第28章 隣人の助けとメイド喫茶
招待券を持て余すシエンだったが、とある人物が助けてくれるようで…?
そして、いよいよ学園祭が始まる!
シエンたちは無事に「体育会系ジャージメイド喫茶」を運営することができるのか?
―翌日―
今日は休日で、朝から予定もない一日だった。
朝食を終え、家事も一通り済んだ私は、自室でゴロゴロしていた。
「たまには玄関掃除でもしようかな」
私は自室のアパートから箒を用意して、玄関の掃き掃除を始めた。
すると、左隣のアパートの扉がキイっと開いた。
中からボサボサ頭のドワーフ族の男性が出てきた。お隣に住んでいるウコギさんだ。
ウコギさんの着ているTシャツには「わが人生に一遍の悔いなし」と魔族語で書かれてある。
この魔族世界でも、前世の世界で流行していたものが、時を同じくして流行するということが稀にある。
「あ、おはようございます」
私は咄嗟に挨拶をした。
「……」
ウコギさんはペコっと頭を下げて、会釈をする。
その時、私は脳内であることを閃いた。
「あ、あの、ウコギさん!良かったら、プリムラ魔術学園の学園祭にいらっしゃいませんか?
私、今回の学園祭で『体育会系ジャージメイド喫茶』をやるんです!…そのお嫌でなければ」
一か八か、伸るか反るか…私は思い切って賭けに出た。
「…学園祭に興味はないけど、『ジャージメイド喫茶』には興味がある。…いつなの?」
ウコギさんが喋った!
「えっと、10月31日です。一応土曜日ですけど、ご都合いかかですか?」
「…いいよ。行ってあげる。そのまま行って大丈夫なの?」
私は招待券をたまたま玄関口に置いていたため、
「ちょっと待ってください」とウコギさんに伝え、2枚分の招待券を彼に渡した。
「これが学園祭の招待券です。一応2枚お渡ししておきますね。
私、1年Sクラスですので、来てくださったらとても嬉しいです。よろしくお願いします」
ウコギは黙ってチケットを受け取り、「日にちが合えば、友達も連れて行く」と言い残し、
また自室の部屋へと戻ってしまった。
「とても不思議なヒトだけど…ちゃんと来てくれるかな。
お隣同士だけど、あんまり会話したことないんだよね」
とりあえず招待券をすべて消費できて、私は内心安心した。
「なんとか消費できてよかった…学園祭が終わったら、ただの紙切れになっちゃうもんね」
―学園祭当日。早朝―
今日は待ちに待った学園祭当日。
この日は例年、学園内がカラフルに彩られる。
私達1年Sクラスは、開店準備で慌ただしくしていた。
「パンケーキを焼く機材と、食材と…キッチンの準備は大体できたな」
シンリー、ジャイロ、ラインハートのキッチン組は準備が終わっているようだ。
レインも少し緊張しているが、受付・会計の準備を整え終わっている。
「残るはホール組か…準備はできたか?」
シンリーは様子を確認するため、ホールにいるメンバーを見渡すことにした。
ホール組はそれぞれ準備がバラバラだ。
シャーリーとロックス、クランベリーは着替えの準備を終えているが、トーマとガイルはフリルのエプロンを着るのを渋っている。
ちょうどシエンが着替えるように説得しているようだ。
「頭のかざりはいいから、エプロンだけでも着なよ。
ジャージだけだと、ただの『体育会系のお兄さん』になっちゃうでしょ」
私は二人にフリルのエプロンを着るよう説得するが、二人とも恥ずかしがってなかなか着ようとしない。
そこへクランベリーが私の隣にやって来た。
「シエンちゃん、カワイイね!エプロン姿、とっても良く似合ってるよ~」
「ありがとう。クランもよく似合ってるよ。あとで一緒に写真撮ろうか」
クランベリーはニコニコしながら私と話していたが、
「あれれ~?」とあざとい仕草をしながら、トーマとガイルを見比べる。
「二人とも、魔闘大会ではあーんなに大活躍したのに、フリルのエプロン着るの、恥ずかしくて出来ないんだ~?まあ、出来ないのはしょうがないよね~、僕には出来ちゃったけど」
相変わらずクランは煽るのが上手いなぁ。
私は助太刀にきたクランベリーを、感心しながら見ていた。
「あぁ?…クラン、お前何が言いてぇんだ」
ガイルが睨みをきかせてクランベリーに突っかかる。
「う~ん?君たち二人に出来なくて、僕には出来ちゃうこともあるんだなぁと思ってさ。
ねえ、シエンちゃん。トーマとガイルのジャージメイド姿、見てみたいよね?」
クランベリーはいきなり私に話を振ってきた。
「え?うん…そうだね。二人のジャージメイド姿を見てみたいし、
私も二人と一緒に御給仕したいなって思ってたんだけど…ダメかな?」
クランの煽りと私の後押しに効果があったのだろうか。
ガイルは溜息をつきながらも「貸せ」と言って、私が持っていたフリルのエプロンをはぎ取り、自ら着用し始めた。
「…僕もシエンさんと一緒なら、御給仕したい。
でも、エプロンの着方がいまいち分からないから、手伝ってほしい。…いいかな?」
トーマがおずおずと私に助けを求めてきた。
「もちろん!着るの手伝ってあげるよ。後ろを向いて。…リボン結びにするね」
こうして何とかホール組も準備を終えることができたのだった。
―午前9時55分。学園祭開始時刻5分前―
「よっしゃ。店開ける前に、まずは元気よく第一声!」
ホール組の私達は横一列に整列した。ロックスが私達ホール組の指揮を執る。
「「「お帰りなさいませ、主様‼」」」
全員でお決まりの挨拶を元気よく唱和する。
「では、主様が店を出て行かれる時は?」
「「「いってらっしゃいませ、主様‼」」」
「挨拶は大丈夫そうだな。あとは練習通りにやればOK。
問題が発生したら、すぐほかのスタッフに必ず報告してくれよな」
人生で初の接客業…!ちょっと緊張するな。
*****
それから、開店して10分も経たないうちに、お客様が2名入って来た。
「「「お帰りなさいませ、主様‼」」」
元気よく私達が挨拶すると、なんとウコギさんとそのお友達が来店してくれていた。
「ウコギさん!来てくださって、ありがとうございます!」
私は嬉しくて、自分からウコギさんに挨拶した。
ちなみにウコギさんのお友達は、眼鏡にシャツをズボンの中にインするという、典型的なオタクの恰好をしていた。
本当に来てくれるとは思わなかったが、知り合いが来るというのは正直に嬉しい。
「うん。来ちゃったの。なかなか良いコンセプトだね。シエンちゃんのオススメとか、ある?」
相変わらずのもじゃもじゃ頭だが、いつもより少しだけ身なりを整えているようだ。
「それなら、パンケーキと飲み物のセットがオススメです!あちらの受付でご注文ください」
「そっか。んじゃ、それにしよ。ありがとね」
そしてウコギさんとそのお友達は、二人でセットメニューを頼んでくれた。
ウコギさん達が席に座ったあと、ロックスが私に耳打ちしてくる。
「あの人、お前の知り合いなの?」
「うん。ウコギさんって言って、私の住んでいるアパートの隣の人なんだ」
ロックスは「へえ~」と感心したように相槌を打ち、その後キッチンへと入っていった。
数分後、「シエン、3番テーブルへお願い」とロックスから指示が入り、
私はウコギさんたちへ料理を運ぶ。
ちなみに、ウコギさんはセットメニューでイチゴの炭酸水。
お友達はブルーベリーの炭酸水の注文だ。
「では、お料理が美味しくなるおまじないを掛けさせていただきます!美味しくなぁれ、萌え萌えキュン!」
私は左手と右手の指でハートマークを作り、料理におまじないを掛けた。
「やっぱりメイド喫茶はこうでなくては!なあ、ウコギ氏!デュフフフ」
ウコギさんのお友達は、どうやら根っからのオタクのようだ。
「そうなの。実は僕、仕事で漫画を描いているんだけど、中々いい刺激をもらったよ。
今度シエンちゃんをモデルに新しいキャラクターを描いてみようかな」
「え、漫画家さんだったんですね!すごいです。今度どんな漫画か教えてくださいね」
私が楽しそうに接客をしている傍らで、ガイルとトーマが固まってしまっている。
「…おい、ロックス。料理が上手くなるまじないってヤツ、あれ絶対やらないとダメか?」
「うん?当たり前だろ。まあ、シエンみたいに可愛くやらなくても、
お前ら独自の萌え萌えキュンをやればいいんじゃね?」
「…こんなので誰が喜ぶんだよ…地獄じゃねぇか…」
萎れてしまっているガイルにロックスが提案をした。
「お前、自分のキャラコンセプトを忘れたのか?ガイルはツンデレでいいんだよ。
基本は塩対応で、萌え萌えキュンの時だけ恥ずかしく照れながら、おまじないかければいいじゃん」
するとトーマもロックスに提案を求めてきた。
「ぼ、僕はどんな感じで接客したらいいんだったけ…?」
「トーマはクールキャラだから、落ち着いて冷静に『萌え萌えキュン』をすればいいって事前に打ち合わせしただろ。
…二人とも大丈夫か?学園祭の雰囲気に飲まれて、自分を見失うなよ」
そしてロックスは二人の背中を叩いた。
「そら、新しい主様がお帰りだ。行ってこい!」
ここまで読んでくださり、いつもありがとうございます。
なんとも不安定な世の中になってまいりまいした。
こんな時こそファンタジー小説で心を潤していただけたら幸いです。
学園祭にはシエンの家族も参加しますよ~!次回もお楽しみに♪




