟くと、ジャイロが警戒するように周囲を見回す。
「ロックス、今は目の前の敵に集中しよう」
「…ああ、そうだな」
俺とジャイロが身構えると、センダンもこちらを睨んで構えの姿勢を取る。
勝ち目があるかどうかではない。
だが、男には戦わなければ前へ進めない戦い、というものもあるのだ。
「いい面構えだ。…本当はガイルと戦いたかったが、活きのいいのが2人も居る…幸運だ」
センダンはガイルを気に入っているようだが、ウォーターアイランドでの腕相撲の試合を思い出すと、少しだけ焦燥感を感じてしまう。
「なあ、ジャイロ。俺が先にコイツの相手をするから、
もし俺が負けそうになったら、そん時は相手を交代してくれないか?」
ただ二人で相手をするには分が悪い。俺は戦う前にジャイロに交渉を持ちかけた。
「…それは、なにか勝算があるということか」
「上手くできるかどうかは分かんねぇけど、お前ならセンダンとの相性が良さそうな気がしてさ」
ジャイロは少しふう、と溜息をつき「分かった。無茶だと判断したら、すぐに交代するからな」と俺に告げた。
背中を預けることとは少し違うが、俺の言葉を信じてくれたのは正直に嬉しい。
「戦いの打ち合わせは終わったか?…なら、始めるぞ」
センダンは合図をしたかと思うと、瞬時に右ストレートパンチを繰り出す。
俺とジャイロは攻撃を避けたが、一秒でも避けるのが遅れていたら、確実にパンチを喰らっていただろう。
俺は狼男の力を解放して、全身の筋肉を強化させる。
「…やはりお前、狼男だったか。奇遇だな…俺も、お前と同じ種族だ」
そう言うとセンダンはモヒカン頭の横から狼の耳を出し、俺と同じように体を強化させていく。
「な…俺と同じ種族?通常でも怪力なのに、狼男の力を解放したら、一体どれだけ強くなるんだよ!」
俺が驚きを隠せないでいると、センダンはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「…試してみるか?少年」
―分館2階西側・音楽室―
転移魔術で飛ばされた先は、音楽室だった。
どうやら俺(=ガイル・ダイアンサス)は、クランベリーと一緒に飛ばされてしまったようだ。
目の前にはシンリーの特殊スキルを奪ったサントリナが、こちらの様子を窺っている。
「えー、ガイルと一緒かぁ。僕、シエンちゃんと一緒がよかったなぁ」
相変わらずの言い様である。だが、今は呑気に構えている場合ではない。
「それはこっちのセリフだ、ボケが。…目の前に敵が居るんだ。ボサっとすんなよ」
俺はいつでも攻撃ができるように身構える。
「おやおや。私の読み通り。あなた達は連携が取れていませんね」
サントリナは俺たちを挑発しようと目論んでいるようだ。
「せっかくですので、一つ良いことを教えて差し上げましょう。
私が奪ったシンリー・カムロサザの特殊スキルですが、
私を気絶させることができたら、彼女の能力は元へ戻りますよ。
それと、私が吸収できる特殊スキルは1日に1つだけ。
あなた方の特殊スキルについて、今は奪うことができませんので、どうぞご安心ください」
嘘か本当かは分からない。
もしかしたら俺たちをその気にさせるための罠の可能性もある。
「…御託はどうでもいい。クラン、俺の足引っ張ったら、後でぶっ飛ばすからな」
「もうその台詞、聞き飽きたよ。ガイルは穏やかじゃないよねー」
その時、サントリナは腕を構えて銃器を出現させ、俺たちの足元へ発砲した。
俺とクランは火魔術で防いだが、お互い奴の属性に驚きを隠せないでいる。
「そうそう。言い忘れていましたが、実は私、金属性なのです。
実は金属性同士で戦うことが私の夢だったのですよ。
…ああ、なんという幸運なのでしょう!まさに夢が叶ってしまった!」
俺はサントリナの言葉に虫唾が走った。
「なら遠慮なく俺も、金属性魔術で戦ってやるよ」
その言葉の通り、俺は腕から二本の剣を出現させ両手で持ち、サントリナと対峙する。
「援護は任せて~♪ドンパチさせちゃうよー!」
クランベリーもやる気のようだが、暴走しそうなので正直あまり当てにしていない。
―分館3階・図書室―
気がつけば私(=シエン・フロックス)は、図書室へ転移されていた。
どうやらデューイ先生とシラカバという輩も一緒に転移されているようだ。
「フロックス。お前は手を出さなくていい。俺がこいつの相手をするから、お前は防御に徹しろ」
デューイ先生が私に命令を下す。
「ですが、お一人で戦うには分が悪すぎるのでは…」
「シエン・フロックス!!…私はもう、大事な生徒に手を掛けられたくない。
自分の大切なものを守れないで泣きを見るのは、もう終いにしたいのだ」
私はデューイ先生の言葉にびっくりしてしまう。もしかして先生にも辛い過去があるのだろうか。
「おやおやぁ?駄目じゃないかデューイ。
そんなに大声で怒鳴っては、君の可愛い生徒が委縮してしまうだろう。
いいのかい?木属性のお嬢さんの力を借りずとも、俺と対等に戦えると思っているのか?」
シラカバがデューイ先生を挑発している。だが先生は安い挑発になど乗らないヒトだ。
「…お前の相手は私だ。私が今度こそ、貴様とケリをつける」
「いいねえ、お前のそういうところ、嫌いじゃないよ。
…本当、昔からお前は真っ直ぐで潔いよな。俺が魔術学園に入学した頃、金属性と鑑定されてつい浮かれて悪事に手を染めても、お前だけだったよな。
俺に対してきつく叱ってくれたのは。
まあ結局、俺は『闇落ち』して、金属性から闇属性へ転換しちまったけどな」
私はシラカバの言葉に衝撃を受けた。
金属性は悪行を積み重ねると『闇落ち』してしまう…?もしかして、ガイルも?
「何を今更…貴様は叱っても私の話など全く聞いていなかったではないか。
自分の属性に驕り高ぶり、他の生徒を恫喝して金品を巻き上げ、気に入らない生徒が居れば教科書を破り捨てたり、階段から突き落としたり。あれだけ素行が悪ければ、闇属性にもなるし、退学にもなるだろう」
もしかして、デューイ先生とシラカバは昔、同級生だった?
「おいおい、デューイよ。
それ以上俺の恥をさらすなら、お前さんの学生時代の恥ずかしい話も、
そこのお嬢さんに聞いてもらうことになるけど…いいのかい?」
デューイ先生はハッとして私のほうを見る。
「フロックス。今聞いたことは、全て忘れろ!…他言したら罰則を与える」
デューイ先生が眉間に皺を寄せ、青筋を立てながら私に命令する。
私は無言でブンブン縦に顔を振った。
「安心しな。無理に忘れなくとも、二人まとめて仲良くあの世へ送ってやるからよ」
シラカバは手から黒い靄を出現させ、自分の体全体に『闇』を纏いはじめた。
「そんなことはさせない。お前の野望は私が打ち砕く」
―好敵手を得た魔族たちの、緊迫した戦いが始まる―。
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
戦いの緊張感を出したいので、今回はあまり多くは語らないことにいたします。
次回もお楽しみに♪




