第31章 異常事態発生!安全圏へ逃げろ!
冬が近づき、大陸内ではある噂が流れていた。
それはシエンたちの生活にも影響されていき…?
寒さも近づき、紅葉で色づいていた葉っぱも散り終わった、粉雪舞う12月初旬。
このところ魔族世界では不穏な噂話が流れていた。
「ねえ、私この前私友達から聞いたんだけど、サンダーソニア領地で不審者が出たらしいよ」
「その不審者、『あー』しか言葉を発しないらしくて、皮膚が青白くって、大きな音に反応して魔族を襲うんだって」
嘘か本当か分からない噂話は真実味を増していき、
サンダーソニア領地の他にも古今東西の領地内で、不審者を目撃する情報が相次いでいた。
―1年Sクラス―
「諸君らも話には聞いているだろうが、ここ最近、各領地内で不審者の目撃情報が確認されている。
今から不審者に対する対策と、見つけた場合の処置方法についてのお知らせを配る。
この季節は日が暮れるのが早くなるため、放課後は居残りせずに早めに下校すること。
何かあればすぐに学園や担任の先生へ知らせることだ。…以上、解散!」
私はお知らせの紙に目を通してみた。
用紙には「不審者(以下、アンデッド)に噛みつかれると、アンデットと同様の体質になる」や
「感染症による症状の可能性があるため、日頃から手洗いうがいを徹底し、魔族の多い場所へ行くことは避ける」などと書かれてある。
アンデッドの特徴だけど…ゾンビと似ている気がする。
魔族世界にはゾンビの存在はなくて「アンデッド」って表現されるみたいだね。
「なんか、ちょっと怖いね…僕、アンデッドに噛まれるの嫌だなあ」
シャーリーの可愛い猫耳が垂れ下がっている。
「じゃあ、下校するときはなるべく大人数で帰ろうか。そのほうが安心でしょ?」
私がシャーリーを安心させるために提案してみたが、トーマが「止めたほうがいい」と制止した。
「このアンデッドの特徴だけど、『大きい音に反応する』って書いてある。不特定多数で歩けば、話し声も大きくなるから、狙われやすくなっちゃうよ」
言われてみれば、確かにそうだ。大勢いれば安心というのは少し安直すぎたかもしれない。
「確かに…そうだね。じゃあ、なにか不安なことがあったら、魔通信機で連絡取り合おうか」
「それなら、問題ないと思う」ようやくトーマの賛成意見をもらえた。
いつもならガイルが私達のやり取りを見下して突っかかってくることが多いが、彼はお知らせの紙を見るなり黙り込んでいる。
ガイル、どうしたのかな。何か考え事してるみたい。
その後、私達がアンデッドに警戒しながら学園に登校して2週間後、
アンデッドの数が急増し、学園はおろか公共施設まで封鎖されるという異常事態が起きてしまった。
*****
今年の年越しは実家に帰ることが難しいかもしれない。
そんなとりとめのないことを考えながら、私は自室のアパートで学園の教科書や参考書を読み漁っていた。
現在、私達プリムラ魔術学園の生徒は、学園から自宅待機で各々自習せよと通達が来ている。
そして私達だけでなく、大陸全土で外出の規制がかかっているようだ。
何か作業していないと落ち着かない。
窓の外を見ても、異常事態ということで誰も出歩いていないようだ。
ふと、前にも似たような出来事があったな、と私は過去を思い返していた。
「この世界に転生して…私が5歳の頃だったかな。その時もこんな感じだった…」
私は時間を持て余していたため、過去の出来事を思い返すことにした。
―10年前―
その年は各地で流行り病が流行していた。
一つの領地で病気が発生すると、山に囲まれているとはいえ、この世界は大陸続きなので、瞬く間に病魔の進行を許してしまう。
私の父はネメシスの領主様から直々に、病に効く薬を開発するよう命じられていた。
父は毎日、研究所で開発薬の研究に勤しみ、帰りが遅くなる日々が続いていた。
そして、私とお姉さまは外に出ることを禁じられ、窮屈な日々を送っていたのだ。
そんな時は、母がニコニコ笑いながら「お家で出来る遊びをいっぱいしましょう」と私達をあやしてくれていたのを、今でも覚えている。
そして、2カ月ほど時が過ぎた頃、程なくして特効薬が開発され、魔族の人々に薬が届き渡り、流行り病は無事に収束した。
しかし、特効薬が完成する前に、命を落とした魔族も大勢いた。
父の友人の奥さんも、特効薬が完成する前に帰らぬヒトとなってしまったのだと、母のサーシャから聞いたことがある。
「大勢の人達を助けられても、友人の大切な人さえ守ることができないなんて…私は薬師失格だよ」
そう落胆する父に対し、母が「自分をあまり責めないで」と優しく慰めているところを、こっそり見たことがある。
そして私たちにはいつも通りの日常が戻りつつあった。
だが、ひとつだけ変わってしまったことがある。
いつも我が家に遊びに来てくれていた男の子が、急に遊びに来なくなってしまったのだ。
「父様、いつも遊びに来ていたあの●●●は、もう来ないのですか」
男の子の名前は忘れてしまった。
いつも互いを呼び合っていたはずのに、なぜか思い出せない。
「ああ。あの子はね、お家の決まりで来られなくなってしまったんだ。…ごめんね、シエン」
父様は別に悪いわけではないのに、「ごめんね」と泣きながら私を抱きしめた。
「父様…?」
後で母に事の詳細を聞いても、「その話をすると、パパが泣いちゃうから言えないの」とはぐらかすばかりで、どうして男の子が来なくなったのか、家の決まりとは何なのか、真相は謎のまま時が過ぎていった。
―ピロリン♪
私は魔通信機の着信音で目を覚ました。どうやら過去を思い出しているうちに、うたた寝してしまったようだ。
魔通信機を確認するとガイルからメールが入っていた。
『今そっちにデューイの先公が向かっている。アパートの屋上へ急げ』
どういうことだろう。デューイ先生がこちらへやってくるということは、何か事態が急変したのだろうか。魔通信機を確認すると何回か着信が残っている。
私はガイルと連絡を取ろうと魔通信機を弄っていると、知らない番号から通話の着信がきた。
「はい。もしもし?」私は咄嗟に通話ボタンを押して、返事をした。
『シエン、今そちらへ向かっている。急いでアパートの屋上へ来い!5分以内に来なかったら、救助を断念する』
デューイ先生の声がした。事は一刻を争うようだ。
「わ、わかりました。…すぐに向かいます!」
私は急いで魔通信機を切り、冬用の上着を羽織り、必要な物だけ鞄に詰めて自室のアパートの扉を開ける。
でも、救助ってなに?そんなに異常事態が深刻化しているの?
アパートの扉を開けて外の様子を見ると、地獄絵図のような光景に背筋が凍った。
アンデッド化した魔族達が百鬼夜行のように「あー…あー…」と言いながらあちらこちらをうろついている。
「うわぁ…いつの間にこんなことに…」
私はなるべく不審者を刺激しないよう注意しながら、アパートの最上階へと階段を駆け上がる。
屋上へ来いって言われたけど、鍵がかかっているよね?たぶん…。
アパートの階段の最上部まで到達し、なんとか屋上の扉の前まで来た。
扉を開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。
「うまく出来るかな…やったことないから、分からないけど…」
私は指先から蔦を出現させ、扉の鍵穴にスルスルと入れ込む。
カチャリ。
扉の鍵が開いたようだ。
その時、アパートの階段下から「あー…」というアンデッドの声が聞こえきた。
こっちに近づいている⁈
急いで私は扉を開けて屋上へ出た。
「なんとか間に合ったか!急いで飛行バスへ乗れ!シエン・フロックス!」
デューイ先生が声を押し殺しながら、私を誘導してくれた。
翼の生えたスクールバスに乗り込み、私はホッと一安心した。
見慣れない生徒も中にはいたが、バスの中にシンリーの姿を見つけた。
「シエン、大丈夫か⁈良かった…うちのクラスでお前だけ中々連絡がつかなかったから、心配したんだぞ」
久しぶりに見る級友の姿に私は安心感を覚えた。
「心配かけてごめんね。連絡に気づくのが遅くなってしまって…」
思わぬところで級友たちに心配をかけてしまっていたようだ。
「…生徒の救出、D地域一帯完了しました。これより学園へ戻ります」
デューイ先生が無線機で学園に報告を入れている。
こうしてバスは空を急上昇し、プリムラ魔術学園へと発車するのだった。
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
いよいよこの物語も終盤に近付いてまいりました。
最後まで駆け抜けていきたいと思います!
次回もお楽しみに♪




