サイドストーリー 暴君王子とご奉仕メイド
長らくお休みしており、大変申し訳ございませんでした。
今回はサイドストーリーをお届けいたします。
学園祭が終わって日常が戻りつつある、とある秋の日。
シエンはガイルから呼び出されているようで…?
※今回はシエンの視点でストーリー展開しております。
※内容を一部修正しました。2026.10.30
学園祭が終わり、紅葉が美しい季節を迎える。
放課後、プリムラ魔術学園1年Sクラスの教室で、私はガイルから呼び出されていた。
「お前、夏休みの間に、俺の家に遊びに行く約束を忘れてただろ」
教室の端っこでガイルに詰め寄られ、私はハッと気がついた。
「そ、そんな約束したかなぁ~?」
しまった…有耶無耶にしてなかったことにしようと思っていたのに、まさか覚えていたとは。
「忘れたとは言わせねぇぞ。こっちはちゃんと言質取ってんだからな」
「ぐぬぬぬ…そ、その、ガイルの家に遊びに行くのって、絶対行かないとダメ?」
私は食い気味に下がった。
いくら級友とは言え、公爵家の家に遊びに行くのはさすがに気が引ける。
「あぁ?イヤなんか、お前。せっかく季節限定のアフタヌーンティーを用意しようとしてたんだけどなぁ…来ねぇなら仕方ないよなぁ?」
季節限定のアフテヌーンティー‼公爵家御用達のスイーツ!
「実は公爵家に行くことに緊張してただけです!行かせてください!ガイル様!」
私は高級スイーツに釣られ、ついガイルの家に行くことを許してしまった。
「食い物に釣られてんのが見え見えだけど…まあいいか。
後で連絡入れるから、都合の良い日を教えろよ」
「はーい♪」
高級スイーツが食べられることで私は上機嫌になり、気がつけば鼻歌まで歌っていた。
私たちのやり取りを遠目で見ていたクランベリーとロックスは、こそこそ話をしている。
「ガイルの奴、シエンを完全に餌付けしてるぞ。あれ、大丈夫か?」
「餌付けっていうより、シエンちゃんの機嫌の取り方を完全に把握しているね。二人の恋路はもう止められないZE!」
先ほどの光景を見ても、クランベリーはあまり嫉妬心を抱いてないように見える。
「クラン、お前はこれでいいのか?お前もシエンが好きなんだと思ってたけど」
ロックスが怪訝そうな顔でクランベリーに語りかける。
「フフン♪僕はね、確かにシエンちゃんは好きだけど、恋心とはちょっと違うんだって気づいちゃったんだ。僕の好きは『友達』としての好きだからさ」
クランベリーはなんだか楽しそうにしている。
「それは…やせ我慢とかじゃないよな?」
「違うよー。僕はシエンちゃんの好きなモノが好きなだけ。正直、ガイルは僕に意地悪するけど、本当は僕もガイルが好きなの~」
「そうなのか?」
ロックスが不思議そうにクランベリーを見つめる。
「そう。だからね、僕、二人には絶対幸せになってほしい。
もし、二人の幸せを邪魔する奴がいたら、全力で消しに行く」
そう言い放つクランベリーの表情は真剣そのもので、ロックスは思わず鳥肌が立ってしまった。
「なら、俺も似たようなもんかな」
「ふふ、僕たち同士だね♪」
落ち葉が舞い散る秋の日に、1年Sクラスの生徒たちは、互いに親睦を深めるのだった。
*****
11月中旬。私は馬車でダイアンサス公爵邸へ向かっていた。
身なりもいつもより上等なものを着用し、お土産に人気有名店の菓子の入った手提げ袋を掲げている。
「公爵邸に持っていく菓子折りなんて、どれを選べばいいか迷ったけど…スズナお姉さまに相談して正解だった…。危うく中途半端なお菓子を用意するところだったよ」
それに、いくら友達の家と言えど、世界の中枢を束ねる大貴族の家である。緊張しないわけがない。
山道の峠を下り、坂を降りて森林を抜けると大きな城が見えてきた。
「あれが、ダイアンサス邸か。規模がうちの家と全然違う…庭も広いし、建物も大きくて広そう」
私は事前にガイルへ訪問時刻を伝えていた。
馭者が門の前で用件を伝えると、中にいた警備員が門を開けてくれる。
門から邸宅まで道のりがあるので、そのまま馬車で進むことにした。
門からまっすぐ行き、左に折れてさらに進むと、本邸よりやや小さめの邸宅がそびえ立っていた。
「私が送れるのはここまでです。時間になったら、またお迎えに上がります」
馭者が馬車を降りるよう促してくれたので、私は「ありがとうございました」とお礼を言った。
おそらくここが、ガイルの邸宅なのだろう。本邸よりは小さめだが、ガイルが生活するには広すぎるくらいの大きさだ。
邸宅の玄関口へ進むと、執事の制服を着た鬼人で初老の男性が恭しく一礼してきた。
「ようこそ、ダイアンサス邸へ。私はガイル様専属の執事、アオキと申します」
「本日はお招きいただきありがとうございます。辺境伯爵家、シエン・フロックスと申します」
私は淑女らしく、スカートの両裾を持ちあげ、脚を軽く交差し挨拶をした。
「ガイル様が中でお待ちです。さあ、どうぞ」
私はアオキさんに招かれて邸宅の玄関ホールへと入っていった。
「あの、アオキさん。こちらお口に合えばよろしいのですが…
お土産を持ってきたので、皆様でどうぞお召し上がりください」
私はアオキさんに菓子折りの手提げを渡した。
「おやおや、これは。そんなにお気遣いいただかなくとも、良いですのに」
すると、玄関ホールの上からガイルの声がした。
「アオキ、せっかくシエンが持って来たんだ。素直に受け取って、他の執事やメイド達に配っておけ」
ガイルの恰好はいたって普通だった。
黒いハイネックのインナーにカジュアルなブルーのシャツを羽織っており、ジーンズを履いている。
「これはこれは、ガイル様。寛大なお心遣い、深く感謝いたします」
アオキは深々を頭を下げ、菓子折りを持ってどこか別の場所へと移動してしまった。
「シエン、こっちに上がってこい。俺の部屋へ案内する」
私は玄関から階段を上がり、ガイルの後をついていきながら邸宅内の廊下を歩いた。
「ここ広くて迷いそうだね…」
「そうだな。だから、俺の家ん中を物色しようとか、考えるなよ」
ガイルが釘を刺してくる。
「思わないよ、そんなこと。…もしかして、前にそういうことがあったの?」
「まあな、貴族社会にも色んな連中が居るからな。…ここだ、入れ」
そう言ってガイルは、通路の一番端の部屋へ私を招き入れる。
天蓋付きのベッドと、洋服ダンス、勉強机が端に設置され、部屋の中央にはソファとテーブルが用意されている。ガイルの部屋はどこか殺風景な雰囲気だった。
「実家に帰るときは、いつもここを使うの?」
「そうだよ。学園に入学する前はここでくつろいだり、家庭教師に勉強みてもらったりしてた」
私はグルっと部屋の様子を眺める。
「言い忘れてたが、お前には約束を反故にしようとした罰を受けてもらうからな」
「えぇ?また罰ゲームするの?」
確かに今回は約束をうやむやにしようとした私が完全に悪いが、嫌な予感しかしない。
「当たり前だろ。今回、お前には俺が特注で用意したメイド服に着替えてもらう。お前は今日一日だけ俺の『専属メイド』になってもらうからな」
また厄介なことを考え出したものである。
そしてガイルは、洋服ダンスをごそごそしながらメイド服一式を私に手渡しする。
「これを隣の部屋で着替えてこい。言っておくが、この屋敷から逃げられると思うなよ」
先ほどの「俺の専属メイド」という言葉に引っ掛かりを感じ、私は詳細を確認するためにガイルに質問した。
「ガイル専属のメイドって…ガイルの指示通りに動けってこと?」
「まあ、そういうことだ。俺の命令には必ず従ってもらう」
もう、嫌な予感しかしない!絶対危ないやつじゃん。スイーツに釣られた私がアホだった!
「お…お手柔らかにお願いします…」
「いいからさっさと着替えてこい。着替え終わったら、俺の部屋に入れ。ちゃんとノックしろよ」
この暴君王子め…気が進まないけど、やるしかないよね。
―数分後―
コンコンコン。
私は言われた通りメイド服に着替え、ガイルの部屋を3回ノックした。
「遅かったな…ふーん、案外割と似合ってるじゃねぇか」
ガイルが用意したメイド服は露出が目立つ衣装だった。
胸元が大きく空いており、スカート丈も短く、下着のショーツが見えそうである。
「ねぇ、このメイド服…サイズがぴったりなんだけどさ…私の服のサイズなんて、どうして知ってるの?」
少しだけ違和感を覚えたので、私はガイルに質問した。
「あ?まあ、それはその…なんだ…ちょっとした、その…」
ガイルがしどろもどろになっている。
「…そういえば、学園祭のとき採寸したけど…クラス全員の服のサイズを取りまとめてたのって、ロックスだったよね?もしかして、私の服のサイズ、聞いたの?」
ギクっと肩を震わせるガイル。やはり情報を横流ししていたか。
「もう、たかが服のサイズくらいでって思うかもしれないけど、これ、個人情報漏洩だからね!これがもし国家機密だったら、今頃ガイル、首を刎ねられてたかもしれないよ?」
私は今後のためにもガイルを注意した。
だが、ガイルは私の諫言が気に入らなかったようだ。
彼は怖い顔をして私に詰め寄り、じりじりと壁際へ誘導してくる。
「な、なに…どうかした?」
私の背中が壁にトンっと当たってしまう。
ガイルは私の顔のスレスレに腕を伸ばし、壁にドン!と手を当てた。
「あーあ…せっかく優しくしてやろうと思っていたのに…機嫌損ねた。これから俺の言うことにちゃんと従えよ。あと、俺には敬語を使え」
ガイルの目がぎらついている。まるで獲物を狩る獅子のようだ。
ちなみに、この場では私は「メイド」だから、ガイルの機嫌を損ねたら即アウトになっちゃうってわけか。
…難易度高くないか?この罰ゲーム。
「命令だ。まずは、俺の肩を揉め」
そう言ってガイルは部屋のソファに座り込む。
これって、ただのパシリじゃん。どういうつもりなんだろうね、全く…。
機嫌を損ねると碌なことにならないので、私はソファの後ろからガイルの肩を揉むことにした。
だがガイルの背が高いため、私の腕の位置とガイルの肩の位置がどうにも嚙み合わない。
これだと上手く力が入らないな…。
「あの…ガイル様」
「なんだ?」
少し反応が怖いけど、ひとつ提案してみよう。
「よろしければその…ガイル様にマッサージを施したいので、上のトップスを全て脱いでいただけますか?」
逆鱗に触れるか?このままいけるか?
「お前…意外と大胆なこと言うんだな。いいぜ、全部脱いでやるよ」
「あ、あの、上だけでいいですから!上だけ脱いだら、ベッドへうつ伏せになってください」
私は慌てながら、なんとかガイルに上のトップスだけ脱いでもらい、彼をベッドへ移動させた。
*****
「今からマッサージしますけど、痛かったら遠慮なく言ってくださいね」
「んー…分かった」
一応今はおとなしいが、いつ機嫌が損なわれるか分からない。
少し緊張を感じてはいるが、私はガイルの肩を優しく揉みほぐしていくことにした。
思った以上に肩こりが酷い。机に向かって勉強する時間が長いのだろう。
凝りが酷いところは念入りにほぐしていく。
「ん、そこ、いいな…。ん…。あー、気持ちいい…」
ガイルが気持ちよさそうにしている。
肩甲骨から背骨付近にかけて、幾つかツボも押していく。
しばらく念入りにマッサージを続けていると、いつの間にかガイルから寝息が聞こえてきた。
「気持ち良くて寝ちゃったかな…?」
ガイルが眠っているということは…。
この恥ずかしいメイド服をこっそり着替えるチャンス到来?!
私はガイルを起こさないよう、そっと彼から離れてベッドを降りようとした。
その時―。
後ろからパシっと腕を掴まれた。
「おい、どこへ行く?」
振り返ると、ガイルが私の腕を掴んでいる。しかし、なんだか嬉しそうな表情をしているように見えるのは気のせいだろうか。
「あ…ガイル様、起きていたのですか」
「あぁ?あんなの狸寝入りに決まってんだろうが。それより…」
ガイルはベッドの淵に座り込み、私を引き寄せて、自分の膝の上に座らせた。
「俺から逃げんなよ。もっと楽しもうぜ」
ガイルの膝の上に座らされ、後ろから耳元で囁かれる。
「んん…!耳元で喋らないで…」
ガイルの熱い吐息を感じ、私は顔に熱が集中してしまう。
おまけにガイルは私が逃げられないように、お腹周りを腕でがっちり抑えている。
「ガ、ガイル!離してよ、恥ずかしいって!」
「絶対に離さねぇ」
ガイルの真剣な声色に思わず胸がドキッと高鳴る。
「いいからこっち向け。もっとお前の可愛い顔を俺に見せろよ」
ガイルは真っすぐな目で私を見つめる。
熱っぽい視線を向けられ、私は羞恥心から思わず目を逸らしてしまった。
「目を逸らすな。ちゃんと俺の顔を見ろ」
ガイルは私の顎を右手で掴み、グイっと引き寄せてくる。
ガイルと私の顔の距離がだんだん近づく。
「俺は…お前が好きだ。シエン」
「私も、ガイルが好き」
ドクドクと心臓の音が鳴り響き、互いの吐息が絡み合う。
―その時―。
コンコンコン。
「ガイル様、お紅茶とアフタヌーンティーのご準備が…」
タイミング悪く執事のアオキさんが、ガイルの部屋の扉を開けてしまった。
「…お取込み中でございましたか、失礼しました」
パタンっと扉を閉めるアオキさん。
「…チッ。もうちょっとでいいところだったのに。アオキの奴、あとで絞める」
ガイルが残念そうに呟く。
「今のはしょうがないよ。ね、ねぇ…せっかくだから、私、スイーツ食べたいな…」
私は左手の人差し指と右手の人差し指を突き合わせながら、ガイルにおねだりしてみた。
「まあ、そういう約束だったしな。…俺も服を着るから、お前も隣の部屋で着替えてこい。後で一緒に食堂へ降りるぞ」
「うん!ありがとう、ガイル。すぐに着替えて来るね」
そしてその後、私達はアフタヌーンティーと紅茶をゆっくり楽しむのだった。
―自室のアパートにて―
ダイアンサス邸から馬車で帰り、自室のアパートに辿り着いた私は、今日の出来事を思い返していた。
「ガイルから…告白されて…私も自分の思いを伝えたけど…」
ガイルの勢いに流され「私も、ガイルが好き」と言ってしまったような気もする。
だが、胸の高鳴りが抑えきれない。
ガイルに告白されてから、ずっと胸が熱い。
「もしかして、自分でも気づかないうちに、ガイルを好きになっていた…?」
いつからだろう。彼を意識し始めたのは。始まりはあまり覚えていない。
けれど、ガイルと居るときはなんだか楽しい。
相変わらず口は悪いが、ガイルは嘘を言わない。
そんな彼の潔さと誠実さに、少しずつ惚れてしまったのかもしれない。
「顔が…熱い…今日は中々寝付けないかも…」
こういうときはホットミルクを飲むに限る。
せっかくだから、はちみつを入れてみよう。
私は心を落ち着けるため、ゆっくりとキッチンへ歩いていくのだった。
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
とうとう告白しちゃいましたね!お前らもう、付き合っちゃえよ!
次回からちょっと重たい話に入るので、少し小休止のお話を挟みたかったのです。
では、また次のお話でお会いしましょう♪




