第29章 フロックス家とガイルの誓い
1年Sクラスの出し物は、徐々に盛り上がりを見せている。
そんな折、シエンの家族が『体育会系ジャージメイド喫茶』へ足を運び…?
それから私たちの『体育会系ジャージメイド喫茶』は少しずつ『主様』が増えていき、お昼の12時頃には列ができ始めていた。
クランベリーが注文を取り違えたり、ガイルが料理におまじないを掛けるのをうっかり忘れてしまうなどのハプニングはあったが、なんとかピークを乗り越えることができた。
―午後2時―
「そろそろ『主様』の出入りも落ち着いてきたな。
じゃあ打ち合わせどおり、シャーリーとシエンは先に30分の休憩に行って来てくれ」
ロックスが私とシャーリーに声をかけた。
「やった~!やっと休憩~♪もう疲れてお腹ペコペコ。シーちゃん、一緒に学園祭見て周ろう!」
「うん、いいよー。じゃあ、お先に休憩入りまーす!」
皆に軽く挨拶をして、私とシャーリーは学園の出店を見に行くことにした。
シエンが休憩を出て約10分後、家族連れの3人組が『体育会系ジャージメイド喫茶』へ入店した。
「あのう、ここでうちの娘のシエン・フロックスが働いていると聞いたのですが…」
優しそうな鬼人の男性が受付で相談しに来た。
ちなみに今の時間帯は、ジャイロが受付担当である。
「あ、シエンのお父様でいらっしゃいますか。すみません、シエンは今休憩中で…」
「君にお父様と呼ばれる筋合いはないぞ!」
ジャイロの『お父様』発言が、レイモンドの琴線に触れてしまったようだ。
ジャイロは「た、大変失礼いたしました」とすぐさま謝罪をする。
「レイ、ここはシエンのクラスメイトさんが居る場所ですよ。失礼なことを言わないでくださいな」
横で見ていたサーシャはレイモンドを宥め、この場を丸く収めようとしている。
「う、うむ…すまないね。つい娘のこととなると熱くなる癖があって…」
レイモンドも正気を戻して、ジャイロに非礼を詫びた。
「ごめんなさいね、怖い思いさせちゃって。この人、娘のことになるとすぐ必死になっちゃうの」
左手を頬に充てて、困ったように笑うサーシャ。
「そ、そうでしたか…ご注文は何になさいますか?」
ジャイロは気を取り直して注文を聞き、オーダーをキッチンへ伝えた。
フロックス家の給仕はガイルが担当することになった。
珍しく彼から「俺にやらせてくれ」と言ってきたのだ。
「お久しぶりです、レイモンドおじさん」
ガイルが料理をテーブルに並べながら、レイモンドに話しかける。
「おお、ガイル君か。久しいな。親父さんは元気にしているかい?」
「ええ、相変わらず公務に忙しく、俺たちのことはほったらかしですけど」
二人の様子を見ていたスズナがガイルに話しかける。
「お前、あのガイルか?小さいころと随分様子が変わったな。一目見ただけじゃ全然分からなかったぞ」
「姐さんも、元気そうですね」
その時スズナは、真剣な表情でガイルを見据えた。
「ガイル。お前とシエンの間で色々あったのは、シエンからのメールで知っている。
言っておくけど、今後シエンを泣かせるようなことをしたら、私たちが黙ってないからな」
スズナの言葉がガイルの胸に刺さる。
だが、彼も毅然とした態度を取って言葉を紡いだ。
「俺にとって、シエンはとても大切な女性です。あいつは必ず俺が守ります」
その場に居た誰もが、ガイルの言葉に啞然とした。
「そうか…実は君にならシエンも任せてもいいと、常々思っていたんだよ」
サーシャはレイモンドが発狂しないか心配だったが、意外な発言に驚きを隠せない。
「父さん…コイツにシエンを取られてもいいのか?」
スズナがレイモンドに詰め寄る。
「そりゃあ、シエンがダイアンサス家に嫁入りするのは寂しいよ。
でもね、彼なら僕は安心して任せられると信じている。
だからガイル君も、僕らの期待を裏切るような真似だけはしないでほしいな」
レイモンドの言葉がガイルの心に重くのしかかる。
だが、シエンを好きになってから、とっくの昔に覚悟はできている。
「分かりました。レイモンドおじさんの言葉、しっかり胸に刻んでおきます」
「その言葉が聞けて嬉しいよ。…それに、僕は君に対して負い目があるからね。
さて暗い話はこのくらいにして、私たちもパンケーキをいただこうか」
フロックス一家が食べ始めたのを合図に、ガイルは「失礼します」と下がった。
「おい、聞いたか。ガイルの奴、『必ず俺が守ります』って言ってたぞ…」
「ぐふふ。僕ね、さっきの会話を全部、ボイスレコーダーで録音しちゃった」
ロックスとクランベリーが、仲良く悪だくみをしている。
他のクラスメイトもガイルの発言に驚いているが、
当のガイルは当然のことをしただけだと言わんばかりに、何事もなかったような涼しい顔をしている。
*****
1年Sクラスを出た後フロックス家一同は、偶然にも教室の廊下付近でシエンに出会うことができた。
「…父様、母様、スズナお姉さま!来てくださってありがとうございます!」
シエンは隣に居るシャーリーを友達として紹介しながら、家族との再会に胸を躍らせていた。
「やあ、君がシャーリーさんか。娘のシエンが世話になっているようだね」
「いえいえ。こちらこそです」ぺこりとシャーリーがお辞儀をした。
すると、サーシャが目を輝かせてシャーリーを見つめている。
「まあ、なんて可愛らしい猫耳!フワフワの毛並みね、素敵だわ。
シャーリーちゃん、良かったら今度うちに遊びにいらっしゃいな」
「えへへ、ありがとうございますにゃ~」
シャーリーはサーシャにあごの下を撫でられて、ご機嫌のようだ。
「しかし、入れ違いになっちまったなあ。
丁度さっき、シエンのクラスのメイド喫茶へ行ってきたんだよ」
スズナが残念そうにしている。
「あら、そうだったんですね。…うちのクラスの出し物はいかがでしたか?」
「パンケーキも飲み物も美味しかったよ。招待券を送ってくれてありがとう、シエン」
レイモンドがシエンの頭を撫でながら、彼女を褒めている。
「いえ、ご満足いただけたようで何よりです。また、近いうちに実家へ戻りますので」
「うん、わかった。いつでも帰っておいで。さあ、私たちはそろそろ行こうか」
そうしてフロックス一家は学園をあとにするのだった。
「シーちゃんは家族と話すとき、敬語を使うんだね」
シャーリーが意外そうにシエンに話しかけた。
「うん。昔からの癖なんだ。さぁ、もう戻ろう。休憩を交代しなきゃ」
こうして『主様』をお迎えしつつ、私たちの出し物は無事に成功することができた。
学園祭は17時に終わるので、その後は片付けに入った。
―明日は、学園祭の結果が発表される―。
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
レイモンドは相変わらず、娘を思うあまり暴走しております(笑)
ガイルには頑張ってもらいたいところですね。
次回はいよいよ、学園祭の売上結果発表です!お楽しみに♪




