第32章 闇より出でし、招かれざる客
世間の異常事態を目の当たりにし、
デューイ先生の手引きで避難することに成功したシエン。
他のクラスメイトたちとも合流するが…?
飛行バスはプリムラ魔術学園の敷地内へ急降下し、私達は順番にバスを降りた。
「例のアンデッドたちは、植物が苦手という研究結果が発表されている。学園内には緑も多い。なるべく庭木や草木の中へ隠れているように」
デューイ先生が私達生徒に指示を出す。
学園内の北側には森林が存在するので、他の生徒たちも木や草むらの陰に身を潜めているようだ。
シンリーと一緒にバスを降りた後、幸いにも私たちは1年Sクラスの級友たちと合流することができた。
「シーちゃん、大丈夫だった?ケガしてない?」
シャーリーが心配そうに私に駆け寄る。彼女は謹慎生活が堪えたのか、大分やつれているように見える。
「うん、私は大丈夫。心配かけてごめんね、みんな」
見れば寮生活のガイルやロックスも居る。
「ったく…魔通信機に着信入れても反応ないから、心配したんだぞ」
ガイルが愚痴をこぼすが、今はその愚痴さえ聞くだけで心が休まる。
「ガイル、連絡くれてありがとう。すぐに反応できなくてごめんね」
寮生活組も避難誘導されているということは、寮内で感染が確認されたのかもしれない。
その時、デューイ先生の緊迫した声が聞こえてきた。
「今から順に体育館の避難所へ誘導する!クラス毎に声をかけるから、呼ばれたクラスから順に―」
ドオン‼
いきなり学園の東側、4年生の教室棟で爆発音が響いた。
「キャー‼」「うわー‼」などの悲鳴が響き渡り、辺り一帯がパニック状態となる。
辺りにいたほとんどの生徒は体育館のほうへ逃げてしまった。
「なんだ?敵襲か?」
ロックスとガイルがいつでも闘えるよう体を構える。
「こ、怖いよぉ…シーちゃん」
シャーリーは涙目で私に寄り添う。
「大丈夫、シャーリー。落ち着いて。こういう時こそ、呼吸を整えて」
私はシャーリーの頭を優しく撫でながら、手のひらから鎮静作用の魔力を流す。
少しだが、シャーリーは落ち着きを取り戻したようだ。顔色が明るくなっている。
だが、安堵する暇など私達には無いようである。
「…!全員、構えろ!誰か来るぞ!」
デューイ先生が私達に号令を出す。各々、いつでも戦闘体勢に入れるよう、腕を構える。
どうやら爆発の煙に紛れて、招かれざる客が入ってきてしまったようだ。
「これはこれは。我々の地上への脱出経路に邪魔な建物を吹き飛ばしたと思ったら、プリムラ魔術学園の優秀なる生徒さんたちと出会えるなんて!実に運がいいねぇ」
柄の悪そうな、いかにもチンピラ風情の男が現れた。侵入者は全部で3名。
そしてロックスとガイルは彼らの中に、見覚えのある人物を発見した。
「あいつ…!ウォーターアイランドの時の…!」
「「モヒカン男‼」」
ロックスとガイルがウォーターアイランドで出会った例の男に向かって、指を差しながら同時に声を重ねた。
「え…?モヒカン男って名前じゃないよね?」
トーマが戸惑うように二人を見る。
「また会ったな…プリムラ魔術学園の雛鳥たちよ…」
モヒカン男―もとい、センダンは二人に再び出会えたことが嬉しいのか、不敵な笑みを浮かべる。
一方、デューイ先生は侵入者の中に見知った顔がいるようで、驚きを隠せずにいる。
「お前…シラカバか?なんでこんなことを…」
柄が悪そうで目つきの鋭い五分刈りの男が、ニヤっと意地悪い笑みを浮かべながら、デューイ先生へ語り掛ける。
「久しいなぁ、デューイ。まさか学園の犬に成り下がっていたとはね。なんでこんなことをするかって?それはこれが俺たちの悲願だからだ!
協定を結んで仲良く500年も争いを拒む現代社会への、革命の狼煙を上げているのさ。ぬるい仲良しごっこなんざ、終わりにしよう」
その時、隣に居た側近がシラカバに話しかける。
「シラカバ様。ここでの戦闘は圧倒的にこちらが不利です。後ほど場所を移します」
シラカバは短く返事をし、そしてこの場を側近に譲った。
「それと、あなた方全員を相手にするには分が悪すぎる。…せっかくですので、我々と取引をしませんか?」
金髪にオールバックの髪型で、眼帯をした優男風の美形の鬼人が、顎に手をあて軽く首を傾げながら、こちらへ語りかけてくる。
「お前みたいな胡散臭い奴の言うことなんか、誰が聞くか!」
シンリーが即座に瞬間移動し、眼帯男の目の前で拳を握る。
「シンリー、待って!むやみに近づいちゃ、ダメ!」
私は制止しようとしたが、シンリーは動いてしまった。
確かシンリーの特殊能力は「瞬間転移=テレポート」。位置情報さえわかれば自在に移動できるって聞いてた。だけど、相手の能力も分からないのに攻撃したら…!
「貴女ならそう行動すると思っていましたよ、シンリー・カムロサザ」
眼帯男は攻撃を仕掛けようとしたシンリーの頭を鷲掴み、彼女から何かを吸い取ろうとしている。
シンリーは手も足も出ない状態だ。
彼女は苦しそうにもがいているが、下手に敵へ攻撃すると余計に事態を悪化させてしまいそうだ。
「申し遅れました。私、サントリナと申します。おや、何故私が貴女の名前を知っているのか不思議でならないご様子で?
…私達は、今日この日のために色々と下調べをして参りました。そして、私は貴女の能力が喉から手が出るほど欲しかった…、手始めに特殊スキルを奪わせていただきます」
サントリナはシンリーの頭を持ち上げ、彼女の体を宙に浮かせている。
シンリーが抵抗して彼の手を引き剥がそうとするが、びくともしない。
「や、やめろ…手を…放せ…」
シンリーはどうやらスキルを奪われてしまったようで、体の自由が利かないようだ。
皆シンリーを救おうとしなかったのではない。
この人たちは危険すぎる、そう本能的に察知してしまうほど、私達は身動きが取れず、ただただ様子を見守ることしかできなかった。
その時、デューイ先生が気配を消してサントリナに近づき、彼の腕を払いのけシンリーを抱きかかえた後、瞬時に後方へ下がった。
「これ以上、私の生徒へ手を出すことは許さん‼…大丈夫か、カムロサザ」
「す、すみません…特殊スキルを…奪われて…力が出ない…」
シンリーが苦しそうに言葉を紡ぐ。
「もういい、何も喋るな。お前の特殊スキルについては、私が何とかする。今は体を休めておけ」
デューイ先生はシンリーを安全な場所へ寝かせ、私達の前に立った。
「お前たち、何をボサっとしている!さっさと逃げろ!」
デューイ先生が号令をかけるが、こんな危険な魔族を3人も相手にするのは、先生一人でも難しいだろう。
「で、ですが…」ジャイロもトーマも身動きが取れないでいる。
その様子をサントリナは興味深く見つめている。
「おやおや?せっかくですから、そちらの学生さんたちとも手合わせさせてくださいよ。まあ最も、デューイ先生に拒否権はございませんので」
パチンとサントリナが指を鳴らすと、その場にいた何人かの生徒とデューイ先生の姿が消えてしまった。
どうやらシンリーの「テレポート」を使ってサントリナが転移魔術を発動させたようである。
「デューイ先生が消えた…?ロックスとガイルもいない!」
トーマがその場に誰が残っているか、存在確認する。
「それと、ジャイロ、クランベリー、シエンさんも消えてる…それだけじゃない、侵入者の3人もどこかへ行ってしまった…」
その場に残されたのは、シャーリー、シンリー、トーマ、ラインハート、レインの5人だった。
「ど、ど、どうしましょう!私達で居なくなった皆を手分けして探したほうがいいですよね⁈」
レインが慌てるが、ラインハートは彼女を落ち着かせるよう、彼女の肩にポンと手を置きながら冷静に答えた。
「それは得策ではないな。先ほどのサントリナという輩は、私達と手合わせをしたがっていた。
恐らく、任意の学生と教師のみを別の場所へ移動させたのだろう。
どこへ移動されたかも分からないのに、探し出すのは無謀極まりない。
それに、そんなことを言っている場合でもなさそうだ。
見てごらん、レディ・レイン」
ラインハートの指差す方向を見ると、青白い肌のアンデッドたちが、学園の鋼鉄の門をよじ登り、こちらへ近づいている。
「恐らく民間人がほとんどであろうな。
なるべく傷をつけずに、動きを制止させよう。
私たちの水魔術で凍らせれば、可能だろう。レイン?」
ラインハートがレインに軽くウィンクする。
「は、はい…!怖いですが、足止めくらいなら出来そうです!
皆さん、危ないですので下がってください!」
レインとラインハートは、被害の足止めのために闘うことを決意した。
「僕たちもラインハートとレインさんが攻撃しやすいように、道を作ろう。シャーリー、動ける?」
トーマがシャーリーに声をかけた。
「ん!僕も怖いけど…頑張る!シーちゃんから元気貰ったから、大丈夫!」
こうして、闇の反社会勢力との全面戦争の火蓋が切られるのだった。
―シエンたちは一体どこへいったのだろう?―
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
いよいよ反社会勢力との全面戦争です!
緊迫した場面が多いですが、所々ユーモアも入れるつもりです(笑)
次回もお楽しみに♪




